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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第四章 勇者犬、芸能界デビューする
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69 どうぶつ達の大運動会

 小型犬と大型猫の追っかけっこで犬が逃げ切れるわけはなく、結局ヨークシャー・テリアのナツキはチャトランにこってりと絞られたらしい。

「オスに軽々しく子供作ろうとか言うな」とか「男は狼だ」とか、チャトランの説教は1時間近く続いたらしい。

 まあ今の俺はオオカミの血を引く犬なので、そんなに間違ってはいないのだが。


 ナツキはお隣の地区、多摩川19地区に住む一人暮らしのキャバクラ嬢に飼われているらしく、昼間は放し飼いなんだとか。平成元年当時にしても、あまりにも大らかすぎる飼育方法だと思うけどね。


 まあそんなこんなで、俺とチャトランのデートは終わりを告げた。人間に見つからないように慎重に家に戻った俺を待っていたのは、風太くんだった。


「あ、モフー! どこ隠れてたの? 探したよー」


 ごめんごめん。でも外に出ていたのはバレていないようだ。



 ◇◇◇


 その夜。

 佐藤家のリビングにある家電話がプルルルと鳴った。


「はい、佐藤です。はい、はい……はあ、運動会ですか? 10月10日? でもモフは小型犬ですし……はあ、なるほど。ギャラの方は……はい、わかりました。お受けします」


 カチャン、と電話を切る青葉ママ。その足で、俺のところにやってくる。


「ママー、誰から電話だったの?」友梨奈ちゃんがテレビを見ながら聞いた。


「テレビ東京のプロデューサーさん。来週ね、どうぶつ大運動会って番組を収録するらしいの」

「運動会? モフが走るの?」

「ううん、モフは小型犬だから足遅いでしょ? そう言ったら、どうぶつ相撲っていう競技があるらしくて、それに出ないかって」

「えー? モフが相撲取るの?」


 相撲かぁ。楽しそうだけど、相手はもちろん小型犬だよね、ママさん?


「小型犬は小型犬同士、大型犬は大型犬同士で対戦だって。ママもちょっと見てみたいし、プロデューサーさんは人気ナンバーワンのモフくんに絶対出て欲しいってすごい熱意だから、受けちゃった」


 まあ、俺の出演料で佐藤家の生活が少しでも潤うなら、俺に異存はない。近所の野良犬にお願いして、相撲の訓練でもしておこうかな。その時の俺は、それぐらいの軽い気持ちだった。


 まさかその「どうぶつ大運動会」に、ヤツがいるなど思いもせずに。



 ◇◇◇


 一週間後。

 テレビ番組「どうぶつ大運動会」の収録会場は、駒沢オリンピック公園の第二球技場だった。

 プロサッカーの試合もできるような広さの競技場に、小学校の運動会よろしく万国旗がクロスして会場にかけられ、テントがたくさん設置され、たくさんのカメラマンなどのスタッフが忙しそうに行き来していた。


 さすが予算の少ないテレビ東京、2時間特番だと聞いていたのに、思いのほかショボいセットだぜ…… まるで幼稚園の運動会みたいなチャチさだ。


 俺はなぜか新品のジャージ姿で張り切っている青葉ママに連れられ「出場動物待機テント」と張り紙されたテントへと歩いていた。

 テントには大きな柵があり、そこには先に来ていた犬、猫、うさぎ、ブタなどが20匹程度いる。なぜブタが……と思ったが、まあ賑やかしだろう。


 俺が動物の柵に入れられると、動物たちがザワめいた。


「おいあれ、コマーシャルのポメラニアンだワン……」

「ふん、思ったより可愛くないピョン」

「うっそ、かっこいい! サインもらおっかなニャー?」

「美味しそうだブヒ」


 動物たちの反応は様々。とにかく、俺の顔を知らない動物はいないらしい。俺も今やすっかり有名犬だな、と少しくすぐったい気分になった。

 それでも動物界一の「スタア」である俺には近寄りがたいらしく、みんな遠巻きに俺を見て噂話をしている。ちょっと疎外感。


 と、1匹の犬がトコトコと俺に近づいてきた。


「あ〜、まじウケる! キミも運動会、出るんだぁ!」


 それは先日多摩川でチャトランを激怒させたヨークシャー・テリアのナツキだった。その隣に立つのは、運動会という場に似つかわしくないことこの上ないピンクのボディコンスーツを着込んだギャルだ。

 おお! 久々に見るボディコンギャルだ!


「ナツキっち〜、な〜にこのワンちゃん。カワイ〜じゃ〜ん。カレシ?」


 カレシ↑ と語尾が上がるのも、いかにもギャルって感じだ。この辺、令和と平成元年、あんまり変わらないもんだね。


「ワンワン!(そ、カレシ〜。こんど子供つくるの〜)」


 ナツキはこの場に猫のチャトランがいたら血管がブチ切れそうな発言をしている。その言葉を受け、周りの動物たちがヒソヒソ話し始めた。


「やだ、昼間から信じられないニャー」

「芸能犬って、やっぱ遊んでるんだワン」

「僕もギャルの彼女欲しいピョン」

「美味しそうだブヒ」


 みんなてんで好き勝手なこと言ってやがるぜ。特にブタ! お前さっきから俺のことエサとしか見てないだろ!


 と、その時。競技中内に放送が流れた。


「飼い主の皆さん、まもなく番組の収録を開始いたします。みなさまご自分のペットを連れて、競技場にお並びください」


「さ、モフちゃん。今日は頑張るわよ!」


 青葉ママさんが鼻息荒く俺に言った。いや、別に飼い主さんは走ったりしないよ? ママさん、何か勘違いしていないかなぁ……



 ◇◇◇


 まずは2流タレントの男女司会により、番組のオープニングの収録が始まる。


「みなさん、今日はテレビから目を離せません! なんとテレビや雑誌で大活躍のワンちゃん、猫ちゃん、ウサちゃん、ブタちゃんが競技場に勢揃い! 史上最大のどうぶつ大運動会がまもなく始まります!」

「それでは、本日の出場どうぶつたちをご紹介しますね」


 アイドル崩れのバラドルがどうぶつ紹介に入った。もちろん名前を知っているタレントだが、名前は控えておこう。


「まずは、ウルウルのおメメが視聴者のハートを釘付け! コマーシャルで大人気のポメラニアン、モフちゃんでーす!」


 おおっ、俺が一番手か!

 ハンディカメラがズイっと俺に近づいてくる。よーし、ファンサービスだ。


「ワンワン、ウワーン!(モフだぜぇ、ワイルドだろぉ?)」


 なんて、この時代には誰も知らない2012年の一発ギャグをぶち込んでみた。でも予想に反し、俺のファンは多いらしく、周りの動物はワンキャンニャーと歓声を送ってくれる。いやぁ、人気者はつらいぜ!


「さすが天才犬、今日も元気いっぱいですね! では続いて! 日本一の山岳救助犬として、いま大人気! 顔は怖いが心は優しい大型犬、チベット犬のヘイヤンくんでーす!」


 のそり。

 今まで全く気づかなかった。

 その犬が放つ、邪悪で暴力的な気配が会場を支配した。

 運動場にいる動物たちは身じろぎ一つしない。いや、できない。


 姿を現したのは、真っ黒で巨大な体躯、たてがみをフサフサと(なび)かせたチベット犬。


 それは『魔王の四天王』の1匹、黒煙(ヘイヤン)だった。

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