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こいつ木登りできるんか?

 休憩時間になりレヴィは死んだ魚の目をしたまま馬車から降りてきた。だいたいそういう表情をしているので周りも気にしない。ただ、花だらけの頭だけは二度見されている。


 旅団において精霊の庇護者たちは護衛対象である。護衛騎士や事務方にとっては、丁寧に接する対象であって、気さくに話しかける相手ではない。加えて、レヴィが人見知りのコミュ障なのは旅団の中では周知の事実だ。そんなこともあって、レヴィに話しかける者は多くない。


 一人ふらふらと歩くなか、別の馬車だったロイがレヴィの前に立った。腕を組んだまま仁王立ちをしていてちょっと偉そうに構えている。

「おい、知ってるか?ターオって肉で有名らしいぞ。」

「えっ?」

ロイ自身も先ほど知ったばかりの情報を得意げにレヴィに伝える。

「レヴィ聞け。今日の晩は絶対ステーキが食える。」

「え?ステーキ!ってことは肉?」

「ああ、肉だ!」


若い男子にとって肉とは力だ。レヴィの目に生気が戻ると同時に、後ろからも気合の入った声があがった。


「ヨッシャアアア!」

4人と同世代の旅団の参加者エイダンである。

「初日だ!絶対うまいステーキ食える!良かったなレヴィ!」


 レヴィの肩を抱きながらロイとグーで拳を合わせる。南国ドラクンゴからの参加者であるエイダンは誰とでも気さくに話す好青年だ。今回の旅団には、近隣3ケ国からも同行者が集められており、4人と同世代の参加者が3人いる。彼らは旅団の幹部の従者という扱いだが、その役割上、精霊の庇護者たちと親しくすることを許されている。

 

「なぁ、ステーキってお替りできると思うか?」


貧乏家庭から騎士学校に入って才能を認められた苦労人エイダンはこの旅団に参加して初めて学校の食堂以上の美味いものを食べることができたと先日女神に感謝の祈りをささげていた。今年騎士学校を卒業する予定だったがこの旅団がスタートしたことで一足先に卒業したそうだ。まもなく成人を迎える。


「それはさすがにマナー違反でしょ。」


 後ろから大国ユクラシルからの参加者であるナバイアが残念そうにエイダンに伝える。

 彼もまた肉を愛する男子だ。レヴィと同い年の最年少参加者である。レヴィよりも小柄で華奢だが足は大きいので背はこれから伸びると豪語している。


「そうか、仕方ないな。」

エイダンは残念そうにしたあと、まだ肩を抱いたままだったレヴィを見る。

「よし、レヴィ、今回のミッションが成功したらステーキが腹いっぱい食べたいってウェイロン様に言ってくれ。」

「お、お、俺が??」

「あの人お前に甘いじゃん。」

「あー、無理無理。こいつが自分のプレッシャーを増やすようなこと言えるわけないだろ。」

「うう。」

ロイがすかさず否定する。

さすが幼馴染、よくわかっている。

「俺から言っておく。いいか肉のためだ!全力を尽くすぞ!」

「「「オー!!!」」」

レヴィも一応拳を上げたが、余計にプレッシャーが増えただけだった。


「それにしても髪すごいことになってるね。」

ナバイアがレヴィの三つ編みのしっぽをつかむ。

「リアムがやった。」

「あの人見た目熊さんなのに器用だな。」

「ああ、リアムは昔からダニーの髪の毛も結んでやってたからな。」

「ええー、いいなぁ。」

双子の兄であるロイがそう答えると、ナバイアは心底羨ましそうにする。


 ダニーことデナーリスは世界一有名な花の乙女だ。まだ知り合って3週間のナバイアとエイダン、それとこの輪に入ってきていないもう一人の同年代の参加者ラリーも彼女と接する時は緊張している。ちなみに初日にはサインをもらった。


「お前だって姉貴いるんだから、髪の毛くらい好きなだけ結んだらいいだろ。」

ロイがそう指摘するとナバイアはわざとらしく手を広げて首を振る。


 ナバイアの姉もこの旅団に参加している。大国を代表して姉弟で参加している。しかも、その姉は美人ときた。ロイからすれば美人な姉を持っているナバイアの方が羨ましい。


「姉弟だとありがたみが薄れる。デナーリス様なのがいいんだろ。」

「そっくりそのまま返す。」

ロイとナバイアは見つめあった後、固い握手を交わした。


 多少年齢は違うが同世代の男同士6人、すっかり打ち解けあっている。もうひとつの大国イルラロンドの参加者ラリーは少々ぶっ飛んでいるが悪い奴ではない。大人ばかりの中、彼らの存在が4人に気持ちの余裕を与えてくれている。


