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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第五章 ポメラニアンと魔王の邂逅
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93 魔王の傀儡

 動物ショーを各地で開き、鎌倉の豪邸で無数の動物を集めている真王(しんおう)教。その本当の名前は、真王(まおう)教だというパパさんの話は、俺には衝撃だった。


「モフにはまだ話したことがないと思うから、説明するぞ。僕が所属する『組織』では、魔王の力がどんなものか、ある予想を立てている」

「魔王の力……」


 その時、俺はある話をサバトラから聞いたことを思い出していた。


 俺と賢者ソースとサバトラとチュン太が『進化の秘宝』を探して旅をしていた頃、大船観音の近くの一軒家に泊めてもらったことがある。そのときサバトラは、憧れの三毛猫・ロイエンさんから、こんな話を聞いたという。


(夢だからモヤモヤしてるんだけどさ。すっごい邪悪な何かが話しかけてくるんだ。『人間をコロせ』ってさ)


(悪夢は魔王の仕業じゃないか、ってね)


 後にサバトラからその話を聞いた時はにわかに信じられなかったが、魔王が夢で呼びかけてくる、そんなこともあり得るのだろうか。


「魔王は、《《動物の心を自在に操る》》ことができる。『組織』では、これまでの調査でそのような仮説を立てているんだ」

「例えば、夢の中で呼びかけて操るとか、そんなことってあると思いますか?」

「ああ、大船のロイエンさんの話だろ? サバトラくんから聞いたよ。僕は可能性が大いにある、と思っている」


 だとすると……ロイエンさんの身も危ない、ということにならないか?


「だとしたら、すぐにロイエンさんを保護しないとまずいんじゃないですか?」

「ロイエンさん? どこにいるのニャー!!」


 今まで死体のように眠っていたサバトラが跳ね起きた。


「サバトラ、うっさい。いま俺たちは大事な話してるんだ」

「サバトラくんも聞いてくれ。結論からいうと、ロイエンさんがすぐに危険になることはない。どうやら、夢だけでは操れないらしい、という結論がすでに組織内では結論づけられている」


 そうか、それなら一安心だ。それにしてもパパさんの組織って、調査力ハンパないな。一体、どんな組織なんだろう……?


「あとは、モフが言っていた『餌』も考えられる。でもね、僕が一番あり得ると思っているのは『匂い』なんだ」

「におい、ですか?」

「ああ。ある種の催眠ガスのようなものだね。例えば君たちが潜入した大聖堂に、定期的に催眠ガスが噴出するような仕掛けがあるとかね」


 魔王の力による、夢への干渉。何かの特殊な餌。そして催眠ガスのようなもの。なるほど、これだけ揃えば、操られても不思議はないと思える、が……。


 ここで俺は、パパさんの組織が本当に恐れていることに思い至った。


「パパさん、もしかして。それが揃えば、《《魔王は人間も操ることができる》》、ということですか?」

「ああ、それを『組織』は一番警戒している。というか、すでに操られているような人間の心当たりが、モフにもあるだろ?」


 俺は今までに会った人間で、魔王の側に属する人間を思い出す。


 まずは、魔王四天王だったチベット犬黒煙(ヘイヤン)の飼い主、恭子という女性。彼女は、黒煙と普通に話ができ、しかも黒煙とはまるでパートナーのような関係だったように思える。


 次に、駒沢公園で会ったスーツ姿のサラリーマンの男性。元魔王軍だったという柴犬の豆之助の飼い主。彼もたぶん魔王軍の息がかかっている。


 あと二人、これはまだ確定ではないが、六本木のペットショップ、ワンニャン王国の犬飼店長と、店に出入りしている動物医の髭田先生。くーちゃんによると、この二人は『魔王の使徒』ミニチュアシュナウザーと同じようなニオイがしていたという。


 そいつらが、すでに魔王の傀儡(かいらい)となっている可能性は高い。


「うん、何人かいるよね」

「もし鎌倉の大聖堂で、催眠ガスのようなものが噴出されて、モフとサバトラがそれを浴びていたら、どうなっていたと思う?」

「あ……」


 俺とサバトラは、そのまま魔王軍に取り込まれてしまっていた可能性もあるのだ。勇者である俺が魔王の側になってしまったら、一巻の終わりだ。


「だから僕は、君たちにすぐ逃げろと言ったのさ。これからはもっと慎重に行動しなくちゃダメだ。わかったかい?」

「ごめん、パパさん」


 知らなかったとはいえ、確かに不用意な行動だったことは反省しなければ。


「うん、今後気をつけてね、モフ。でも何故キミたちは、あんな辺鄙な場所にある家に忍び込んだりしたんだい?」


「あ、あの。ええと……」

「モフの恋人探しのためですニャー!」


 すぐさま俺は、尻尾で密告者サバトラに往復ビンタをした。


「痛いニャー! ほんとのことだニャー!」

「もうちょっと言い方あるだろうがよっ!」


 ワンワン、ニャーニャーと俺たちは上に下にと取っ組み合いのケンカになった。

 だが呆れたような表情で、賢者ソースが俺とサバトラの間に割って入る。


「やめんか、2匹とも。今は遊んどる場合ではないぞ!」


 珍しく大声で一喝するソース。俺たちはピタリとケンカをやめ、大人しく座り直した。


 その後、プーを探す情報集めの過程で、動物がたくさん住んでいる場所があると聞き、潜入した豪邸が『真王教の大聖堂』だったことを俺は説明した。


「なるほどね。その場所は僕の『組織』でも把握していなかった。だから僕はさっそく組織に報告して、そこの家に他のメンバーに行ってもらったんだ」


 すごく素早い対応だ、と俺は思う。何事も反応が遅い日本の組織ではありえないほどだ。


「だけど、そこはすでに奴らの手が回っていた。正確には、普通に住民票通りの人が住んでいたんだ。そうなると裁判所が出す捜査令状がないと、たとえ警察でも踏み込むことはできない」

「住人がいたんですか?」

「たぶん、監視カメラがあって、モフとサバトラの行動が筒抜けだったということだろうね。教団が急遽、担当の信者を呼び寄せたのだろう」


 となると、俺が電話していたこともバレていて、会話の内容も……?


「ああ。これから彼らは一層ガードを固めるだろう」


 くそっ、知らなかったとはいえ、大きなミスを犯してしまった。


「これからどうすれば良いんでしょう、パパさん」

「うん、それなんだけどね。モフが起きる前に、賢者様と相談して、一つ作戦を考えたんだ」


 さすがパパさんと賢者様、もうそこまで考えていたとは。


「その作戦って、どんな?」

「ねえ知ってる? その作戦には、ぼくが欠かせないんだよ。作戦のリーダーは僕なんだよ」


 突然割って入ったのは、アホ柴犬こと魔王軍脱走兵の豆之助だった。


「ぼくは頭が良くて力も強いし、魔王軍のことも一番知ってるんだよ。だからモフはぼくの言うことをよく聞いて行動しなければダメないんだよ」


「頭が良い」と自分で言う人間ほど「頭が悪く見える」現象ってあるよね、ああ、ウンザリする。

 でも仕方ない。今回はこのアホ犬が、どうやら俺の相棒になるらしい。

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