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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第四章 勇者犬、芸能界デビューする
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75 猛獣脱走のニュース

 昭和ギャルっぽかったヨークシャー・テリアのナツキから、突然のマジ告白。

 当然俺は困惑するしかない。


「あ、あのさ、ナツキ。なんで突然そんなこと言うの?」

「だって、初めてテレビで見た時に一目惚れだったんだもん! 仕方ないじゃん。で、とつぜん多摩川沿いでバッタリ会って、で、テンション上がっちゃって。だから変なこともたくさん言っちゃって、嫌われているかもだけど、好きなんだもん!」


 ヤバい、これガチのストレート告白だ。少し心が動いてしまう。

 目の前には、可愛らしいヨークシャー・テリアのうるうるした瞳。どうしようもないギャルかと思ってたら、実は純粋で恋する女の子(メス犬)だったなんて。ギャルは意外に純粋ってやつ?


 いや、ダメだ。

 突然の告白に心を動かされてはいけない。何しろ俺には、心に決めた女性(メス犬)がいる。彼女を裏切るわけにはいかない。ここは俺の気持ちを、ちゃんと伝えておかないと。


「あのさ、ナツキ」

「……なに? イヤだからね。断るとか、ごめんとか」


 機先を制されてしまった。

 いやいや、ここでキッチリ言っておかないと。グダグダして流されて、結局あとで後悔したことが人間時代には何度もある。

 今は言いづらいけど、ちゃんと断ろう。


「俺な、実は……」

「こんなとこにいたのか! モフ」


 俺とナツキの横に風のように現れた、虎柄の大猫。

 もちろんそれはチャトランの姿だ。いつも優雅で冷静なはずの彼女が、なぜか息を切らしている。


「ちょ、ちょっと何よアンタ! また邪魔しにきたわけ?」


 ナツキが怒ったようにチャトランに話しかける。だがチャトランは。


「すまん、今は一刻を争う。お前と話している暇はない」


 そう言うと、チャトランは俺の目をまっすぐ見ながら一気に言った。


「いま、テレビのニュースで速報が流れていた。あのツキノワグマが檻を壊し、脱走したそうだ」


 あのツキノワグマ……それはもちろん、動物ショーの時に話した球磨嵐(くまあらし)のことに間違いない。


「チャトラン、あいつはどこで逃げ出したんだ?」

「府中、東京競馬場だ。そのまま多摩川の方に逃げ出したらしい。奴の狙いがお前ならば、1時間もせずにここに現れる」

「1時間!?」


 俺たちの会話を聞き、ナツキも事態の深刻さを飲み込んだらしい。慌てた顔で俺に言う。


「まずいよ、モフくん。もしあれだったら、私の家に隠れる?」

「いや、ナツキ。俺はまず、18地区の主、ウシダ師匠と対策を練らないと。もし球磨嵐(くまあらし)の狙いが俺だとすると、俺がいないと他の動物に迷惑がかかってしまう」

「そんな……」

「とにかく急ごう、モフ」


 俺とチャトランは竹藪前の道路から、急いで多摩川のウシダの棲み家に向かう。


 一体なんだってんだ。チベット犬の黒煙のことだけでも手一杯だというのに、まだ正体が知れないツキノワグマの球磨嵐(くまあらし)まで敵に回るかもしれないだなんて。


 多摩川の土手を越えたところで、ウシダの棲み家の方角から、1匹の野良犬が走ってくるのが見えた。なんだか、とてもイヤな予感がする。すぐにチャトランが大声で呼びかけた。


「おい、どうしたんだ?」

「チャトラン様! 主が、ウシダ様が、チベット犬の黒煙(ヘイヤン)に掠われてしまいました!」

「なにぃ? あれほどの数で守っていたのに、さらわれただと?」


 チャトランが激昂する。


「お前たち、何をやっていたんだ?」

「違うんです、チャトラン様。ウシダ様は、自らの意思で『お前の望む戦士のところに連れて行こう』って黒煙(ヘイヤン)に言って、それでヤツの背中に乗って、多摩川17地区の方に消えていったんです」


 またしても突然現れた黒煙(ヘイヤン)の狙いは、前回と同じく「戦士」、つまりチワワのくーちゃんの居所らしい。


 でもウシダ師匠ほどの方が、自分の地区の犠牲を抑えるため、俺たちの希望の戦力であるくーちゃんを犠牲にするとは思えない。

 きっと、何か作戦があると思いたい。


「他に、何かウシダ様は言っていなかったのか?」


 チャトランが野良犬に聞くと、彼は思い出そうとウー、と一瞬唸った後、ハッと気付いたように言った。


「言ってました。多摩川19地区の方からもう1匹来る、と」

球磨嵐(くまあらし)のことか……」


 ツキノワグマの球磨嵐(くまあらし)の狙いは、多分俺だ。つまり、奴はまもなくこの多摩川18地区にやってくる。


 チベット犬の黒煙(ヘイヤン)球磨嵐(くまあらし)と連動して動いているのかはわからない。だが、多摩川18地区にやっかいな奴らが揃えば、俺たち動物軍は全滅する可能性だってある。


「くっ、とは言え苦慮の策には違いない。仕方ない、もし球磨嵐(くまあらし)が現れたら、戦うのはやめておけ、と皆に伝えよ。敵うはずもないから、とにかく逃げるのだ、と」

「わかりました!」


 野良犬は他の動物たちに伝えるため、急いでこの場を発っていく。


「そしてモフ、私たちはとにかく17地区に向かおう。なんとかアレキサンドル様と連携をとって、対策を立てなくては」

「そうだな、急ごう!」


 チャトランと一緒に駆け出しながら、俺は心の中で思っていた。

 足りない。圧倒的に、こちらの戦力が足りなすぎる。黒煙(ヘイヤン)1匹ですら、俺たち全員でもって対しても勝てる可能性は低い。


 俺は駒沢の動物大相撲、土佐犬が殺られた惨劇を目の前で見ている。あんな強い犬ですら、まったく歯が立たなかった相手なのだ。


 絶望的な気分になりながら、それでも俺は戦わなくてはならない、と考えをまとめる。

 だが果たして、俺の合気道はヤツに通用するのだろうか。くーちゃんとの連携で、ヤツを倒すことができるのだろうか。


 だが多摩川17地区に到着した俺たちを待ち受けていたのは、想像以上の惨状だった。

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