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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第五章 ポメラニアンと魔王の邂逅
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95 豆之助の必殺技

 まるで狂犬病に罹った犬のように、血走った目で歯を剥き出しにし、ヨダレと白い泡を口から垂らしつつ豆之助に迫る、魔王軍と思われる3匹の犬。


 だが豆之助は目にも止まらぬ速さで3匹の牙を掻い潜り、階段を降りてきた犬たちよりも上に登ると、階段の踊り場で振り返った。


 すっくと立った豆之助は、頭を少し後ろに下げて大きく息を吸った。そして。


「ウォーーーーーン!」


 その体からは信じられない大声で吠える。

 すでにロッカーのある更衣室に入っていた俺だが、そのあまりの大音声に思わず背中に負っていたサバトラを落としてしまう。


 耳が、痛い。頭がガンガンする。まるで超音波のような吠え声だ。

 俺の後ろでパリン! という音がしたので振り返ると、俺たちが侵入してきた窓のガラスが割れて落ちている。

 豆之助の吠え声で、ガラスが割れたらしい。


 俺よりも至近距離でその吠え声を聞いた3匹の犬は、もっとダメージが大きそうだ。3匹のうち2匹が「ギャン!」と鳴くなり、階段を転げ落ちると2階の廊下でピクピクと失神している。あっという間に2匹撃破だ。


 だが、もう1匹の犬は頭を振りつつ、果敢にも再び階段を登ると、踊り場の豆之助に向かって牙を剥き出し、噛みつこうとした。


 その様子をずっと見ていた豆之助は、その牙を最小限の動きでサッと避ける。勢いづいた犬は踊り場の壁に激突しそうになって、たたらを踏んだ。


 次の瞬間、まるで雷光のように豆之助が犬に飛びかかり、後ろからその首筋にカブリ、と噛みついた。


「キャウン!」


 魔王軍の犬はたまらず声を上げて体を揺らし、首に噛みついた豆之助を振り落とそうとするが、豆之助はまったく離れない。

 喚き声を上げながらさらに大きく体を振ると、豆之助は口を自分から外し、ストリと踊り場に降り立つ。


 そして再び息を吸うと、あの超音波のような吠え声を上げた。


「ウォーーーーーン!」


 俺は息を吸う様子を見た瞬間、大きく伏せて、両前足で耳を塞いだ。

 だが再び至近距離で豆之助の吠え声を聞いた犬は、今度こそ耐えきれず、大きく「ギャン!」と鳴くと、その場に崩れ落ちた。


「知ってる? 僕ってケンカに負けたことが一度もないんだよ」


 キメ台詞を放ち、豆之助はゆったりと階段を降りてきた。倒れている犬たちにはもう見向きもしない。


 その様子を見た俺は耳から両前足を離す。耳を塞いでいても、頭が痛い。

 豆之助、侮りがたしだな。俺もあの声を至近距離で聞いたら、一発でノックアウトされてしまう気がする。


「すごいな豆之助。あの吠え声、まるで超音波みたいだな」

「ちょっとしたコツがあるんだよ。でも他の犬には真似できないと思うんだよ。僕は天才だからできるんだよ」


 コイツの大言壮語も、裏付けられた実力から来るものなのか、と俺は少し豆之助を見直した。


「とにかく助かった。これ以上の援軍が来る前に逃げよう」


 俺は再びサバトラを背負うと、魔王軍横浜支部にある廃ビルから脱出した。

 今回の潜入の収穫は3つあった。


 一つ目は、魔王軍の集会場のテーブル裏に盗聴器を取り付けたこと。

 二つ目は、少し食べたサバトラがぶっ倒れるほどの餌が、ビルの1階に大量にあったのを発見したこと。


 そして三つ目は、凶暴なまでに恐ろしい、豆之助の能力を見たことだった。

 俺は後に知ることになるのだが、この時、豆之助の能力を見ていなかったら、あの戦いで俺たち動物軍は全滅していたかもしれない。


 とにかく、収穫の多い潜入作戦だった。


 ◇◇◇


 横浜に戻り事情を説明すると、佐藤パパさんは慌てたようにサバトラを寝かせると、その口に手を突っ込んだ。


「ゴフッ、ゴフッ!」


 喉に手を突っ込まれたサバトラが激しく咳き込むが、パパさんは手を離そうとしない。サバトラはたまらず、咳き込みながら激しく嘔吐した。


「とにかく胃を空っぽにしないと」


 口に入れたあの餌を吐かせるつもりなのだろうが、傍目で見ているこっちも辛い。苦しそうにサバトラは咳き込み続け、もう口から胃液しか出ない状態になっている。


「ソース様、水を」


 賢者ソースが空き缶に水を汲んできていて、それをパパさんに渡す。

 パパさんは水を口に含むと、サバトラに口づけをして、水を流し込む。再びサバトラは苦しそうに「ゲフッ、ゲフッ」と咳をする。これで簡易的な胃洗浄をしているのだろう。


「応急処置は終わりだ。このまま救急の動物病院に連れていく」


 パパさんはサバトラを抱えタクシーに乗ると、一路動物病院に向かった。


「サバトラ、大丈夫ですかね……?」

「心配ない。食べた分はほとんど吐き出したと見える」


 賢者が重々しい体で、重々しく言った。


「モフよ、その餌、持ってきておるだろうな?」

「はい、数粒ですが」


 俺は首のバンダナに入れておいた、あのキャットフードをソースに渡す。ソースはしばらくそのニオイを嗅いでいたが、やがて納得したように頷いた。


「これは、催眠剤じゃな。これを食べて、朦朧とした意識になったところに、魔王の使徒が演説で意識を植え付け、操っとるのじゃろう」


 なんてことだ。魔王軍とは、もともとは普通の動物だということか。この餌によって催眠状態にされ、豆之助に向かってきた3匹の犬のように、おかしくなて魔王軍に変貌してしまうのか。


「僕は変なニオイがする餌は食べないから、操られなかったんだよ。他の動物はみんな愚かなんだよ」


 豆之助が澄ました顔で言う。


「……許せない。こんな方法、許せないよ!」


 怒りの感情が、心の奥底から湧き起こってくるのを感じる。あの『魔王の使徒』のやり口は、絶対に許せない。


「そうだな、モフ。だがお主らは盗聴器をうまく設置できたのだ。こちらも近隣の各地区から急いで援軍を呼びつつ、早々に今後の作戦を立てねばならぬな」


 横浜支部を潰せるかどうかは、まだ作戦も立てられず、援軍の規模もわからない今は決められない。


 だが少なくとも、あの危険な餌はすべて処分したい。催眠剤入りの餌はあれで全部ではないだろうが、この地区の魔王軍に多少のダメージは与えられるだろうし。


 賢者ソースは俺とチュン太と豆之助と4交代制で、横浜支部に仕掛けた盗聴器からの情報を聞くことに決めた。

 何か動きがあればすぐにソースに報告、指示を仰いで動くということだ。


 サバトラを戦線から欠いた俺たち動物軍だが、俺の士気は高かった。

 待っていろ、魔王の使徒であるシュナウザー。今度こそ、お前をぶっ倒してやる。

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