金色の明け方に・移動式遊園地で・陶器の人形を・飾って魔除けにしました。
「うわあ、俐位くん、遊園地だよ遊園地!」
「緒丹、はしゃぐんじゃない」
「あ、うん。ごめん」
緒丹は大きな背中を小さく丸めると俐位をうかがった。二人は男子中学生のようで、制服の学ランを着ている。緒丹は傍目には高校生、いや社会人でも通用するような背の高さであるが、俐位はまだ中学生でも成長期をそこまで迎えていないのか、透き通るような肌や色素の薄い髪がまとまっているものおん、まだ子どものようである。緒丹が俐位の言うことを聞くのは、傍目には上下関係が出来ているようでなんだかおかしい。そのおかしさを、思春期の同級生たちは過敏になり、俐位を嫌っている一つの要因となっていた。
「まあまあ、たまにははしゃぐのもいいじゃないか」
「オットウ、ありがとう」
緒丹が後ろからやって来た中年男性の言葉に目を輝かせる。互いに黒髪だが、親子という風貌ではない。オットウと呼ばれた男性は俐位の父である。ただの友人の親というだけには留まらない親密さが緒丹の顔には含まれていた。それを俐位は横で見ていて気にくわなかったらしく、ぼそりと呟く。
「・・・人の親を」
「あ、ごめ、ごめんね俐位くん」
「こら俐位。変な嫉妬をしないものだ」
「そうか俐位、それならこのニトをお父上扱いしておくれ。ほれ、いつでも大丈夫だぞう、ほれほれ」
「い、いいです。ニトはニト、オットウはオットウですから!」
俐位はからかわれたと思い、ずんずんと移動式遊園地の奥の方に向かってしまった。その後を緒丹が慌てて追いかける。その様子をニトはにたにたと笑って見送り、オットウは苦笑いだ。思春期の子どもの扱いは難しい。だが親の意向や、国の意向にも従順ないい子に育ってくれたと二人は思っている。だからこそ、この移動式遊園地につれてきたわけだが、結局俐位は強情なままで、緒丹はおどおどして俐位にべったりだ。いつか二人が離れて暮らすことがあるのだろうか、とオットウは思う。するとニトが話しかけてきた。糸のように細い目に赤い肌が体を覆っている。昔話に出てくるような、ごつごつとした体付きではなく、細身の鬼だ。オットウよりも小柄で、この鬼の息子が緒丹で生育がいいのは、ニトの妻に似たようだ。
「オットウ、昔の我々はどうじゃったかの」
「そうだなあ。ニトは自由奔放だったからなあ、僕は追いつくのに必死だったよ」
「そこまでだったかの」
「僕がおとなしい子だったから。俐位はしっかり物が言えるから羨ましいよ」
「子育ては成功じゃな」
「まあ、ちょっと強情すぎるのかな」
「しかしまあ、子どもよの。他に客もいないしちょうどよかろうて」
かっかっかとニトは笑う。オットウと呼ばれている位発は、ただそのまばゆい光を見つめていた。中央に遊園地らしいメリーゴーランドがぐるぐる、ぐるぐると回っている。その周囲にはコーヒーカップや簡易な観覧車、バイキングなどが誰も近くに人の気配が見当たらないのに、回ったり揺れたりと忙しい。四人がいるこの遊園地は、通常の遊園地ではなかった。遊園地と呼ばれる物の残映である。意志を持たないはずの無機物が、意志を持って残りたいと願った、あるいはその遊園地に強い思いを残していく人間がいればいるほどその願いの力でぼうっと夜に浮かび上がる、幽霊遊園地と呼ぶべきものだった。
「俐位たちは遊んだかな」
わああ、と俐位の声が聞こえてきたので、どうやら何かアトラクションに乗っているらしい。ニトとオットウは顔を見合わせて笑った。この幽霊遊園地は、人間の目には見えないはずである。だが希に、迷い込む人間がいるので封じなければならない。そのためにニトとオットウはこの場を訪れているのだが、どうせなら子どもを遊ばせてみようと言う父親心だった。オットウは手に魔除けの人形を光に照らしてみた。
「いつもだが、不細工な人形よの」
「ニトの美観には合わないだろうがね、腕は確かな職人が作ってるから」
多少不格好な鬼が手を広げたような人形を置き、その残留した思念のようなものを封じ込めれば二人の任務は完了する。だがまだ子どもたちを遊ばせておこう。そう考えながら二人は、子どもが戻ってくるのを待っていた。