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親に感謝しろ

 花馬車の中でレヴィはせっせと花輪を作っていた。

幼いころから手先が器用で、花輪もポプリ作りも刺繍も縫物も得意だ。なんなら家事全般が得意ですべて祖母にしこまれた。言ったら怒られるがデナーリスよりよっぽど女子力が高い。それにこういうちまちました作業を1日中繰り返すことが全く苦にならない。根っからの陰キャである。


 今日はリアムが同乗している。リアムは基本静かで二人でいると会話はほとんどなく、レヴィがひたすら手元を動かしている横で斧を磨いているか本を読んで過ごしているのだが、今日はウェイロンも同乗していて、これから行く街の打ち合わせをするので、レヴィはそれを聞くともなしに聞いていた。


「先に部族院に行くんですか?」

「ええ、今日がちょうど議会の最終日で近隣の部族長が集まっていますから。」

「そこでエルフ族のシェラン様とお会いできる。」

「ええ、彼女の地が本命です。」

「やはりここでもエルフ族が守る土地が最有力候補なんですね。」

「彼女たちはよくターオの森を守ってきました。できればその献身に応えたいところです。」


 神殿もやみくもに巡礼を行ってるわけではない。

3年の準備期間の間に各地の中核都市を調べ上げ、なるべく効率的に回っている。小精霊でも貴重だがやはり魔物への牽制力を考えるとその地に息づく中級精霊を呼び起こすのが最も効果的だ。


 500年前まで人界と精霊界はまじりあっていてその区別は曖昧だった。精霊はたびたび人界に出現し、魔物はその霊力を恐れ力ある精霊の近くには姿を現さない。人は精霊が宿る土地に住み着き町を作っていった。古い都市を調べれば必ず精霊の伝説が残っている。


 精霊の存在は女神アマナキアスの慈悲とされる。

一方、人間界を悩ませる魔物は女神の試練と言われている。500年前に精霊たちが沈黙してから魔物の脅威は増える一方で、人々の暮らしや交易を脅かし続けている。徐々に人が住めない場所が増えており、人間だけではなくエルフやドワーフを含め魔物と敵対する部族たちは住む場所を少しずつ追いやられている。


 そんななか精霊が500年ぶりに再び姿を現し始めた。ウンディーネの祝福を受けた4人に興味をひかれた小精霊が姿を見せるなど、すでに各地で奇跡がおこっている。精霊の庇護者と呼ばれる4人を迎えることは各都市の悲願と言っていい。


 レヴィたちにとっても巡礼団がスタートして初めての中級精霊へのコンタクトだ。その重責を担っていると思うとレヴィは二人の会話を聞きながらだんだん気が重くなってきた。


「うう、なんだかお腹痛くなってきた。」

「レヴィ。」

 リアムとウェイロンはレヴィの弱音を耳にするとすぐに会話をとめてレヴィを励ましてくれる。

「レヴィ大丈夫だ。お前はいつも通りにしていればいい。」

「髪も目も光り輝いてますよ。最近変えたシャンプーが合っていてよかったです。」


 世界一美形なんじゃないかと思えるハイエルフに褒められてレヴィは死んだ魚の目をした。このスーパーイケメンのハイエルフ様でもなく、充分イケメンなリアムとロイでもなくなぜ自分なのか。


 100万回くらいは繰り返した自問自答だが、そのたびに頭の中のロイがバカにした表情で『そりゃ、目立つ色してるからだろ。良かったな。もうすぐ浮浪児ってところを、その髪と目玉だけで食っていけんだから。親に感謝しろよ。』と答えてくれる。


「それで来てくれなかったら、俺すごくカッコ悪い。」

わーんとリアムに抱き着く。


「お前は500年に1人の逸材だ。自分に自信を持て。」

よしよしとリアムは最近シャンプーを変えてより光り輝くようになったレヴィの金髪をなでる。つやつやだ。


「俺イケメンですって顔して森で何すればいい?一人でぽつんってなってるのをみんなが後ろで見てるってこと?それで一晩すぎたら地獄だし。そんなの嫌だ―!」

わりとごもっともな羞恥心を兼ね備えているレヴィである。


「堂々としていればいいんです。たった一晩や二晩で我々もすぐに中級精霊を呼び出せるとは思っていません。快適に過ごせるように整えておきますから。」

ウェイロンがキリっとした美形面で長期戦の構えを見せてレヴィがあわあわと震えだす。


「俺、行きたくない。」

わーんと本格的にリアムのムキムキの筋肉に引っ付いて喚きだす。


 よしよしと金髪を撫で続けるリアムは結構髪フェチだったりするが、今のところレヴィ以上に美しい髪を見たことがない。いや、もう一人いた。目の前の大神官様だ。残念ながら男ばかりだ。


 リアムは制作の手をとめてべったりと引っ付き虫になったレヴィの髪で器用に三つ編みを編む。ポプリ用の紐でまとめると余りある花も挿しておいた。その間ずっとレヴィはリアムの胸筋に包まれてブツブツと文句を言っている。


父親のいないレヴィにとってリアムの巨体と筋肉はいつの間にか安息地帯になっていて、包まれていると安心するのだ。


 ―そうやってすぐ甘やかすからコイツのおつむバカのまんまなんだぞ。


ロイがいたら確実にリアムごとバカにしていただろう。

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