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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第四章 勇者犬、芸能界デビューする
70/144

70 動物大相撲 駒沢場所

なぜ、このどうぶつ運動会に黒煙(ヘイヤン)がいるんだ? たしか女性タレントは「日本一の山岳救助犬」と紹介していたが、コイツそんな仕事をしているのか?


タレントが他の動物たちの紹介を続けている。

黒煙(ヘイヤン)はしばらくまっすぐ正面を見据えていたが、俺の視線にその時初めて気づいたかのように、ちらりとこちらを見た。


ゾクリ。真夜中の六郷橋で牙を剥いた黒煙(ヘイヤン)の台詞を思い出す。


(どうせ食い殺すなら、今でも構わないんだがな!?)


ダメだ、ビビったらそこで試合終了だ。俺は震えそうになる体を必死の思いで自制した。


「いよぉ〜、勇者ちゃんじゃないの。すっかり有名犬になっちゃって。毛並み、フサフサだねぇ」


ねちっこい、粘つくような物言い。


「今日は楽しいお祭りになりそうだなぁ。なぁ、ブルブル勇者ちゃん?」


ビビるな、俺。体は、なんとか震えを抑えている。単なる挑発だ。


黒煙(ヘイヤン)は薄く笑い、俺から目を逸らした。その首には、棘のついた金属の首輪が巻かれ、リード紐は布製の紐ではなく、なんと太い鎖だった。


その鎖を持つのは、真っ白いスーツを着た、バブル時代のイイ女がしているようなトサカ頭の長身美女。その女は、俺を見下ろしながら薄く笑っていた。


「ヘイヤン、良かったわね。モフちゃんにやっと会えて」

「ウォン、オン!(ああ、感謝するぜ、恭子さん)」

「あら、感謝なんてイイのよ。今日はいっぱい遊んでもらいなさい」

「ワン、ワン!(お前は休んでていいぞ)」

「ありがと。お言葉に甘えて、飼い主テントで雑誌でも見てるわ」


すぐに違和感を感じた。

この女……黒煙(ヘイヤン)と、会話をしている?


俺の合気道の師匠、汐田のおっちゃんも、俺となんとなく会話っぽい感じになるように、意思の疎通ができるようになっていた。

でも、この女と黒煙(ヘイヤン)の会話はレベルが違う。


人間と動物が、このように会話できるところを初めて見た。なぜこの女は、動物の言葉がわかるのだ?そんなこと、人間に可能なのか? それとも、魔王の力が関係しているのか?


何もわからないまま、番組のオープニング収録が終わった。

いよいよ番組本編、動物たちによる競技が始まる。俺は青葉ママと一緒に、用意されている席に戻った。


「モフちゃんの出番は、動物相撲だね。リレーがあって、障害物競争があって、その後よ」


青葉さんが説明してくれる。だが俺の気持ちは、二つ隣のテントで舌を出しながらハァハァと荒い息をしている黒煙(ヘイヤン)から離れない。

不幸にも奴と同じテントにいる動物たちは、ヘイヤンの放つ暴力的な気配にすっかり気圧され、尻尾を丸めて大人しくしている。


(やつは、なんの競技に出るんだ? まさか動物相撲か? いや、ママさんは小型犬同士の戦いって言ってたから、奴と対戦することはないだろうけど、気になるな……)


まさかとは思うが、競技外でいきなり襲いかかってくる可能性も考えておかないと。競技場では楽しげな音楽が流され、小型犬がちょこちょこ走り回ったり逃げ回ったりする楽しいハプニングが巻き起こっているが、俺の気持ちはそんなものを見ているほど余裕がなかった。



そうしているうちに、どうぶつ大相撲参加者の集合アナウンスが入る。


「どうぶつ大相撲、まずは小型犬の部から! 参加するワンちゃん4匹の飼い主さん、土俵下にお集まりください!」


能天気なアナウンスが流れる。仕方ない、これは俺の仕事だ。せっかくだから、せめて小型犬の部では優勝して、日本ナンバーワン芸能犬の意地を見せておかないとな。


土俵下に集まった小型犬は4匹。ポメラニアン(俺)、マルチーズ、ミニチュア・ダックスフンド、そしてヨークシャー・テリアのナツキだった。


「マジぐうぜん〜! モフくぅん、土俵では優しくしてね♡」


うるせぇビッ○犬、今はお前の与太話を聞いている心の余裕はねえよ!


◇◇◇


「どうぶつ大相撲駒沢場所、小型犬の部。第一取り組みは、東・マルチーズのシロの山! 対するは西・ポメラニアンのモフの海!」


ビニールでできたペラッペラのカラフルな土俵に上げられる俺。素材は安っぽいが、大きさだけは本物の土俵と同じらしい。ただし徳俵はなく、ビニールテープが貼られているだけ。テレビ東京、予算少ない……


行事役の3流芸人が土俵の中央で、マルチーズとポメラニアンを招き入れる。さあ、いよいよ真剣勝負だ。負けないぞ。来い、マルチーズ!


「時間いっぱい。両者、見合って」


俺は体制を低くし、頭の中で取り組みをシミュレーションする。マルチーズと俺の大きさはほぼ同じ、ということは体重もほぼ同じだろう。正面からぶつかれば、打ちどころが悪ければ体制を崩されてしまう可能性もある。


ならば、ここは得意の合気道を使って、突進してくるマルチーズを(かわ)し、そのまま土俵の外まで押し出してしまおう。

よし、作戦は決まった。


「はっけよーい、のこった!」


俺は突進するように見せかけ、その場にとどまった。

だが、俺に突進してくると思われたマルチーズも動かない。両者、土俵の中央で見合ったままだ。


「はっけよい、はっけよい」


困ったように三流芸人が動き回り、軍配を振るって俺とマルチーズを動かそうとしている。くそ、奴も合気道の使い手なのか?


と次の瞬間、マルチーズが俊敏に動き出した。意表をつかれた俺は、一瞬体をビクリとさせてしまう。しまった!


と思いきや。

マルチーズは一目散に土俵の外めがけて全速力で駆け出した。行先は、メガネのヒョロ長い男性の飼い主さん。


「シロちゃん、ダメだよぉ〜」


だがすでに勝負はあった。マルチーズは自ら土俵を割ってしまったのだ。


「モフの〜海〜」


行事に勝ち名乗りを受ける俺は、すっかり拍子抜けしていた。土俵の周りの観客たちは、マルチーズのワンちゃんらしいトラブルに大ウケ。


(なんだよ、真面目に戦おうとしてた俺がバカみたいじゃねぇかよ)


まあいいや。勝ちは勝ちだ。



続いて1回戦2試合目。

ミニチュア・ダックスフンドとヨークシャー・テリアのナツキの戦いは、ナツキの意外にも素早い回避で、ナツキの勝利となった。


「やったー! ねぇ、ダーリン見てた? ホレ直した?」


土俵上で尻尾をブンブンと振りながら、大声で俺に吠えるナツキ。ちょっと恥ずかしいから、話しかけないでもらえませんかね?



「どうぶつ大相撲駒沢場所、小型犬の部。決勝戦は、東・ヨークシャー・テリアのナツキ富士! 対するは西・ポメラニアンのモフの海!」


くっそ、まさかこのメス犬(ナツキ)と決勝戦で戦うことになるとはな。


よかろう。男子の強さ、見せたろうやないかい!

俺は心のフンドシを締め直し、正面のナツキを見据えた。

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