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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第四章 勇者犬、芸能界デビューする
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68 ナマイキ盛りなあの娘

 帰り道、虎柄の猫のチャトランと俺は多摩川沿いのサイクリングロードと川の間の草っ原を歩く。話題はさっき会ったばかりのチワワ、戦士・くーちゃんだ。


「あの小さな体で、巨大アライグマのガスカルをぶっ飛ばしたのか。すごいな」


 そうだ、あの戦いの時、チャトランは確か動物病院の検診で不在だったっけ。


「まったく、どうなってるんだろうね。物理法則を完全に無視してるよ、あいつのパワーは」

「私に言わせると、お前の知識の方が常識はずれだと思うけどな」

「そんなことないよ。賢者ソース様なんか昔からの知識が蓄積されているから、俺なんか足元にも及ばないし」


 などど謙遜してみる。でもこれは本音だ。俺は元人間だというだけ。一人の人間が生まれてからおっさんになるまでの経験と知識しか持ち合わせていないのだ。


「そんなことはない。私は、お前と話していると楽しいぞ」


 なんだか、すごく熱い視線を感じる。チャトランさんって結構積極的だよね。でも俺たちは種族も違うし、禁じられた恋になっちゃうよ?


 いや! そもそも俺には心に決めた女(メス犬)がいる。もちろん言わずとしれた、トイプードルの「プー」だ。魔王の件がひと段落したら、絶対に彼女を探し出して、プロポーズするんだ!


 あれ? いま何か心に引っかかったよ?


(ポメ、私を探して……)


 プーの声が思い出される。あれ? 前に江ノ島の西浜でプーに会った時、こんなこと言われたっけ? 違うよね、あの時言ったのは「ポメ、湘南第4地区で私を探して!」だったよな。


 うーん、でもどこかで言われた気がする……夢なのかな。


「どうしたモフ? 急に黙り込んで」

「あ、ごめん。ちょっと友人のこと考えてて」


 すぐに誤魔化す。いくらなんでも好意を寄せてもらっている女性(メス猫)の前で、他の女(メス犬)のことを考えていた、とは言えない。



 しばらく2匹で話しながら歩いていると、多摩川18地区の「動物たちの集会場」が見えてきた。もちろん昼間なので、動物の姿は1匹も見えない。夜の集会になると、何千匹も集まることもあるのにね。


 いや、いた。集会場の真下、送電塔のところに何か動物が1匹いる。

 黒と茶色が入り混じったあれは、小型犬かな? ええと、犬種は……

 そうだ、ヨークシャー・テリアだ。


 説明しよう。

 ヨークシャー・テリアとは、イギリスのヨークシャー地方で作られた小型の愛玩犬である。体毛が長く、成長するにつれて銀色や金色など毛色が様々に変化し「動く宝石」とも称される可愛い人気犬なのである。


 ヨークシャー・テリアは歩いている俺たちをじっと見つめていた。あんな犬、この辺では見たことないなぁ。しかも飼い主の姿も見えない。


「チャトラン、あの犬知ってる?」

「いや、知らないな。迷子かもしれないから、聞いてみよう」


 俺たちはテリアに近づき、話しかけてみることにした。


「やあ。私はこの地区の猫を束ねるチャトランだ」

「こんちは。俺はポメラニアンのモフだよ」


 テリアの目が俺の姿にじーっと注がれる。なんだなんだ?


「……キミ、テレビでよく見るポメラニアンじゃん! アハハ、マジウケる!」


 ……ウケられてしまった。


「へぇ〜、思ったよりずっとハンサムじゃん! 画面加工してたのかと思ってたよ〜」


 その言葉を聞き、チャトランが気色ばんだように言う。


「おいお前、初対面の者に失礼じゃないか? この犬はな……」

「うそぴょーん! パイセン、なにマジになってんの? ウケるんだけど」



 これまでの彼女の発言を、いろいろ説明しよう。


「ハンサム」とは、簡単に言うと「イケメン」の古い言い方である。ちなみにイケメンは狩野英孝が広めたわけではなく、だいたい2000年前後から広まったとされている。


「うそぴょーん」とは、1980年代後半によく使われていた言葉で「嘘だよ〜ん」という意味であるが、その語尾の可愛さから、ギャルからおっさんまで日常的に使用されていた言葉なのである。


 そして「パイセン」とは「先輩」の逆さ言葉であるが、これは決して映像業界のみで使われているわけではなく、いわゆるヤンキーの間でも日常的に使われていたのである。



 このヨークシャー・テリア、言葉遣いからして、この時代のギャルの影響を多分に受けているようだ。きっと飼い主がギャルなんだろう。


 あっけに取られているチャトランを尻目に、俺の隣にズイズイっと近づいてくるテリア。目の前に立つと、尻尾をプリプリと振りながら言った。


「ハンサムくん。私、あんたのこと好きになっちゃったみたい。ねえ、私に子供産ませてみない?」

「ゴフッ!」


 思わずむせてしまった。なんて豪速球を投げるんだ、この犬は。

 怒ったのはパイセン扱い、つまり年上扱いされたチャトランだ。


「おいお前! モフはな、勇者様なんだぞ? お前みたいな小娘にその相手がつとまると思ってるのか?」

「えー? このオバタリアン、なに怒ってるのぉ? ワケワカメなんだけど」



 またまた説明しよう。

「オバタリアン」とは1989年の流行語大賞で金賞に選ばれた言葉で「空気の読めない、自分勝手なオバサン」を意味する言葉である。元々は同名の漫画が流行ったことで、この言葉が世に浸透したのである。


「ワケワカメ」は、簡単にいうと「訳わかんない」の意味である。「ワカメ」に特に意味はなく、発音の面白さから流行ったのでは、と言われている。



「な、な、なんだとぉ!」


 フミャー! とチャトランの体が総毛立った。やばい、マジモードになっている。


「ヤバーい、オバタリアンこわーい。にげろ〜」

「待てお前、ブッコロしてやる!」


 チャトランがかなり物騒なことを言っている。俺は慌ててチャトランの前に立ち塞がった。


「ちょっとチャトラン、落ち着いて。あれ、ふざけてるだけですよ」

「いいや、あのガキに礼儀を教えてやる!」

「バウ!!(チャトランさん!!)」


 大声で吠え、俺はチャトランを諌めた。俺の大声に驚いたチャトランは一瞬ビクッとしたかと思うと、徐々に逆立っていた体毛が倒れていく。どうやら、少し落ち着いたようだ。


「……そうだな。しょせんガキの戯言だ」


 だが、かなり遠くに去っていったヨークシャー・テリアはこちらの大声で叫んできた。


「アタシの名前はー、ナツキー! モフくん、次は子供作ろうねー!」

「やっぱりブッコロす!」


 全力で逃げるナツキを、チャトランが追っかけていった。

 あ〜あ、捕まったらマジで殺されかねないよ、あの子……

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