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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第五章 ポメラニアンと魔王の邂逅
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91 鎌倉どうぶつ大聖堂

 鎌倉市というのは、山が多い街だ。数多くの山を縫うように道路が走ってるが、山と山の間は行き止まりになっていることもある。

 地元民ならともかく、一見の観光客にとってはわかりづらい場所なのだ。


 そんな山に挟まれた行き止まりにある、一軒の豪邸。その豪邸は高い壁に阻まれ、まるで大名屋敷のような威容を湛えていた。


「たぶんここで間違いないニャ」

「そうだな。たしかに、いろんな動物が入り混じったニオイがする」


 あまり活躍することはないが、俺も一応犬である。ポメラニアンである。それなりに鼻は効くし、あくまで自分がメスであると言い張るアフロディーテが、生物学的にはオスであることも判別できる。


 その俺の嗅覚から得た情報によると、多数の犬・猫・うさぎ・ネズミ・ハト・カラス・スズメ・モグラなど、この辺りに生息している動物がオンパレードで住んでいる様子がわかるのだ。


「じゃ、まずは僕が一回偵察してくるニャ」

「頼むぞ、サバトラ」


 偵察任務は猫の方が相応しい。これはあらかじめ相談して決めていたことだった。俺は隣家の塀の陰に隠れ、豪邸の塀を軽やかに乗り越えていくサバトラを見たあと、この家について考える。


 この家の主人が、単なる動物好き、例えばムツゴロウさんのように、というのは考えられる。だが、いくら動物好きとはいえ、モグラやネズミ、スズメまで一緒に住むだろうか。それに動物そのものも、この家に住み着こうとはしないだろう。


 ならば、なぜこんなにも動物が1箇所にまとまって住んでいるのか。


 考えられる可能性の一つは、動物ブローカーだ。違法で野生動物を集め、大学や研究施設に売って儲ける業者で、反社会的勢力が経営していることも多い。単なる動物好きより、こっちの方が正解に近い気がするな。


 サバトラが偵察に出て、30分くらいは経っただろうか。

 なかなか戻ってこないので暇を持て余した俺は、隣家の塀から外に出て、豪邸の門の前まで歩いてみた。


 門は自動開閉式のシャッターになっていて、中は全く見えない。家の塀も結構高い。だが俺は、門の上にある違和感を見つけた。


「あ、あれってどこかで見たことあるよな……」


 変なマークと、アルファベットの組み合わせ。それは、こんな感じの図柄だ。



 M >――< O



 これ、どこで見たんだっけ? そんなに前ではない気がするけど……


「お待たせしたニャン。偵察完了したニャ」


 門の側の塀の上からサバトラが顔を出している。


「お前、ちょっと声デカくないか?」

「心配ないニャ。いま、門のスイッチを押すから、正面から堂々と入って欲しいニャ」

「おい、そんなの危ないだろ」

「大丈夫ニャンだな、これが。ちょっと待ってニャ」


 サバトラの顔が消えると、すぐに音を立ててシャッターが上に上がっていった。俺が門の中に入ると、サバトラは再びスイッチを押したらしく、今度はシャッターが下がっていく。


「おい、流石に正面はヤバくないか?」

「だから、心配ないニャ。人間は誰もいないんだニャ。ここは基本、動物だけが住んでいて、人間は週に1度しか来ないみたいだニャ」

「なんだそれ。餌はどうしてるんだよ」

「それは中に入ってのお楽しみだニャ」


 俺はあらためて門から豪邸とその前に広がる庭を見渡す。庭は日本庭園になっていて、広い芝生もあれば、大きな池もある。イメージとしては、昭和のフィクサーが住んでいる日本邸宅、と言えば伝わるだろうか。


 奇妙なことに、庭には1匹の動物もいない。この手の池には必ずいるはずの、鯉も飼われていない。庭木は手入れされていて綺麗なのだが、なんだか滅亡したばかりの地球に残された邸宅、といった雰囲気だ。


