大人たちの事情
ウェイロンはレヴィ達を部屋に戻し、セルバスとの確認を終えると、次に旅団の幹部3名とその従者たちとの時間を取った。
「さて、精霊の遺物についてですが、レヴィから一体は神殿への寄贈に同意を頂きました。細分化して特に魔物の侵攻が著しいエリアに優先して配布します。」
レヴィの思いがけない行動により、とんでもない代物が人界に残された。小精霊の出現だけでもある程度の抑止になることを考えれば、中級精霊のその身の欠片はどれほどの効果に成り得るだろうか。想定を上回る収穫に喜びは深いが、同時に近隣諸国との調整は混迷を極めるだろう。セルバスの頭が完全に禿げ上がるのもそう遠い未来ではないかもしれない。
「もう一体はどうなるの?」
「いずれはレヴィの家にお送りしますが、それまではタリア神殿で預かることになりました。」
ウェイロンがにっこりと微笑んで伝えると、エマはふーんとつまらなそうに返す。神皇国からすれば、タリア神殿であろうがレヴィの家であろうが、自国の領土内だ。正直どちらでもいい。
とはいえ、神皇国は大陸一体に根付いた女神信仰の総本山としての顔もある。神殿と国が一体となった宗教国家として、近隣の国々を疎かにするわけにいかない。レヴィが意図せずに2体もの遺物を得てくれたことは僥倖だった。一体を自国内に残し、もう一体を近隣諸国に融通することで面目を保つことができる。
ただ、あくまでも遺物はレヴィが精霊と直接交渉して入手したものだ。それを本人の意思を無視して奪い取るわけにはいかない。そんなことをすれば精霊の不興を買ってしまうだろう。精霊とは良き友好関係を築いていかなければならない。レヴィを蔑ろにすることは、精霊に不信感を植え付けてしまう。
ウェイロンは泉から神殿に戻る際に、リアムにはレヴィと同じ馬車に乗車してもらい、自身はロイとデナーリスと同じ馬車に乗った。そこで聞いたのが、レヴィは物に対して、より良いものが手に入ったり、不完全さが気になったら、あっさりと手放す一面があるということだった。相談の結果、もう一体の話になったタイミングで、デナーリスが精霊の遺物を使って4人だけのお揃いのものを作る提案をすることに決まった。案の定、レヴィはあっさりと上位互換に食いつき、もう一体への執着を手放した。さすが、幼馴染である。
「当然、協力国である俺たちの所にも配られるんだろうな?」
メイソンの横で、イーサンも同じように腕を組んでウェイロンに圧をかける。
3人は協力国を代表する身だ。自国への利益を追求する義務がある。
「ええ、もちろんです。精霊の花カゴとは別に、3ケ国には確実に配布します。優先したい所があれば被害状況と合わせてリストアップして提出してください。」
「ああ、感謝する。」
メイソンに続いて、イーサンとエマも安堵の表情を浮かべて、ウエィロンに礼を告げた。
「いえ。こちらこそ巡礼団への協力に感謝しています。」
ウェイロンも日頃の感謝を伝えて、精霊の遺物に対する報告を終了した。
「では、本題です。」
ウェイロンがキリッと表情を引き締める。
そう、彼にとって精霊の遺物に関する報告は前置きなのだ。ここからが重要だ。
「小精霊も中級精霊も顕在し、ターオでの目的は達成しました。本来ならば次の土地に移動すべきですが、精霊の遺物の加工が残っています。精霊の庇護者が身に着ける物とレヴィの希望した物の制作を優先し、それが完成した後に次に向かうことにしましょう。初の中級精霊召喚なこともあり、かなりスケジュールに余裕を見ていましたから、それで丁度いいくらいです。」
「ということで、ターオを拠点としてミットレに行って帰ってくることもできます。川エビはどうしましょうか?」
いかなる時もスケジュール管理に余念のないウェイロン様なのである。




