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水もしたたるウェイロン様

 馬車が来賓棟の裏手に到着すると、御者役の護衛がすぐに階段をおろしてくれた。レヴィがその階段を慎重に降りる横で、エイダンは事も無げに、ひょいと荷台から飛び降りる。


「俺が普通なんだ……」

レヴィは自分に言い聞かせるように、ぶつぶつと呟きながら階段を下り、井戸へと向かった。


 実際、レヴィの運動神経は“陰キャ”としてはごく平均的なものだ。問題は、周囲にいるのが選りすぐりの精鋭たちと、精霊に選ばれし者ばかりだということ。比較対象が悪すぎる。結果、レヴィはたびたび自分で自分を慰め、励ます羽目になる。そんなレヴィを、周囲は生温かく見守っているのだった。


 一行が滞在している来賓棟は、元々は隔離療養者向けに建てられた施設で、敷地の奥まった静かな場所にある。裏手には湯治用の温泉露天風呂があり、いつでも自由に入浴できる。現在では、アクセスが不便なため使用者もなく、隠居した神殿の元高官がたまに利用する程度だ。


 あまり利用されない露天風呂とは、何とも贅沢な話ではあるが、複数の場所で温泉が湧き出しているカルハサ神殿にとって、露天風呂の一つや二つ惜しむものではない。ちなみに、神殿の正門から入って最初の建物は、直営の巨大な大浴場である。男湯と女湯にまたがる巨大な女神像は観光名所の一つにもなっている。とにもかくにも水の豊かな地だ。


 そんな水事情のおかげで、レヴィたちは気兼ねなく井戸から水をジャバジャバと出して、まずは靴の汚れを落としていく。レヴィとエイダンは湿原散策で汚れた服も脱いでざっと洗うと、ほぼパンツ一枚の状態で露天風呂に向かった。護衛たちは靴だけ簡単に洗い、周辺の警戒にあたる。


 二人は脱衣所で裸になると腰にタオルを巻いて露天風呂の扉をあけた。もわりと立ち込める湯気の中から、心地よい歌声が耳に届く。

「ウェイロンさまー!」

イケボすぎるウェイロン様の天上の調べにエイダンがうっとり聞きほれる横で、ウェイロンの存在に気づいたレヴィが湯煙の中に呼びかける。


「しっかり泥を落とすんですよー。」

日に3度は露天風呂に出没する温泉大好きウェイロン様の声が露天風呂の中に響いた。

「はーい。」

レヴィは返事をして、エイダンとともに洗い場へ向かう。井戸である程度きれいにしていたため、簡単に髪と体を洗うだけで充分だった。


 体を洗い終えると、二人も乳白色の湯に身を沈める。この温泉は少し独特な香りがあり、打ち身によく効き、湯冷めしにくいのが特徴だ。湿原から帰るたび温泉に入る生活が続いているため、レヴィもエイダンも、肌がつるつるすべすべである。


 ウェイロンに合流すべく、レヴィたちも露天風呂の奥へと進む。湯煙のなか一際大きな岩の裏側で長髪をアップにしたウェイロンが、優雅に岩に片肘をかけて温泉を堪能していた。デナーリスが見たらセクシーすぎると鼻血を出すかもしれないが、レヴィはウェイロンの温泉三昧ぶりに、おじいちゃんみたいという感想を周囲に漏らしている。


「お帰りなさい。今日はどうでしたか?」

ウェイロンの優しい微笑みにレヴィもニコニコして今日の成果を伝える。

「頭が赤色で身体が黄色のカエルを見つけました。」

「それは随分派手なカエルですね。」

「ダニーが好きそうです。」

「ハハハ。好きかどうかは本人に聞いてみてください。」

レヴィはさらに近づき、肩まで湯に浸かってウェイロンを見上げる。

「今度、捕まえたら見せにいってもいいですか?」

「それはまだ難しいかもしれませんね。」

「レヴィ、無理を言ってウェイロン様を困らせたらダメだ。」

「えー。」


 エイダンに窘められてレヴィはふてくされたように湯の中に沈んでいく。ぶくぶくと泡を立てて潜り、そのまま広い露天風呂を泳ぎ始める。そんなレヴィを横目に、ウェイロンとエイダンは会話を続ける。


「ウェイロン様。のちほど護衛から詳しい報告があると思いますが、今日も上空にヴェロキラが現れました」

「そうですか。続きますね。」

「はい。今後は俺も弓を待ちます。」

「分かりました。でも、くれぐれも君は無理しすぎないように。」

「はい。」

「そういえば、例の件ですが、神殿の公式グッズにすることに決まりましたよ。」

「え?」

「あなたのお手製のものは、引き続き、稀少品として扱います。」

「ありがとうございます!これで弟と妹たちを進学させてやれます!」

エイダンはその場で、女神に感謝の祈りを捧げ始める。


「ふぅ、それにしても、ここは本当に楽園ですね。噂はは聞いていましたが、まさかここまでとは・・。」

老後はここで生活しようかなと、ちょっぴり考える水もしたしたるウェイロン様であった。


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