 俺はサバトラに案内され、これまた堂々と正面玄関から豪邸に入る。驚くことに、正面のドアは開けっぱなしだった。


「最初は何のワナかと疑ったニャ。でも違ったニャ」


 勝手知ったる家、という感じでサバトラは堂々と邸宅に入る。中に入った瞬間、俺の鼻に強烈な動物たちのニオイが飛び込んだ。


「うっ……すごい数だな、この中の動物」

「猫の僕でもクサイにゃ。犬は鼻がいいから大変だニャ」


 玄関から続く広い廊下の正面の部屋は障子になっている。障子には何箇所か穴が空いているが、荒れ果てた家、というほどではない。

 なんだろう、違和感があるのに、それほどでもないという感覚。普通といえば普通だし、変かというと少しだけ変、という感じ。つかみどころがないのだ。


「この中を見ると驚くニャ」

「どうせ、ここにたくさん動物がいるんだろ?」

「まあその通りなんだけど……まあ、見てみてニャ」


 サバトラは爪をひっかけ、器用に障子をスーッと開けると……


 部屋はものすごく広かった。大政奉還を行った江戸城の大広間、それより広そうだ。小学校の体育館、それを一回りほど小さくした広さ、といった感じだ。


 床はすべて畳張り。そしてその上には……


 数え切れないほどの犬・猫・うさぎ・ネズミ・ハト・カラス・スズメ・ハムスター・フェレット、その他名前も知らない動物たちが、大人しく座ったり、寝たり、転がっていた。


 その膨大な数を除けば、動物たちの行動に違和感はない。眠っていない動物たちは、俺たちの姿に気づいて「何だろう?」というふうに見てくる動物もいれば、すぐに興味なさそうに目をそらす動物もいる。


「サバトラ、この数は……それより、コイツら……」

「うん。誰一人、言葉を話さないって思ったんじゃニャいか?」


 そうだ。これだけの数の動物がいるのに、誰一匹、会話の一つもしていないのだ。こんなにくつろいだ雰囲気なのに、鳴き声の一つも出さないのだ。


「でもね、話せないわけじゃないニャ」


 そう言うと、サバトラは近くに座ってこちらを見ていた猫に話しかける。


「こんにちはニャ!」

「ああ、こんにちは」


 その猫は、一言返したかと思うと、興味を失ったかのように伏せて、目を閉じる。


「ね? どの動物に話しかけても、ちゃんと質問には答えてくれるん二ャ」


 俺はそのまま部屋の中に入り、座っていたシェパードに話しかけてみた。


「みんな、ここで何してるんだい?」


 シェパードは俺をチラリと見ると、少し面倒そうに答えた。


「何って? まだ餌の時間じゃないから、餌の時間を待ってるんだよ」


 言うと、シェパードはつまらなそうに部屋の奥へと歩いていく。


「僕の言った通りだろ? ちなみに餌は、大型の動物が当番制で、餌の時間になったら準備してくれるんだって」


 おかしい。これは、間違いなくおかしな状況だ。

 無気力というか、生気がないというか。

 とにかくここにいる動物たちは、自分の意思を持って行動していない気がする。


 まるで、そう、何かに操られているように。


 ブルリ、と思わず体が震えた。この部屋にいる、数え切れないほどの動物。これらの動物すべてが「何か」に操られているとしたら。


 その「何か」が「魔王」によるものだとしたら。


「なあサバトラ、ここに長居するのはやめよう。なんかヤバい気が……」


 そこまで話した時、俺は居間の奥に、大きな文字とマークが書いてある看板を見つけた。その看板には、こう書いてあった。


 真王教 鎌倉支部 動物大聖堂

 M >――< O


 このマーク……やっと思い出した。

 二子玉川の河川敷で、動物ショーを無料で行っていた団体。その時、看板に書いてあったマークだ。


 魔王四天王のツキノワグマ、球磨嵐が檻から逃げ出したことで管理責任を問われ、のちに記者会見で謝罪していた団体でもあったっけな。


 その団体が「真王(しんおう)教」という名の新興宗教団体だということを、このとき俺は初めて知ったのだった。

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