 レヴィも最初はリアムとロイの間でおどおどしていたが、最近ようやく3人に慣れてきた。ちなみに宿舎やテントの部屋割りが2人の場合、レヴィがリアムとロイ以外を拒否するので、残りの4人でローテーションしていたりする。それですっかり仲良くなった男同士であった。


 ちなみにリアムは甘やかしてくれるが構ってくれるのはロイなので、レヴィは一緒に遊んでほしくてロイの周りをちょろちょろしている。見るからに子分だ。


「じゃあ運動するか。」


 しかし最近その遊びがずっと鍛錬なのでレヴィはちょっぴり辛い。

 でも馬車の中で引きこもっていてもどうせ連れだされるので素直についてきている。もともと鍛錬好きなリアムとロイに加え最近はエイダンまでがいるので、ますます剣を振り回すことが増えている。魔導士であるナバイアまで影響を受けて剣を振り出し始めたので、どんどん肩身が狭くなるレヴィである。

 おまけに周りは選びぬかれたエリート軍団だ。暇つぶしに教えてくれようとするので休憩なのか鍛錬なのか分からなくなってきている。


「剣を振りたいところだが、今日の休憩時間は短いからな。木登りでもするか。」


 馬車道のちょっとした広場のようなところでの休憩だ。広いだけで店があるわけでもなく、周囲は森が広がっている。たまに魔物が出たりもするが基本的に馬車道の安全性は高い。

 街道沿いには魔物除けの魔道具が設置され、基本的に雑魚はよってこない。大型の魔物が出れば運が悪かったとしてそれなりに対応せざるを得ないがこの旅団に関して言えば最強軍団だ。このあたりの魔物など、たかが知れている。


 そんな場所での休憩なので特に周囲を警戒することもなく各々自由に過ごしている。警備に従事している旅団の大人たちと違い、精霊の庇護者たる4人と従者扱いの3人は守られて移動しているだけなので基本的に体力を持て余していた。


「いいけど、レヴィって木登りできる?」

エイダンが疑わし気ににレヴィを見る。

「できる。」

「おっし、じゃあ競争な。」

そういうとエイダンが早速に近くの木に走り寄り、ひょいっと手ごろな枝にしがみつくと逆上がりでくるっと体をまわして枝の上にのってしまった。

「俺が負けるわけないだろ。」

ロイがすかさずそれを追いかけて同じ木の枝に軽々と飛び乗った。

「えー、二人ともそれはフライングだって。」

ナバイアが文句を言いながらも後を追いかける。

ふわっと下から風が吹いて何かしらの魔道具か魔法を使ったのが分かった。

同じように2人の後に続いていってしまった。


「あいつらおかしい。俺が普通なんだ。」

レヴィはそう呟きながら3人が最初に上った少し高い枝ではなく一番低い枝に手をかけた。


「えっ?」

 後ろから通りすがりの騎士に二度見される。その顔は明らかにこいつ木登りできるんか?って顔だった。結局その枝に登ったはいいが、次の枝に移ろうとしてどうすればいいのか分からず早々に木から降りたレヴィだった。

 通りすがりの騎士もやっぱりなっという納得顔を見せて去っていった。


 レヴィは3人が降りてくるまで仕方なく木の下の葉っぱを引っこ抜いていた。

そうしてイジけていると森の奥から野生の一角獣が現れて近寄ってきたので、レヴィはその背に乗せてもらい3人が最初に登った木の枝に馬上から移動しようとしたところで旅団の幹部に見つかって怒られた。

 馬上から降ろされ、ついでに一角獣は捕獲された。怒られているレヴィに気づいた3人が降りてきて、ちゃんと面倒を見ろとついでに怒れらた。


「えっ?ちょっと待った、数分でなんでこんなことになってんだ?」

「野生の一角獣ってこんな街道に出てくるものだっけ?」

「あー、こいつ一角獣ホイホイなんだよ。」

「「ほ~。」」


 明らかにドン引きした目でエイダンとナバイアに見られて、無理やり木登りに巻き込まれたレヴィは休憩後リアムにもう一回慰めてもらった。


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