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どついたらダメ

「というわけで、お化けがいると叫んで気を失った後は神殿で寝かされている。念のため医師に見せたが気絶してるだけでそのうち目を覚ますだろうとのことだ。」


 以上がウェイロンがリアムと議会と領主への挨拶を終わらせて神殿に入った後に聞かされた報告だった。


「本当に面白い子ですね。こんな愉快な旅はなかなかないです。」

長寿の大神官はくぐった修羅場の数が半端ないので、些細なことはすべて愉快なことですませてしまう。


「ちなみにレヴィ以外にはお化けは見えなっかったと?」

「ああ失神した後にもう一度見たが何もなかった。」

「メイソン、あなたお化けを見たことは?」

「あるわけないだろ。」

「そうでしょうね。ちなみに私もありません。」

「つまり?」

「レヴィにしか見えなかったとなるとおそらく精霊でしょう。まさか街に入った途端に姿を現すとは予想外でした。」


「デナーリスには見えてなかったようだが。」

「ああ、レヴィは精霊の姿とか声をはっきり視認できるんだと思います。本人は言ってくれませんが、おそらく一人だけ2度祝福を受けている。思念体だったせいでお化けと間違えたんでしょう。」

メイソンが思わず押し黙る。


ウェイロンがふっと笑った。

「私の推測です。いつか本人が話してくれるのを待っています。あなたも気にかけておいてください。今後もお化け騒ぎが起こるかもしれませんし。」


 この旅団に参加する者は護衛にいたるまで全員神殿と秘密保持の魔法契約を交わしている。契約を交わした以上、情報を漏らすことは不可能だ。同じ契約を交わしているもの以外に機密事項を話そうとしたり書き記そうとすると魔法で阻まれてしまう。


「了承した。精霊はまた来るだろうか?その都度騒がれるとめんどうだ。」

「そうですね。神殿は結界を張っていますが、精霊の場合どう反応するんでしょうか?」

500年も精霊が現れなかったので、神殿の結界が中級精霊にどう作用するか検討がつかない。

「精霊は女神の慈悲ですから、我々の結界が精霊を弾くとは思えません。とはいえ、レヴィは失神するほど怖かったんでしょう?目が覚めてまたいたらちょっと可哀そうな気がしますね。」

「まさかお化け程度で失神するとはな。」


 新米冒険者なら張り手で起こしているところだが、相手は精霊の庇護者だ。

メイソンはこれでも我慢した。デナーリスがこの子はちょっと陰気で臆病者な弱虫なんですごめんなさいとメイソンに謝罪し、これから夜に一人でトイレいけなくなったらどうしましょうと心配していた。ちなみに現在はリアムが傍についている。


「我々が忘れてしまったものをまだ持っているんですよ。」

「俺は最近精霊の庇護者が4人いるありがたみが分かってきた。」

「そうでしょうとも。私は日々女神に感謝しています。」

「あの3人がいなかったら、たぶんどつきまわしている。」

「神殿に協力してくれなくなるのでやめてくださいね。繊細なんですから。」

「ああ。」

「ちゃんとしろとか、しっかりしろとか、なんでこんなことも出来ないだとかも禁句です。いったん拗ねると大変です。」

「言いそうになったことは何度かある。」

「絶対やめてください。」

「善処しよう。」

メイソンは真面目な顔で頷いた。


 レヴィという人物は覇気がなく思考回路や行動も浅慮でメイソン流に言えば典型的な小物だ。

まだ若い分ついつい叱りつけて指導したくなる。しかも周りは才能に溢れる者、努力を惜しまない者、精神的にも肉体的にもタフな精鋭ぞろいなため余計に目につく。こっちは神殿と契約魔法まで交わして参加しているというのに、本人には自覚も覚悟も全くない。


「レヴィの分まで残りの3人が頑張ってくれていますから。デナーリスはもはや神殿の顔ですし、リアムのあの迫力と精悍さは貴族対応にピッタリです。ロイは頭の回転が早くて商業ギルドや冒険者ギルドでも足元をすくわれることがない。出来すぎなくらいです。」

「まぁな。」

「でも、精霊が興味を示すのはレヴィです。人の対応は3人がいくらでもカバーしてくれますが、精霊はあの子でないとダメなんです。」

「ああ。」


「そういえば今日の一角獣の話は聞きましたか?メイソン、あなたならどうします。」

「捕まえて売る。一角獣がいくらすると思ってるんだ。」

「そうでしょうとも。我々は今日無償で一角獣を手に入れました。実は旅団の一角獣の半数はレヴィを使っておびき寄せたものです。」

「凄まじいな。」

「ええ、正直時々怖いくらいです。そう思うとあの子で良かったと思えませんか?」

「‥確かにな。」

「という訳でなんとか温かい心で接してあげてください。どつくのは厳禁です。なるべく励まして応援してあげるか、よしよししてあげて下さい。あなたの場合、怖がられて近寄ってこないでしょうから、どつきさえしなければ良しとします。」


 大人二人が顔を合わせて話し合った結論がこれである。


「さて、歓迎式典までに起きるといいんですが、起きてもしばらくグズッてそうですね。」


 うーんとウェイロンが美貌の顔で出席させるか休ませるか悩みだす。

長らく若者と触れ合うことがなかった大神官には、レヴィが他の若者より幼く見えているようだ。

なんなら若干幼児扱いしていることに気づいていないウェイロン様であった。

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