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中級精霊は出待ちする

 結論から言おう。


 満を持して向かった中級精霊伝承の地で、精霊は姿を現した。いや、むしろ待ち構えていた。


 エルフが守ってきた神聖な泉の横にそびえたつ大樹。そこに精霊は佇んでいた。


 ぼんやりとした白い姿は、白地のどっしりとした前胸と少し長めの腹部に。黒く長い髪は黒い触覚と、黒い鎌のような長い前脚に。独立した頭部には単眼と大きな複眼もあるが、それよりも目を引くのが白地の前胸部の背面にある一対の黒い斑紋だ。まるで顔のようにも見える。まさにレヴィが中庭で必死にさがしていた昆虫そのものである。


 ただし、こちらの方は2mほどの超大型種だ。それが大樹に張り付いている。


「カマキリだ!黒髪お化けじゃない!」

 お化け退治用に駆り出されたリアム、ロイ、デナーリスの目が点になっている横で、ここにくるまで散々ごねて死んだ魚の目をしていたレヴィが目を輝かせて叫んだ。

「・・あれ精霊なのか?」

「うん、ターオの精霊様!」

精霊の庇護者であるレヴィがそう宣言したので、泉を長く守ってきたエルフの女性が昏倒した。


すぐにでも駆け寄ろうとしたレヴィをロイが捕まえる。

「ちょっと待て!お前なにした?カマキリ探してあの精霊に見せたのか?」

「カマキリ見つからなかったって言ったじゃん。なんでだろ。超カッコイイ!」


レヴィ達の声が届かない位置で待機している護衛たちも動揺の最中だ。

「え?魔物じゃないよな・・?」

「まぁ、ウエィロン様方が動かないから大丈夫か・・?」

 現地についたら大型のカマキリが待ち構えていたのだ。誰がそれを精霊だと思うだろうか。さすがのエリート騎士団も戸惑っている。


ほぼ全員が混乱しているなか、レヴィだけが無邪気に精霊に駆け寄っていった。

「ターオの精霊さまカッコイイ!」

ミミズのウンディーネに引っ付くような気軽さでレヴィがカマキリに抱き着いた。


それまで置物のようだった巨大カマキリの前脚と触覚が驚いたように高速でサワサワと動く。

デナーリスが思わず両腕をさする。

「わ、わたし無理かも。」

「そ、そうか。よし、後ろに下がるか!俺が連れていくから、リアム後は頼むぞ。」

ロイはデナーリスの手を取るとそそくさとその場から逃げ出した。


「レヴィほどになると、相手が出待ちするんですね。今後のスケジュールの参考になります。」

ウェイロンが旅団の幹部とその従者ににこやかに微笑むが、他のメンバーの表情は死んでいる。初めての中級精霊とのコンタクトなのだ。もっと何か神々しいものを期待していた。


「姉さん、実は言うとさ、中庭でレヴィにカマキリ探し手伝わされた時から、もしかしたらこうなるんじゃないかと思ってたんだ・・。」

「さすが私の弟ね、あんた天才よ。」

「ありがとう、なんか全然喜べない。」


魔術師姉弟が茫然と会話する横で、南国師弟は別の事を心配していた。


「師匠、俺たちの国って海洋国家ですよね・・?」

「ああ、そうだな・・。」

「絶対、レヴィにはフナムシの存在は知らせちゃいけないと思います。」

「ああ、そうだな。せめて・・マダラ蝶だ。マダラ蝶をいまから仕込んでおこう。」


その会話が聞こえたメイソンも大急ぎで自国の生態系に思考をめぐらす。

その隣でラリーはデナーリスの後ろ姿を目で追ってオロオロしていた。


そんな後方の様子にはお構いなしでレヴィと中級精霊の交流は続く。

「俺、ぜったいお化けよりこっちの方がいいと思う。お腹側も見せてー。」

といってモゾモゾと精霊の内側に消えていく。カマキリの手と足が再びサワサワと動く。

姿の見えないレヴィの「ええっ!すごい!」という喜びの声が響く。


「うわっキッツー。てか、頭おかしい。リアム育て方間違えてない?」

ナバイアの正直な感想は、この場の多数の意見を代表していた。


「俺に言われても困る。レヴィは昔から昆虫が好きなんだ。」

「ほかに好きな物ないの?」

「後は花も好きだ。」

「あー!そりゃそうだよねー、花冠の麗人だもんねー!」


「ああ、花冠。」

ニコニコと中級精霊との交流を見守っていたウェイロンが手元の花冠に目を落とした。

「レヴィ!花冠を差し上げたらどうですか?」

ウエィロンの呼びかけにレヴィが腹部から這い出してきて、受け取りに来る。


「ウェイロンさま!黒髪お化けはお化けじゃなかったです!」

「良かったですね、レヴィ。」

「いやいやむしろバケモっ、モゴっ」

ナバイアの正直すぎる口は姉のエマに封じられた。


「あちらにピクニックシートと軽食も用意してますから、そこで一緒にお話ししたらどうですか?ちょっとシートが小さいかもしれませんが。」

「カマキリが食べれるもの入ってますか?」

「カマキリは魚肉ソーセージなら食べると思いますが、そもそもカマキリじゃなくて精霊です。おもてなしする気持ちが大事ですから、雰囲気だけで大丈夫ですよ。心をこめてお願いしてきてくださいね。」

「はーい。」


くぐった修羅場の数が半端ないウェイロン様は精霊がカマキリだろうが動じずに、レヴィを優しく諭すのであった。

この場面、まだ続きます。

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