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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第二章 ポメラニアン暮らしと魔王の影
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29 平成元年の訪れ

 陛下が崩御されてから3日の時が経った。


 元号が変わったからといって急激に時代が変化するわけではない。特に俺は一介の飼い犬、ただのポメラニアンの幼犬だ。昭和が平成になったからとてドッグフードが豪華になるわけでもなく、散歩中に好みの女性(カワイイ犬のこと)と出会えるようなったわけでもない。


 この日の夕方は、佐藤家のママさんである青葉さんと長男の風太くんが俺を散歩に連れて行ってくれた。

 散歩のルートは連れて行ってくれる人によって違うが、まだ子犬であることも加味されているのか、それほど遠くには行かない。せいぜい家の周辺にある児童公園に行ったり、遠い時で多摩川の土手に行ったりするぐらいだ。


「ねえママ、へーせーって何?」


 俺のリードを持ちながら、風太くんが青葉ママに聞いた。


「あのね、天皇陛下が変わると元号が変わるのよ」

「友達がみんなへーせーって変なの!って言ってるんだけど、へーせーはいつ変わるの?」

「しばらくは変わらないと思うわよ」


 答えを教えてあげようか? なんて心の中で思ったが、人間に未来のことを教えると碌なことにならないだろう。いやそもそも犬の俺では伝えることもできないのだが。

 すると、青葉さんの心の声が聞こえてきた。


 ――でも確かに「平成」ってなんだか間抜けな響きよね。発表してたおじさんがトボけた顔してたからかな?――


 説明しよう。

 昭和64年1月7日、のちに総理大臣となる当時の官房長官、小渕恵三が「新しい元号は、平成であります」と発表。日本国民ほとんどが注目していたこともあり、平成という新元号とともに小渕恵三は「平成おじさん」として絶大な注目を浴びることになったのである。


 とかなんとかしているうちに、家から10分ほどの場所にある広めの公園にたどり着いた。ここは滑り台の他にも遊具がたくさんあって、風太くんは着くなり俺のリードを青葉さんに預けると、滑り台に登って行った。


 青葉さんは俺のリードをベンチの端に結ぶと「モフ、ここで休憩しててね」と言い残して風太くんのいるすべり台に向かう。


 俺は地面に座り込んで、ハッハッハッと息を吐きながら周囲を眺めた。すると、微かに俺を呼ぶ声が聞こえた。


「モフ、ひとつ聞きたいことがある」


 小声ながらも通るテノールボイス。見ると、公園の植え込みの陰に賢者ソースが隠れていた。


「ソースさん。何をしていらっしゃるのですか?」

「おぬしが散歩に出かけるのを見かけて、後を追ってきた」


 ヘッヘッヘッとフレンチブル独特のぶさカワイイ表情を浮かべる賢者ソース。これで賢者だっていうのだからちょっと笑える。

 あれ? でも賢者ってそもそも何なんだろう? あとで聞いてみよう。


「聞きたいことって何ですか?」

「ふむ。まずは、元人間だったお主が亡くなった状況だな」

「俺が死んだ時の状況ですか?」


 それが一体なんだというのか。確かに忘れられない過去だが、できればあまり思い出したくない苦い過去でもある。


「思い出したくないかも知れんが、重要なことだ。できれば詳しく話してほしい」

「……はい、何かの役に立つならば」


 俺は賢者ソースに、俺が亡くなった時の状況を事細かに説明する。台風の日、犬の散歩に来ていたこと。多摩川の土手を登った時に、溢れ出す大水に飲まれて意識を失ったこと。なんど思い出しても体が震えるほどの恐怖体験だった。すべて自業自得とはいえ、だ。


「なるほど、やはりそうか」賢者ソースはくしゃくしゃの顔をさらにしかめて言う。


「やはり、とは?」

「水じゃよ。古来より、大水に呑まれてその姿が見つからなくなってしまった人間は、どこかの時代に転生してしまうという言い伝えがある」

「! そんなことって……」


 にわかには信じがたい、というかそんな話は聞いたこともない。オカルト系の話や宇宙人の存在などのミステリー系は比較的好きだったため、テレビ番組やYouTube、本などでたまに不思議な話を見ていた俺だが、大水に呑まれると転生しちゃうなんて、マジで知らない。


「確か、あの茶色い犬もそうではなかったか?」

「……それもペットショップで聞いてたんですね。はい、彼女も俺と同じ日に、どこかの海で流されて亡くなったらしいです」

「やはり言い伝えは本当だったか」


 確かに、俺とプーに関しては「大水に呑まれ」「転生している」。だが同時に、タイムスリップまでしているのだ。これはどういうことなのか?


「我は賢者と呼ばれておるが、この国の重要なターニングポイントがある時代に転生して、ずっと魔王と戦っておるのだ」


 おお、すごい。日本の歴史の影に賢者あり、といったところか。ファニーフェイスの真っ白いフレンチブルの顔を見ていると、とてもそうは見えないのだが。


「魔王は復活するたび、その姿を変える。竜だったこともあれば、狼だったこともあるし、もちろん人間の姿だったこともある」


 ちょっと待て! さらっと「竜」っていったけど、実在するのかよ?


「ソース様、竜って実際にいたことあるんですか?」

「ああ、お前たちの歴史で言うと、西暦3世紀ごろまではそのへんにゴロゴロおったよ」


 マジか! なんだかその時代にタイムスリップしてみたくなったな。


「今回の魔王がどんな姿をとっているのかは全くわからない。すぐに魔王が影響力を及ぼしてくるのかもわからない。だからな……」


 フレンチブルはぶさカワイイ顔をできるだけキリッと引き締め、俺に言った。


「お主は平成時代の勇者となって、魔王を倒して欲しいのだ」


 ヘッ? 今なんて言った?

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