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いい子の名誉挽回

 ミットレ行きはなくなった。すっかり川エビの口になっていたナバイアは嘆き悲しんだが、レヴィがまたターマキリに会いに行きたいと言い出したことが優先された。それも夜に会いたいというので月明りのある満月の夜に泊りがけで向かうこととなった。


 2回目で泊まりということもあり人数はある程度絞り込まれ、幹部はウェイロンとエマ、従者はナバイアのみ。後は護衛の面々と珍しく神殿の事務方がいる。激務で疲労困憊している事務方を精霊の地に向かわせてモチベーションを維持させようというセルバスの配慮である。


 日が暮れ薄暗くなってきた泉にレヴィたちは足を踏み入れた。1回目とは違い巨大カマキリの姿は見えない。

「ごめんください・・。ターマキリさま?」

レヴィが泉を覗き込んで声をかけたがターマキリの姿は見当たらない

「ウェイロンさま、ターマキリさま留守みたいです。」

粘着質な付きまといタイプの精霊であるターマキリが今日のことを把握していないはずがない。むしろウェイロンはここにくるまでの間、ずっと気配を感じ取っていた。

「探してみたらどうですか?」

ウェイロンのひとことにレヴィがぱぁっと顔を明るくする。

「はい、探します。」

そう言うとスッと虫取り網を構えた。

はぐれ精霊がいたら捕まえると言って持ってきた虫取り網だが、ターマキリ探しにも使われることになった。レヴィは楽しそうにカマキリがいそうな茂みの捜索に出かけていく。


「完全に日が落ちるまでには見つかるでしょう。」

ウェイロンはのんびりそう言うと、ピクニックシートに腰かけて優雅に夕涼みを始めた。

座っているだけで絵になる男の横で魔導士姉弟がおやつタイムに突入する。

ウェイロンが茫然としている神殿の事務方たちに気づくと優しく声をかける。

「皆さんもどうぞこんな時くらいはゆっくりして下さい。」

すでに中級精霊の聖地訪問をこんな時扱いにしているウェイロン様である。


 しばらくしてからレヴィが歓声をあげた。

「あー!ターマキリさま!」

すっかりくつろいでいた面々が声につられて見ると30㎝ほどのカマキリがレヴィの少し上空を飛んでいる。初見の事務方がギョッとするなか、ナバイアたちはようやく見つかったのかと呑気に眺めている。

「そうそう。姉さん知ってた?カマキリって飛ぶんだよねー。」

「あらそうなの?」

「ははは、ターマキリ様は精霊ですよ。」

そのやり取りの視界の端で、レヴィが網でカマキリ姿の精霊を捕獲した。

「ウエィロンさま。ターマキリさまを捕まえました。」

前回よりも小型化した精霊を腕に抱えて満足そうなレヴィにウェイロンは優しく微笑み返した。

「良かったですね、レヴィ。」

「はい。楽しかったです。」

レヴィは満面の笑みを浮かべるとターマキリを抱えたまま泉に向かっていった。


「レヴィ様、楽しそうっすね。」

「あんなに元気な方だったんだな。」

普段のレヴィは大人しくて幼馴染の陰に隠れがちだ。人見知りも相まって覇気のないイメージが定着している。それなのに突拍子もないことをするので事務方にとっては一番よく分からない人物なのだが・・。

「ただの内弁慶だったんっすね。」

「「「ぶっ」」」

武具祭具室長の率直な表現にレヴィをよく知る面々は吹き出した。


 一方、内弁慶と称されたレヴィはターマキリを泉の前のシートにおろした。特大サイズを用意していたのだが、今回のターマキリが腕におさまるサイズ感だったためにやたら空間が余っている。しばらく熱心に交流という名の昆虫観察をしていたレヴィだったが、さすがに辺りが暗くなってきたことに気が付き空を見上げた。


「ターマキリさま、暗くなってしまいましたね。」

レヴィがそう何気なくこぼすと、ターマキリの身体から色がスッと消えて本来の夜空の星ような色合いに変わっていく。キラキラと輝く部分が灯りとなって辺りを照らす。

「お星さまみたい。」

前も思ったが夜に見ると余計に光り輝く星雲のようで美しい。

「ターマキリさまの皮で腕輪を作ることになりました。幼馴染3人とお揃いだって思ったけどターマキリさまともお揃いですね。」

ブルブルとターマキリは震えるとカマキリの姿がぼやけ彼本来の姿へと変わっていく。

「最初黒髪お化けって思ってごめんなさい。こんなに綺麗なのに。」

ぶわっとターマキリの髪の毛のような部分が膨らむ。どうやら照れているらしい。


「ターマキリさまこないだ皮を2つくれたから、俺からもう一個お返し。」

レヴィはピクニックシートに用意されていたカゴからいそいそとランタンを取り出した。

それを地面に置くと「ウェイロンさまー。」と声をかける。

するとランタンの中に火が灯る。

「俺が作ったフラワーキャンドル。えへへ。」

レヴィはちょっと自慢げにターマキリに告げた。

ランタンの中では周囲を花で固められた美しいキャンドルが小さな炎をともしている。

レヴィは火が安定すると慎重にランタンからフラワーキャンドルを取り出した。

「アロマも入ってるからすごくいい匂いなんだけど、ターマキリさま分かるかな?」

そう呟きながら二人の間にキャンドルを掲げる。

炎を見つめながらレヴィは忘れないうちにお願いごとを口にした。

「ターマキリさま、また人間界に遊びに来てください。」

レヴィは炎から視線を外すとターマキリの瞳を覗き込んだ。真っ黒だと思った瞳の奥にも星が煌めいている。そして、レヴィの宝石のような瞳も炎に照らされていつもと違う色合いを灯す。至近距離で見つめあうこと数秒。ターマキリの頭がまるで炎のように燃え上がって全身が消えた。

「ええええ???」

キャンドルの火も消えて暗闇にレヴィの戸惑いの声が響く。

どうやらまたもやターマキリは限界を迎えたらしい。


こうしてレヴィはターマキリにお願いをして、いい子の名誉を挽回したのであった。

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