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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第五章 ポメラニアンと魔王の邂逅
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85 けんかをやめて

 佐藤家が住むメゾネットタイプのアパート横にある竹藪、その前の道路。

 そこで待ち受けていた影が俺に話しかけた。


「モフ、待っていたぞ」


 俺はその声を聞いて、すぐにその動物が何者かを知った。


「チャトラン、どうしたんだ、こんな夜遅くに」

「いや、おまえの家を訪ねたら不在でな。帰りを待っていた」

「どうした、何かあったのか?」


 虎柄の大猫で、この辺りの猫の女帝であるチャトランは、音も立てずに俺のすぐそばにやってきた。


「おまえに頼みというか、話、があってな。急ぎではないんだが」

「なに? やっぱり何か事件でもあったのか?」

「この前、アフロディーテ様と会ったとき、言われたんだ」


 あの姫、アフロディーテが何を言ったというのだ? なんだかちょっとトラブルの匂いがしてきたなぁ……


「モフ。あの新二子橋の戦いのとき、私がおまえを呼びに行ったのを覚えているだろう?」

「ん、もちろん覚えてる。あれからずっと戦い詰めだった夜だよな」

「そうだ。あの時おまえ、あのバカメス犬のナツキと何か話してたよな」


 バカメス犬……やっぱりチャトランはナツキのことがよっぽど嫌いなんだな。


「その時の会話を、実はアフロディーテ様が聞いておってな」

「は? あの時アイツはすぐに帰ったはずだけど……」

「アフロディーテ様はああ見えて、周囲の色恋沙汰が大好物でな。おまえとナツキの話を、隠れてずっと見聞きしていたというのだ」


 おいアフロ姫、何してくれてんねん! お前、そんな覗き大好きキャラだったんかい!


「そ、そうなんだ。ということは、俺たちの話は……」

「ああ、全部アフロディーテ様から聞いた。一言一句違わず、な」


 あちゃー。ナツキが俺に告白していたのを知ってしまったか……


「アフロディーテ様はいたく悔しがっておられた。私が邪魔をしたせいで、せっかくの告白シーンが最後まで見られなかった、とな」

「なんだんだよ、アイツ!」

「で、おまえは何と答えるつもりだったんだ?」


 ギロリ、とチャトランは俺を睨むように訪ねた。ちょ、ちょっと怖いって。そもそも俺とチャトランさん、別に付き合っているという訳じゃないじゃん。それなのに、浮気男を責め立てるようなその目つきはヤメテ! 心臓に悪いよぉ。


「……まあいい。それは、おまえが決めることだ。私が口を挟むことではないな」

「あ、ああ。そうだね」


 ホッ、と俺は胸をなでおろした。チャトランさん、怒ると怖いからなー。


「で、だ。私もこの際、おまえにハッキリと伝えておきたい。私は猫だが、おまえが好きだ。子供は作れないが、一生お前と添い遂げたいと思っている」


 豪速球のストレート球がど真ん中に投げ込まれた。俺は、この豪速球をどう処理したらいいんだ?


「あ、あのね、チャトランさん」


 ギロリ、と再びチャトランは強い眼差しで俺を睨むように見た。だから、怖いって。


「俺ね、あの。実はね……」

「実は、私のことが好きなのぉ!?」


 後ろから可愛らしい大声が突然投げかけられた。


「キャン!」


 今度こそ心臓が口から飛び出そうになった。いや少しぐらい飛び出た気がする。慌てて声のした方を振り返ると、そこにはなんと、可愛らしいヨークシャー・テリアのナツキが、うるうるした瞳で立っていた。


「そうなの? その化け猫じゃなくて、実は私のことが好きなの?」

「誰が化け猫だ、クソガキ!」

「ナツキ、おまえ、なんでこんな時間に……」

「だって、ニュースでモフくんが死んだって言ってて。わたし泣きながらここに来たのよ。そしたら生きてて、そのオバタリアンに迫られてたから……」

「誰がオバタリアンだ、メスガキ! ぬっころすぞ!」


 あああ、なんだかメチャクチャだ。

 全身の毛を逆立て、本当に化け猫みたいになって戦闘体制をとるチャトランと、尻尾をピンと立て、唸り声を上げるナツキが、まさに今ラグナロクを起こそう、といった体で向き合っている。


「ちょっと2匹とも。けんかをやめて!」

「お前は黙ってろ!」「モフは黙ってて!」


 メス2匹は揃って怖い顔で俺に怒鳴った。2匹とも、ガチで怖いっすよぉ……


 と、そこに。のんびりとした男性の声が割って入った。


「どうしたんだい、こんな夜中に。チャトランさんと、あとキミは隣の地区のナツキちゃんだったっけ?」


 それは、パジャマ姿の佐藤パパさんだった。日本語ではなく、動物語で2匹に話しかけている。


「夜中に猫のブミャーって鳴き声と、犬のキャンキャンって鳴き声がうるさくてね、目覚めちゃったよ。近所迷惑だから、やめてもらえるかな?」

「あ、それはすまない……」

「ご、ごめんなさい……」


 人間の大人に動物語でキッチリと非を指摘され、チャトランもナツキも冷静さを取り戻したらしい。確かに今は真夜中、ギャーギャー喧嘩をして騒ぎ立てる時間ではない。


「ま、ちょっとだけ話を聞いていたから、佐藤のおじさんから2匹に忠告しておくよ。うちのモフは奥手だから、相手からガンガン言ってくる女の子は苦手だよ?」


「ニャンと?」「ワフン?」


 2匹が目を丸くした。おっとパパさん、俺そんな女性の好みの話、したことあったっけ? ま、嘘も方便ってやつか、さすがだよ。

 2匹はすっかりシュンと項垂(うなだ)れてしまい、やがて言った。


「モフ、すまない。今夜はこれで失礼させてもらう」

「……私も帰る。ごめんね、変なこと言っちゃって」


 虎柄の大猫とヨークシャー・テリアは、二手に分かれてとぼとぼと立ち去っていった。あらら、2匹ともすっかりしょげ返っちゃってるね……


「とにかくパパさん、助かったよ」

「モテる男はつらいねぇ、モフ」


 俺たちは顔を見合わせ、なんとなく笑い合った。前世でも飼い主と飼い犬の関係だった俺たちだ。今は立場が逆になってしまったが、やはりこんなところは気持ちが通じ合うな。やっぱいいな、男同士って。


「ところでパパさん、ちょっと相談したいことがあるんだけど」

「うん? 何だい?」

「ワンニャン王国のことで」


 パパさんは眉根をひそめて、真剣な顔で俺に言った。


「……ちょっと、家で続きを聞こうか」

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