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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第四章 勇者犬、芸能界デビューする
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71 土俵下の珍事

 どうぶつ大相撲、小型犬の部の決勝はどうなったって?

 結果から言うと、ポメラニアンである俺の優勝に終わった。だが問題は結果ではない。その過程で、俺は会場のみんなから大爆笑を浴びてしまったのだ。


 どういうことかって? 仕方ない、思い出したくもないが、話そうか。


 ◇◇◇


「それでは、両者見合って」


 ここが番組一番のみどころと言わんばかりに張り切って声を張り上げる、行事役の3流芸人。残念ながら、この番組以外でコイツの顔を見たことがない。


 正面には、犬のくせに腰をクネクネとくねらせるヨークシャー・テリアのナツキ。


「ねえモフくん、や・さ・し・く・し・て・ね」


 イラッ。こいつ、俺を怒らせる天才か。ヨークシャー・テリア自体は嫌いではない、どころか可愛いと思う。けどコイツの場合、ギャルっぽい言動が俺のカンに触る。さっさとこの取り組みを終わらせて、コイツから離れたい。


「小型犬の部、決勝。それでは、はっけよーい……」


 俺は気合いを入れ、体制を低くして突進の準備をした。ポメラニアンとヨークシャー・テリアの体格はほぼ同じくらい。どちらかというと成長した俺のほうが少し大きいくらいだ。突進をかませば、一発で土俵を割ることだろう。


「のこった!」


 行事の掛け声と共に、俺は全力で突進する。

 あと30センチでナツキにぶち当たるぞ、というタイミングで、なんとナツキはひらりと体を翻した。


(なにぃ?)


 やばい、突進の勢いがついて止まらない。このままでは自分から土俵を割ってしまって自爆だ。俺は4本の足の爪を立て、急ブレーキをかける。


 ズザザー。俺の体はギリギリ土俵際のビニールテープの前で止まった。危ない危ない、ギリ助かった。そして俺はナツキの方を振り向く。


「モフくんマジウケる〜。必死じゃ〜ん」


 2度目の、イラッ。でも今度は少し冷静に行こう。コイツを追い回して、タイミングを見て土俵外に出してやる。


 俺は大きく一声「ワンっ!」と吠えると、いつでも止まれるようなスピードでありながら、ナツキを土俵外に出すような力を蓄えつつ、ナツキを追った。


「モフく〜ん、こっちだよ〜」


 俺に追いかけられて、ナツキは土俵を逃げ出す。くそ、逃すもんか。

 ナツキは土俵を円状に走り回り、俺もその後を追う。2匹の子犬が必死に追いかけっこをしている様子は滑稽そのもので、会場の笑いを誘い出した。


「いいぞー、逃げろナツキ富士!」

「がんばっておっかけろー、モフの海!」


 お気楽な声援が観客席から飛ぶ。くそ、こっちは必死だぞ。

 それにしてもナツキ、ギャルのくせに意外にすばしっこいな。こっちも本気なのに、なかなか追いつけない。


 だが、勝負は突然に終わりを告げた。

 俺から逃げ回るナツキが土俵上で足をもつらせ、前のめりに倒れたのだ。突然ぶっ倒れたので、俺も転んだナツキに突進してしまう。


 そのまま、2匹の子犬はもつれあって数回転げ回った。


「マジいった〜い」

「痛たたた……」


 だがその時、周囲で爆笑が湧き上がった。何が起こった? と俺は一瞬周囲を見渡すが、すぐに理解した。


 うつ伏せ状態のナツキに、俺がのしかかるような体制。そして俺の腰はナツキの腰にのしかかっている。

 この体制は、あ、あきらかに交尾……


「ポメちゃ〜ん、うちのナツキ、妊娠させないでね〜。まだ子犬なんだから〜」


 ナツキの飼い主であるギャルが大声で叫び、それを聞いた観客はさらに大爆笑。


 俺は慌てて離れようとするが、どうしたことか、俺の前足と後ろ足がナツキの体の下に潜り込んでいて、すぐに離れることができない。もがいていると、余計変な態勢と動きになってしまう。これって、腰を振っているように見えるんじゃ……


 思った通り、さらに大爆笑が会場に轟いた。


 てな感じで、俺は大爆笑の末に小型犬の部、優勝を勝ち取った。でもなんか、すっごく負けた気分だよ……



 ◇◇◇


 続いて土俵上では「大型犬の部」の試合が始まろうとしていた。

 一回戦一試合目は、ラブラドール・レトリバーVS土佐犬。

 この勝負はすぐに決まった。土佐犬は闘犬の本場、高知で横綱になったこともあるらしく、一瞬でラブラドールを捩じ伏せていた。


「うわぁ、怖いね、大型犬同士の戦いは」


 ほえ〜、という顔をして俺の隣に座っている青葉ママが言う。確かに、あんな強い土佐犬、どう転んでも勝てそうにないや。

 でも俺の関心は、今そこにはない。


 一回戦二試合目は、セントバーナードVSチベット犬。つまり魔王の四天王、黒煙(ヘイヤン)の取り組み。


 魔王の四天王の戦いがどんなものなのか、俺はきちんと分析しておかなければならないのだ。


 体格は世界一の大型犬であるセントバーナードの方が上回る。だが体重は、チベット犬の方がありそうに見える。


「はっけよい、のこった!」


 試合開始と共に、セントバーナードが突進した。一方、チベット犬は動かない。ものすごい体重でチベット犬がぶっ飛ばされる、そう見えた次の瞬間。

 チベット犬は右前足を上げ、犬パンチをセントバーナードに喰らわせた。


「ギャインッ!」


 突進していたセントバーナードが足で横っ面を叩かれ、叫び声を上げる。と、セントバーナードはフラフラと数歩歩き、土俵上にドサリと横たわった。どうやら失神しているらしい。


 パンチ一発で、世界最大の犬種をノックアウト。それが魔王の四天王、黒煙(ヘイヤン)の実力だった。いや、ヤツは実力のほんの少しも見せてはいない、そう思わせるほどの余裕の勝利だった。


 土俵上で勝ち名乗りを受けながら、黒煙(ヘイヤン)は土俵下の俺をチラリと横目で見た。その目は明らかな侮蔑の目であり、嘲りの色も見えた。


(奴に勝つことなんて、できるのか……?)


 いや、無理だ。今の俺では、たとえ合気道を少しかじっていようと、あいつに敵うはずがない。なら、どうしたらいい?

 俺が考えに沈んでいるうちに、どうぶつ大相撲駒沢場所、大型犬の部の決勝戦が始まろうとしていた。


 俺がそのことに気づいたのは、土佐犬が野太い大声で吠えたその言葉の内容によってだった。


「てめぇ、魔物くせぇニオイがするな。どれ、俺がお前を食い殺してやるか」


 こっちが悪者なの? と思うほどのセリフだ。だが土佐犬が言った言葉が気になる。『魔物くせぇニオイ』だと? 魔物?


 チベット犬の黒煙(ヘイヤン)は、見た目は普通の犬に見える。恐ろしい雰囲気をまとってはいるが、いわゆるファンタジー世界の『魔物』には見えない。魔物くさいニオイとは、どういうことなのか。取り組みが終わったら、あの土佐犬に尋ねてみよう、そう俺は思った。


 だが、その土佐犬と俺が話をする機会は永遠に訪れなかった。

 この後に土俵上で起こった、大惨事のせいで。

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