表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

倫敦 時折、春

倫敦 時折、春 〜節〜

作者: 木村空

 これは令和時代の物語。


 彼の姿を探しては迷子になる。

 心も体も無くなってしまいそうな感覚。


 彼は側にいるのに遠くを見ている気がする。

 女の感がそう述べている。


 疑心は安易に伊藤節(いとう せつ)を苦しめる。

 自分を一番好きな人が、相手は一番を(こう)に渡している。不安は憤りに変わる前に、子供を身籠った。

 節は“ごめんなさい”と謝れなかった。彼の想い人を私も知っている。過去に何があったかも知っている。


 絆がどれ程強いかも知っている。だから、女である自分が彼との間に子供が出来た事を後ろめたく感じる。


 紅に一生出来ない事をした。女でなければ出来ない事をした。だから、夫である伊藤秋継(いとうあきつぐ)に謝れなかった。

 紅には頭を下げるべきか悩んでいる。寝取ったのは、自分だと言うのを少し違う気がするからだ。


 腹で胎児が胎動をおこす。


「大丈夫よ。もう、寝なさい。」


 節がお腹を擦ると、直ぐに動きが止まる。

 母とは心が繋がっている様だ。紅の事を思い出すと必ず反応を示す胎児。


「大丈夫か……。腹が張るのか?」


 秋継がベットから上体を起こした。まだ目が開き、きっていない。寝ぼけている。


「大丈夫。明日も早いのだから、眠って……。」


「何かあったら、起こしてくれ。」


 秋継は枕に顔を埋めた。直ぐに寝息を立てている。




 節は彼を起こさない様にベットから立ち上がると、部屋を出てダイニングテーブルのある居間に出た。

 キッチンで水を飲んでから、ダイニングテーブルにコップを置く。


 眠れそうにない……。

 不安な夜は何時もそうだ。


 スマホの画面をタップする。ラインを起動し、時宮律之(ときみやりつの)にメッセージを送る。


 数分経つと、スマホは着信音をバイブレーションで伝えた。


「え。起きてるの?」


 直ぐに節は画面をタップした。


「お久しぶりです。田所さん。」


「間違えてるから……。」


「ああ、名前が旧姓でしたね。でも、私に電話なんて、珍しい……。お二人で仲良くやってるのではないのですか?」


「仲はいいわよ。でも、不安なだけ……。」


「受験の中学生にする話ではないと思いますが……。まあ、ホルモンバランスの異常でしょうね。明日、産婦人科に行くべきです。」


「適切でいいわね。安心するわ。」


「先生が馬鹿なだけですよ。紅を心配するなら、晴がガードしてますから、不安がる事等ありません。今世は晴が強い。流石、啓吾隊の隊長ですよ。曇りが全くない。」


「確かに……。秋継の側に、律之くんが居てくれて安心するわ。仕事場まで着ける訳にもいかないしね。」


 節は微笑んだ。


「受験生の副担の先生の方が大変ですよ。特に女子が……。結婚したのを知ってるのに、粘る娘はまだ居ますからね。」


 取り留めのない話を律之がすると、節は小さく笑った。


 夜は更けっていくのだった。

倫敦 時折、春 の投稿出来なかった話です。

本編も同タイトルで投稿しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