ターマキリさまってすごいよね?【ターオ編完結】
神殿騎士の儀礼服に身を包んだリアムのカッコ良さにレヴィが「ほわあわああ」と奇声を上げた。これまでにも何度か見ているが、何度見てもカッコイイ。白の儀礼服の胸元には、ウンディーネを象徴する青色の飾緒が着けられており、片側のみ長いマントの裏地には豪華な刺繍が施されている。精霊の庇護者であり、正式な神殿騎士であるリアムにのみ着用が許されている特注品である。
「ほあわあわたた、、!」
奇声を上げるレヴィに対して、リアムは若干迷惑そうである。レヴィと一緒にエイダンとナバイアも正装のリアムを取り囲んで儀礼服の細部を鑑賞している。2人は見るのが初めてだ。
「その儀礼用の剣もちゃんと斬れるのか?」
「ああ。」
エイダンは軍人らしく装備品に興味津々である。
「刺繍の防御魔法陣えぐいなー。神皇国の神術ってマジ複雑怪奇だけど芸術品だよね。なんとなくマッチョの暑苦しさも和らいでるし。」
「・・そうか。」
ナバイアは若干失礼なことを言いつつ、マントに施された巧な刺繍の術式に目を奪われている。
「アワワアアアアワワ。」
その間もレヴィはずっと奇声を上げ続きていたのだが、2人にうるさいと注意されて黙った。
「そんなに儀礼服に憧れてるなら、将来神殿に所属すれば着れるだろ。」
ようやく静かになったレヴィにエイダンが呆れたように言う。
「俺に似合うわけないじゃん。」
「確かに。」
ナバイアが肯定して微妙な空気になったところで、どんな服でも着こなす骨格からして超絶美形のウェイロン様が爽やかに登場した。
「リアム、いつもながらとても似合っていますね。」
「ありがとうございます。」
「レヴィにはレヴィに似合う正装を用意しますので、将来安心して神殿に所属してくれていいですからね。もちろんエイダンとナバイアも歓迎しますよ。」
嫌味なく勧誘するウエィロン様にエイダンとナバイアがハハハと苦笑いをする。
「・・こいういうの着たら何か式典に参加しなきゃいけないから、いいですぅっ、痛たたたた。痛い~。」
儀礼関係をほぼ一手に引き受けているリアムに、こめかみをグリグリをされてレヴィは撃沈した。
「余計なこと言うからだよ。」
「あー、ナバイアがそれ言う?」
「痛い~。ウェイロンさま、リアムが俺のこと虐めた。」
「教育的指導です。」
「リアムのバカー!もういい!ダニーに治してもらってくる。」
「ああ、デナーリスならもう先に出発しました。」
「えっ?」
民衆の注目を分散させるためにデナーリスは先に出発している。この後、レヴィとロイが出発して最後にリアムが領主への挨拶など儀式もろもろを終えてターオをたつことになっている。事前に説明を受けていたはずだがレヴィはすっかり忘れていた。
「レヴィ、あなたも間もなく出発ですよ。」
よく見ればウェイロンの後方に見慣れた護衛の面々がいる。どうやら迎えにきたようだ。
「レヴィ、シェラン様に伝えることはあるか?」
リアムに真面目な顔で聞かれ、レヴィはこめかみを抑えてた手を外すと、リアムにきちんと向き合った。
「えっーと、ありがとうございますって伝えて。」
「何にたいしてだ?」
「湖を守ってくれてたこと。あそこ、とっても居心地良さそう。みんな湖に入ってるし。」
「そうか。」
リアムは目元を和らげると、レヴィの頭を優しくなでる。
「他には?」
リアムが優しいモードに入ったのを敏感に察知したレヴィは、頭をぐりぐりとリアムの手に擦り付ける。
「ええっと、あっ!そうだ!ウンディーネさまは、まだあまりこっちで体を保てないんだ。久しぶりすぎて、そんなにいられないんだって。」
「あぁ。」
ザワっと周りの空気が動く。ウェイロンたちも初めて聞く話である。唐突で脈絡のない話でもリアムは余計なことは聞かず、相槌だけでレヴィの話しを促している。
「でもね、ターマキリさまって短い間だけど、こっちに出て来れるし、脱皮もできるし、ウンディーネさまよりすごくない?」
レヴィが宝石のような美しい目をキラキラさせて、リアムに悪戯っ子のような視線を向けた。
ハッとする者、口を抑える者、隣の者と目を見合わせる者、そんな周囲の変化には気づかずレヴィは楽しそうにリアムに問いかけている。
「あぁ、すごいな。」
「たぶんたまーに来てたんだと思う。だって、ターマキリさまって、すごいシャイなのに好奇心いっぱいなんだもん。あっ、時々お化けダンス見てたのかも、、リアム?」
リアムが唐突にぎゅっとレヴィを抱きしめる。
「なに?」
レヴィは不思議そうにしながらも、へへっとリアムを抱きしめ返す。
「俺がお化けを怖がったからカマキリになってくれたし、ターマキリさまって優しいよね。だからきっと湖を綺麗にしてくれるターオの人たちのこと嫌いにならなかったんだと思う。」
「あぁ。」
「おれ、脱皮もらえて嬉しかったから、シェラン様にありがとうって伝えて欲しい。」
「あぁ。」
「ばあちゃんは、沢山頂いたものはお裾分けしなさいって言ってたけど、シェラン様はミニターマキリさま喜ぶかな?」
「あぁ。きっと喜ぶ。」
「それなら良いんだ。」
レヴィが苦しくなってリアムの腕から脱出すると、周囲の者たちがほとんど泣いていた。
「え?」
ウェイロンは目元をハンカチで抑え、ナバイアはギャン泣き、エイダンや護衛の騎士たちは目元を抑えて上を見上げている。見送りに集まっていたターオ上層部のお爺さん神官たちや、一部の事務方のおじさんたちは床に崩れて泣いていた。
「えっ??」
死屍累々の咽び泣くおじさん達を前に、レヴィはイーサンの教えを忠実に守って、静かに地獄の時間が過ぎるのを待つことになった。
「悲しいんじゃない、嬉しいんだ。」
「うん。俺も。」
こうしてレヴィはターオを出発し、ミニターマキリはリアムから長く湖を守ってきたエルフの一族に引き渡された。
一旦、ターオ編は完結します。
続編の希望があれば、別の土地の精霊編を続けようかなーっとゆるく思ってます。
ここまで読んで頂きありがとうございます。




