96 ヨコハマ決死隊
サバトラは動物病院で胃洗浄を受けると意識を取り戻した。
意識の混濁などはなかったが、念のため一晩入院し、翌日昼には俺たちに合流した。
それから3日後の1月6日、盗聴器で魔王軍横浜支部の様子を聞いていたチュン太から「動きがあったチュン!」との連絡があり、俺たちは集合した。
今は賢者ソースが世話になっている中華街の某有名店、その事務所を佐藤パパさんが交渉してお借りし、我ら動物軍の会合を行なっている。
メンバーは俺(勇者モフ)、賢者ソース、病み上がりのサバトラ、チュン太、魔王軍横浜支部で大活躍だった柴犬の豆之助、佐藤パパさん。
さらに賢者が近隣で声をかけた結果、地元横浜第1地区の副リーダーだというダルメシアンの双子兄弟「ファンキーとドンキー」の2匹。さらに横浜第2地区のリーダー猫、ノルウェージャンフォレストキャットの「ヴァイキング」が加わった。
簡単に説明しよう。
ダルメシアンとは白に黒ブチが特徴的な大型犬で、アニメ映画の「101匹わんちゃん」で有名な犬である。
そしてノルウェージャンフォレストキャットとは、ノルウェー原産の毛が長い大型猫である。
「さて、チュン太からの情報を元に、我と佐藤さんが情報を精査した結果をまず皆の衆に伝えておこう」
事務所にある中華料理の回転テーブルの上に乗っかった、でっぷりと貫禄のある賢者ソースが説明を始めた。
「魔王の使徒、シュナウザーはまだ姿を現しておらぬ。だが、その配下と思われる2匹の動物が相談をしている様子を、チュン太が確認した」
先日襲われた3匹の犬は、どれも会話ができそうな状態ではなかった。だが、普通に会話ができる動物もいるということになる。
あの「催眠剤入りの餌」を食べてないとすると、もしかしたら幹部クラスなのかもしれない。
「その会話の内容は、我ら動物軍の横浜第1地区の『殲滅作戦』じゃった」
「なにぃ?」「なんだとぉ?」
「ゆるさねぇ!」「返り討ちだ!」
声を揃えて、ダルメシアンのファンキー&ドンキーが交代交代で怒号を上げる。どうやらこの双子兄弟は熱しやすい性格っぽい。
「おいおい、それは穏やかじゃないね。いきなり殲滅作戦なのかい?」
こちらはノルウェージャンフォレストキャットのヴァイキングの発言だ。落ち着いたトーンの、クールな声色だ。
「殲滅作戦の決行日は、1月11日。現状112匹の横浜支部全員と、近隣から応援を呼んで、犬猫のみでも300匹規模になるということじゃ」
「300匹ぃ?」「マジかぁ?」
「ウチは戦えるの100匹いないぞぉ?」「どうすんだよ、これぇ?」
ファンキー&ドンキーが焦ったように喚き散らす。
「横浜第2地区も、戦える主力メンバーは50匹もいないね。このままじゃ勝ち目なさそうだけど、さあどうしたもんかね」
ヴァイキングがまるで他人事のようにクールに発言する。
「もちろん、近隣からもっと集めることはできよう。だが問題があるのじゃ」
「問題って、何だい?」
「お前たちが『主力メンバー』と思って数に数えているメンバーのうち、何匹かが敵に寝返っている可能性がある」
ダルメシアン双子兄弟が愕然とした表情で、再び喚いた。
「そんなワケねえだろうが!」「うちのメンバーが魔王軍に寝返るなんてありえねぇ!」
「君たち、これのニオイを嗅いでもらえるかい?」
佐藤パパさんが、懐からビニールに入れた例の「キャットフード」を一粒取り出し、ファンキー&ドンキー兄弟の鼻先に差し出した。
「なんだこりゃ?」「キャットフードじゃねぇか」「クンクン……あ、すごく美味そうなニオイだな」「佐藤さん、これ食べていいのか?」
佐藤さんはキャットフードを再びビニール袋に入れ直しながら言う。
「催眠剤入りで、食べたら君たちも魔王軍になっちゃうかもしれないけど、それでも良ければ」
「ニャンだと? 催眠剤が入っているっていうのかニャ?」
あらら、クールだったヴァイキングですら、驚いてニャンコ言葉になっちゃってるよ。
「これはね、僕たちが魔王軍の横浜支部から失敬してきたんだよ。これ食べると、意識が朦朧としちゃうんだ。で、奴らに言葉を吹き込まれたら、それで奴らの操り人形になっちゃうんだよ」
豆之助が説明を付け加えた。
猫のヴァイキングも犬の双子兄弟も、真剣な顔で黙り込んだ。
「なるほどね。味方だと思っていたら、いつの間にか魔王軍に取り込まれているかもしれないと、そういうわけか」
「エサで釣るのは卑怯だ!」「マジ許せねぇよ!」
横浜第1地区と第2地区で戦いに動員できそうなのは150匹弱。だがそのうち何匹が魔王軍に取り込まれているのか、それすら今はわからないのだ。
事態は想定以上に深刻だと、やっと3匹もわかったのである。
「そこで、だ。僕が考えた作戦を聞いてもらいたい」
佐藤パパが、事務所にあったホワイトボードに文字を書き始めた。
壱番隊……モフ隊長、サバトラ、ヴァイキング、横浜第2地区の精鋭2匹
弍番隊……豆之助隊長、ファンキー、ドンキー、横浜第1地区の精鋭2匹
「各隊5匹の少数精鋭で、1月11日の襲撃前日に、こちらから横浜支部を襲撃し、魔王軍を叩く」
「各隊5匹の合計10匹で、集まっている300匹を叩くってのか?」「佐藤さんヨォ、いくらなんでも少なすぎねぇか?」
ファンキー&ドンキーが息のあった疑問を投げかけてくる。
「もちろん、綿密な作戦は立てる。それよりも、現場で裏切られて総崩れという事態を避けるために、信用できる精鋭で戦いたい。各地区の精鋭は明日にでも選別して、各隊メンバーと行動を共にしてもらいたいと思う」
「わかったよ。信頼できるメンバーを敵に奪われないようにすると、そういうわけだね」
ヴァイキングが納得して頷く。双子犬たちも納得したようだ。
佐藤パパは、メンバーが書かれたホワイトボードの上に、さらに大きな文字を書いた。
『ヨコハマ決死隊』
その文字を見て、賢者ソースが大声を張り上げる。
「この戦いで我らが勝てば、魔王軍はもう総崩れじゃろう。決して負けられぬ戦いじゃ。ものども、気合を入れよ」
「「「「「オーーーー」」」」」
その場の全員が前足を振り上げて、応えた。
確かにこの戦いで『魔王の使徒』で四天王リーダーのミニチュアシュナウザーと、『魔王四天王』のドーベルマンを倒せば、残る敵は『魔王』のみだ。
思わず、身震いが起こる。
魔王、それはどんな存在なのか。
俺たち動物軍は、いや俺は、魔王と戦って勝てるのだろうか。
まだその正体も杳として知れないのに。




