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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第三章 勇者パーティの宝探し
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53 198964

 俺たちの目の前に、皇居の門の一つが(そび)え立っていた。

 渋谷から国道246号線をまっすぐ都心方面に向かうと皇居に突き当たる。その時見えてくるのが、この半蔵門である。


 半蔵門はかの有名な忍者「服部半蔵」がこの門を警固していたと言われる門だ。一見、普通のお城の裏門にしか見えないが、なにしろ日本の中心、天皇陛下のお住まいになる皇居の門のひとつだ。見た目以上に強固な警備が敷かれていることは想像に難く無い。


 しかもこの日は、1989年6月4日。ある世界的な事件が起こった日だ。もし観光やビジネスでお隣の国、中華人民共和国に行った時「198964」と検索してみたとしよう。検索結果は、何も表示されない。


 説明しよう。

 この日は中国の民主化運動である「天安門事件」が起こった日である。民主化を求めて首都北京の天安門広場に集結したデモ隊に軍隊が武力行使を行い、多数の死傷者を出し、世界中が中国政府を非難した事件なのである。



 俺が人間でサラリーマンだった時代、2000年代中頃だが、中国出張の際に天安門広場に立ち寄ったことがある。だが、あの1989年の事件を微塵も感じさせないその風景に、ある種の不気味さを覚えたことを思い出した。


 まあ、別の国の政治に対してあれやこれやと口に出すのは、ポメラニアンである俺にはできないし、しても仕方ない。俺にとっていま重要なのは、天安門より半蔵門をどう越えるか、だ。


「で、ソース様。どうしましょうか? まだサバトラもチュン太も戻ってきていませんが」

「うむ、さすがのあやつらも、今回ばかりは難航しているようだのう」


 前日夜の賢者ソースからの指令により、サバトラは皇居に住むという地下民族、すなわちモグラたちを見つけて交渉する役割を負っている。だが丸一日たってもサバトラは戻ってきていない。


 同じくチュン太は、皇居の内外の濠や池に住む長寿の亀を探している。こちらは情報すらあやふやで、そもそも長寿の亀が住んでいるかすら不明だ。


 とりあえずソース様と俺は待ち合わせ場所である半蔵門外の植え込みの下に隠れているが、猫も雀も戻ってこないため、動きようがないのだ。


「ただ、このまま此処で待っているだけなのも時間の無駄だ。一人があやつらを待ち、もう一人が門への潜入方法を探るというのはどうだ?」


 フレンチブルドッグかポメラニアンが、チョコチョコ歩いて行って皇居に潜入する方法を探ると? いやちょっと無理あるんじゃ……


「たまにはジャンケンで決めてみるか、モフよ?」


 ニヤニヤしながら賢者ソースが右足を差し出す。なんだこれ、犬同士でジャンケンができるとでも? それとも賢者ジョークなのだろうか?


 などと無駄話をしているうちに、小さな羽音が2匹の子犬の耳に聞こえてきた。スズメのチュン太が戻ってきたのだ。


「遅くなったチュン。さっそく報告するチュン」


 チュン太の表情や口ぶりはなんだか明るいように感じる。どうやら良い報告が聞けそうだ。


「結論から言うと、長寿の亀は存在しないチュン。最年長の亀が皇居の中、大池にいたんだけど、24歳だったチュン。昭和30年頃に生まれて、日本の高度成長期のことは詳しいんだけど、それ以前のことはさっぱり知らなかったチュンよ」


 ガクッ。ぜんぜん良い報告じゃ無いじゃん。やっぱりスズメの考えていることはよくわからんわ。


「でもね、ひとつ悪い話を聞いてきたチュン」

「おいチュン太、そこはひとつ良い話を聞いてきた、というのが普通の流れじゃ無いか?」

「まあ聞くチュン。皇居の地下民族の話だチュン。長寿の亀によると、皇居には確かに地下民族が住んでいるんだけど、他の動物とここ20年ほど、まったく交渉を持っていないらしいチュン!」


 確かにバッドニュースだ。皇居に25年住んでいる亀が、ここ20年まったく没交渉だという地下民族。それをたった1日で、サバトラが交渉できるとは思えない。


「ううむ、やはりそうか」

「ソース様、その地下民族、まあモグラですか? そいつらが他の動物と交渉を持たない理由でもご存じなのですか?」

「いや、正確にはわからん」


 さらにガクッとする俺。なにが「やはりそうか」だよ。やはりっていうのは、心当たりがあるっていう意味じゃ無いのか?


「まあ待て。やはり、というのは噂話がやはり真実だったか、という意味だ。普通動物たちは、他の種類でも何らかの繋がりを求める。不可侵条約を結んだり、友好条約を結んだり、一緒にコミュニティを築いたり。そこは人間社会と何ら変わることはないのだ」


 ふむ、確かにそうだ。これまで俺たちが旅してきた各地区の動物たちも、大小あれど様々な動物たちが助け合って生きていた。まあアライグマのような単一の種類が集まって暴れる凶暴な外来種もいたが、あれは「魔王」の影響力下にあったので例外だろう。


「ならば、なぜ地下帝国のモグラたちは他の動物と交渉を持とうとせぬのだ? 我はそこに、何らかのヒントが隠されていると確信している」

「ヒント、というと?」


 フレンチブルの賢者はくしゃくしゃの顔を一度ブルブルと回転させて振ったあと、続きを話した。


「他の動物には言えない、何かを見つけたとか、そういうことだ」

「何か……それって、もしかして埋蔵金とか?」

「わからんが、可能性はある」


 20年ほど前、地下帝国のモグラたちが何らかのきっかけで、どこかにある徳川埋蔵金を見つけ、それを隠しているというのか? でもなぜ隠す必要がある? 人間なら独り占めするとか、仲間内で分配するとか考えられるが、モグラに埋蔵金が必要だとは思えないが……あれ?


「ソース様、もしかして」

「気づいたか、モフよ。我もそのことを懸念しておるのだ」


 モグラたちが見つけたかもしれない徳川埋蔵金。だが、それと一緒に埋まっていると思われるモノがある。それが……


「進化の秘宝?」

「そうだ。モグラの手に、進化の秘宝が渡ってしまった可能性が高い」


 なんてこった。元人間の俺にとって徳川埋蔵金は魅力的な財宝だが、賢者ソースをはじめ、動物たちにとって財宝は何の役にも立たない。だが、進化の秘宝は別だ。別に違いない。別であるはず……ちょっと待てよ?


「ソース様。そもそも『進化の秘宝』って何なんですか?」

「……お主、それ、知らずに探しておったのか?」

「だって、説明してもらってないっすよ!」


 フレンチブルドッグは大きなため息をつき、珍しくピンと伸びた背筋を丸めた。


「そうか、お主は元人間だけに知らんのだな。これは我が悪かったわい」

「動物の皆さんはご存じなので?」

「そうだ。お主にも説明せねばならんな、進化の秘宝のことを」

「チュン! ソース様、それ僕に説明させてもらえませんかチュン?」


 急にチュン太が話に割り込んできた。なんだ? どうしてチュンが進化の秘宝について説明したいんだろう?


「そうか、お主の祖父は……良い、勇者モフに説明してみよ」

「わかったチュン!」


 チュン太は俺に向き直ると、一言目で俺が予想もしない言葉を放った。


「僕のおじいちゃんは、進化の秘宝を使って、スズメから鷹に進化したチュンよ! すごいおじいちゃんだったチュンよ!」


 はああああ?

 それって、あの、いろんな意味で言葉にできない、ゲームやアニメで世界的に有名なあの『ズボンなどの小さい袋に入る怪物たち』と同じってこと?

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