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地獄の歓迎式典

 ロイが戻ってきてすぐに歓迎式典が始まった。

 黒髪お化けのことを伝えたくてしょうがないレヴィは式典が始まってもずっともじもじしていた。チラチラと隣に座るロイを何度か見る。

 歓迎式典の流れはだいたいどこも同じで、お偉いさんが挨拶をして、こちらもそれぞれ挨拶を返して催しものを見た後に、再度こちら側の代表者がお礼言って終わりだ。


 この挨拶がレヴィは死ぬほど苦手だった。

「レ、レヴィと申します。今日はありがとうございます。女神さまの像が大きくてビックリしました・・。」

死んだ魚の目をしてものすごい小さい声で何とかそれだけ伝えて着席した。


 一瞬だけ間があった後に主に後ろから大きな拍手がおこり、つられたターオ側の出席者も拍手をする。お化けよりはマシだと思ってレヴィなりになんとか頑張ったが、実際はほとんど声が届いていない。

 旅団側の関係者はすました表情と妙に大きい拍手でその場を流し、最後にウェイロンが大神官らしい素晴らしい口上を述べて場をまとめた。

 これでも最初は頭が真っ白になって何も言えなかったのだから、レヴィ的には成長している。


 しかし、その役割が終わると、なおさら隣の席のロイにお化けのことを伝えたくてしょうがなくなってきた。


 最前列の来賓席のような所に座らされ、リアム、デナーリス、ロイ、レヴィ、ウェイロンの順で着席している。その後ろにはメイソンをはじめ旅団の高位者の席があり、同世代の3名が従者としてそれぞれ付き従っている者の後ろに立って控えている。さらにその後ろに警備の兵士が並ぶ。


 チラッチラッと視線があることにロイも早々に気づいていて、全員の挨拶が終わり、催し物の準備をしている間に『なに?』とひそめた声で短く聞いた。

『今日、馬車の中でっ』

「お待たせいたしました!それではまず歓迎の調べをお聞きください。ターオの伝統的な楽器を使っております。」

お化けのことを伝えようとしたところで、催し物が始まりレヴィは口をつぐんだ。

それくらいの分別はある。

音楽が終わり拍手を送る。チャンスだ。

ちょっとロイに体を寄せる。

『あのさ!馬車から外の景色みようとしたらっ』

「それでは次はターオの伝統工芸品を紹介させて頂きます。」

レヴィは再び口をつぐんだ。


 この時点で後列の者はレヴィがそわそわと合間を見つけてはロイに話しかけようとしているのに気付いている。しかし催し物が始まったらちゃんとじっとするので見て見ぬふりをしていた。


 最初の工芸品の紹介が終わったが、その後に紹介された工芸品が良くなかった。


「こちらはターオが誇るすばらしい絵筆でして、高級山羊毛が使用されており大変水含みがよい品です。よろしければぜひ使い心地をお確かめ下さい。」


 全員の前に紙と絵筆と黒色の墨が用意された。素直なデナーリスがさっと筆を滑らせ賛辞を述べた。

 気をよくしたターオ側は得意満面で有名だという絵師を紹介すると、ライブパフォーマンスが始まる。


 レヴィは皆がそのパフォーマンスに夢中になっている間にそっと絵筆をとった。

 ちょうど黒色だ。そしてスラスラと今日見た恐ろしいお化けの姿を紙にデカデカと書き始めた。さすがに後列からは丸見えだ。


 従者として参加していたナバイアとエイダンは、レヴィの絵を見てすぐ頬に力を入れた。


 レヴィがちょんとロイをつつく。

ロイがちらりと見ると、紙いっぱいに落ちくぼんだ目玉を持つ黒髪の化け物が描かれている。

ロイはすばやく絵筆を取ると自分の紙に「!?」と書いた。


レヴィが再び絵筆を持ち書き加える。


―今日オバケ出た


 ナバイアがブーと吹いた後、高位者席に座っていた姉のエマがわざとらしく咳払いをした。ナバイアの隣ではエイダンが頬を噛み体に力を入れやりすごそうとしている。


 レヴィとロイのやりとりに気づいたウェイロンが視線をライブパフォーマンスからそらさず、器用に手だけを動かして紙にさらさらっと何かを書きつける。


―やめなさい


 そこから後列は地獄だった。

 レヴィの下手くそなわりに臨場感のある絵と!?とやめなさいがずっと机の上に置かれたままライブパフォーマンスが進められていく。人間笑ってはいけない場面だと余計に笑いを我慢するのが辛くなってくるものだ。

 ライブパフォーマンスも終わり、ナバイアやエイダンをはじめ一部の兵士がフーと大きく息を吐き天井を見上げる。


 なんとか心を持ち直したところで最後の演目が始まった。

「それでは最後にターオに伝わる伝統舞踊をご覧ください。こちらは悪しきものと精霊の戦いが表現されておりまして。」


 演者が舞台に上がったところで、エイダンが盛大に吹いた。

 ガタッとウェイロンが立ち上がり拍手で出迎えて誤魔化そうとする。続いてエイダンの前に高位者として座っていたイーサンも立ち上がり拍手を送るついでに、エイダンに肘鉄を入れた。後列の護衛たちも大げさに拍手する。


 異様な盛り上がりでスタートした舞台では、落ちくぼんだ目の仮面をかぶった演者が黒い髪を振り乱して踊っていた。


レヴィは「あ、あれ!やっぱお化けいる!」とロイを揺さぶって、しばかれた。

 幸い演目が丁度見せ場だったためターオ側で精霊の庇護者が庇護者にどつかれる場面を見た者はおらず演目は無事に終わり、ロイとレヴィのやり取りに全く気付いていなかったデナーリスが感謝の言葉を述べて平和に終わった。


 最後に気を利かせたターオ側の給仕の女性がお茶のおかわりをレヴィにもってきて机上の絵に気づいた。ロイとウェイロンはいつの間にか紙を懐にしまっている。


「まぁ、お上手ですわね。でもお化けというか悪しきものではなくこちらが精霊ですのよ。」


 先ほどの演目の絵を描いたと思い込んだ給仕の女性が慈愛に満ちた表情でレヴィに真実を教えた。レヴィは今日オバケ見たに線を引き、下に精霊だったと書き直し、その絵はターオの神殿に飾られることになった。


後にナバイアとエイダンは地獄の歓迎式典だったと語った。

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