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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第五章 ポメラニアンと魔王の邂逅
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84 ワンニャン王国の謎

「やらなければならないこと」を羅列してみたが、「魔王を探す」は佐藤パパさんと一緒に横浜に行くことになっているから、その時でいいだろう。


 六本木の「ワンニャン王国について」は、これも俺一人で調べるには荷が重い。まずはあの時に現場にいた2匹の犬に聞いてみるのが良いだろう。


 そして「プーを探しにいく」、これはまず湘南第4地区という場所がどこかを特定し、事前調査をする。それからでないと難しいだろう。


 まあ、勇者ではあるが普段は一介の飼い犬にすぎない俺が今できることは、ワンニャン王国のことを調べることぐらいか。


 ということで、まずはあの新二子橋の戦いで、俺に『進化の秘宝』を持ってきてくれた、シェトランド・シープドッグのアフロディーテ姫のところにでも行ってみるか。


 あ、ちなみに『進化の秘宝』は、今はくーちゃんに預かってもらっている。もし何かあったとき、一番武力的に頼りになるのはくーちゃんだから、というのがウシダ師匠の判断だ。まあしばらくは魔王軍は大人しくしているだろう、との予想もあるので、多分大丈夫だろう。


 ◇◇◇


 ということで、その夜。

 自称世界一美しい犬であるアフロディーテの住む一軒家までトコトコ歩いてきた俺は、小高い場所にあるその家から道路に伸びる階段の下にいた。


 ええと、確かアフロディーテは、遊びにきたら「ウチの爺やに一声かけるといいわ」とか言ってたよな。でも爺やって、なんだ?

 まあ普通に考えれば、元はお姫様だというアフロディーテの執事とか、そんな感じだろう。俺は息を軽く吸うと、階段の上に吠えかけてみた。


「ワン、ワンワン!」(こんばんは、アフロディーテさんいらっしゃいますか?)


 バサバサバサッ。俺が吠えた次の瞬間、鋭い羽音がした。

 と、柄の向こうから何か黒っぽい鳥のようなモノが、俺めがけて飛んでくる。


「何者じゃ! 姫はもうお休みになられておる。日を改めよ」


 それは、コウモリだった。


 説明しよう。

 東京にコウモリ? と思うかも知れないが、東京にコウモリは多数生息している。アブラコウモリと呼ばれる種類が主であり、川や池のある場所には結構な数が生息していることが多いのである。


「俺、勇者モフと言います。アフロディーテさんの相棒なのですが、なんとかお取次ぎ願えませんかね」


 チチチッ、と何かが擦れるような音がした。これは俺も聞き覚えがある。人間時代、飼い犬のモップと多摩川沿いの散歩をしていると、コウモリの群れが数十匹単位で飛び回っていて、このような鳴き声を発していたからだ。


「おぬし、なんと恐ろしいことを! 以前、夜9時を過ぎた姫を強引に起こしにきた賢者ソース殿は、翌日アフロディーテ様のマッサージ、3時間の刑に処せられたのだぞ?」


 は? 賢者ソース様が、アフロディーテのマッサージを3時間もしたの?

 賢者って肩書きの人がやるべきことじゃないだろ、それ……

 そっか、もしかしたらその事件があったせいで「一の家来」にさせられたのかもしれないな。


「なんでそんなに早く寝るんですか、アフロディーテさんは?」

「姫の言うことには『夜更かしは美容の大敵』だそうじゃ」


 あの犬、生き方がブレないなぁ。

 これ以上粘ってもコウモリの爺やさんは一歩も引き下がりそうにないので、俺は早々に諦め、もう1匹の家に向かうことにした。


 ◇◇◇


 やってきたのは、隣の地区に住む、お馴染みのくーちゃん宅だ。

 怪我をしていた時はここでお世話になっていたので、もはや勝手知ったる場所と言っても過言ではない。


 いつも開いている縁側の隙間を通り抜け、くーちゃんがいる居間に入ると、この日はすでにおじいさんもおばあさんも床についたらしく、いなかった。


 ただ1匹、くーちゃんだけが小さい牛骨をガリガリかじりながら、テレビを見ていた。番組はTBSの「筑紫哲也のNEWS23」だ。この犬、一丁前にニュースなんぞ見てやがるぞ?


 説明しよう。

 1989年10月、令和の世でも続いているニュース番組が産声を上げた。それが「筑紫哲也のNEWS23」で、元朝日新聞社の筑紫哲也がキャスターを務める硬派のニュース番組である。

 ちなみに筑紫さんは2008年に逝去し、その後番組は「NEWS23」と名前を変えたのである。


「くーちゃん、何見てんだ?」


 くーちゃんは首だけをこちらに向けて答えた。


「モフ。おれ、ニュース見てた。かなしい事件、いっぱい」

「どんな事件があったんだ?」

「弁護士さん、家族と一緒にいなくなった」


 弁護士が一家揃って失踪? なんだっけ、それ。なんか聞いたことがあるような気もするけど。でもバブル時代の失踪って、だいたい不動産を騙し取られて借金で首が回らなくなったとか、ギャンブルで身を持ち崩すとか、そういうのが多かった気もする。


「そっか。いろんな事件あるよな。ところで、聞きたいことがあったんだけど」

「なんだ? テレビ消すから待て」


 くーちゃんはリモコンでテレビを消し、俺の方を向いた。こいつ、こういうところ結構律儀だよね。


「くーちゃんはさ、六本木のペットショップ時代のこと、覚えてる?」

「おぼえてる。おれ、記憶すごい」

「そっか。あのペットショップにいた動物ってさ、転生者だったり魔王の使徒だったり、いろんな奴いたじゃない? なぜそんなことになったのか、心当たりないかな?」

「こころあたり……」


 くーちゃんは頭をひねり、黙って真剣に思い出そうとしているようだ。見た目はチワワがちょっとお腹壊したのかな? みたいに見えるのがちょっとカワイイ。


「おれ、まおうの使徒、イヤなニオイしてるのを覚えてる。すごく、イヤな感じした」


 俺は少し驚いた。このチワワ、くーちゃんは幼犬時代、すでに魔王に関わることを臭いで判別していたのだろうか。


「イヤな臭いって、どんな感じだったんだ?」

「おまえや賢者、キレイな犬、みんないいニオイだった。でもアイツだけ、吠えたくなる。イライラするイヤなニオイだった」


 俺たちはいい臭いで、魔王の使徒であるミニチュアシュナウザーだけ嫌な臭いだったというのか。うーん、イマイチ決め手に欠けるなぁ。


「あと、店長。アイツも同じ、イヤなニオイしてた」


 心臓がドキリ、と音を立てた気がした。

 ワンニャン王国の店長、名前は確か「犬飼」さん。まるで仮名のような嘘くさい名前の男。その男も「魔王の使徒」と同じニオイがしたというのか?


「もうひとりイヤなニオイ、いた。動物のお医者さん、アイツもイヤなニオイだった」


 動物の医者……たしか「髭田」とかいう名前だった。イケメンで、女性店員の猫田さんが憧れている医者だったな。アイツからも嫌な臭いがしていたのか。


「ということは、くーちゃん。魔王の使徒、店長の犬飼、動物医の髭田、こいつらは同じ嫌な臭いがしていた。だから、もしかしたらみんな魔王の仲間かもしれない、そういうことか?」

「それは、わからない。おれ、あまり頭よくない。同じニオイしていた、それだけ」

「それ、誰かに話したことあるか、くーちゃん?」

「おれ、日本語ヘタ。まいにちテレビでベンキョしてる。だから前は、だれにも話してない」


 これは、すごく重要な情報だ。すぐに誰かに相談しなければならないな。こんなとき賢者ソースがいればいいのにと思ったが、まずはモップ、いや佐藤のパパさんにでも相談してみよう。


「ありがとう、くーちゃん。さっそく佐藤パパさんに相談してみる」

「役に立ったか。気をつけて帰れ。夜は、あぶない」


 俺はくーちゃん宅を出ると、夜道を全速力で走った。

 俺の予想通り、あの六本木のペットショップ「ワンニャン王国」は、魔王となんらかの繋がりがありそうだ。

 きっとパパさんなら、何か調べてくれるに違いない。


 10分ほどで俺は自宅近くの竹藪前にやってきた。

 すると竹藪前の道路に、何かの動物の影が見えた。ちょうど電灯が逆光となり、その姿はよく見えない。


「誰だ?」


 俺は警戒体制を取り、誰何する。

 その動物はゆらり、と立ち上がり、俺に話しかけた。


「モフ。待っていたぞ」


 俺はその声を聞いて、すぐにその動物が何者かを知った。

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