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修練籠

 レヴィから回収された精霊入りの花カゴを前に旅団の責任者であるウェイロン、メイソン、エマ、イーサンが集まっていた。従者たちはこの場に呼ばれていない。

 この旅団の高位者である彼らは当然ながら精霊を見ることができる。むしろそれが選考基準の一つとなっており、ある程度役職が付いている者の必須条件となっている。またその従者も然りだ。


「捕縛してる状態なの?」

魔術師らしくどういう状態なのか検分するようにエマが覗き込む。

しかし何の仕掛けもないただの花カゴだ。

ウェイロンは首を振る。

「いえ、レヴィ曰く、しばらく住むようにお願いしただけとのことです。」

そう、目の前の精霊はただ自主的に留まっているだけに過ぎない。

いつ消えるのか予想はつけられないのだが、だが・・・。


「暫くいそうだな。」

メイソンがずばり指摘した。

「むしろ、出ていかないって意思すら感じるような・・。なんとなくだけど・・。」

イーサンがハハハと乾いた笑みを浮かべる。


「レヴィが見た夢の話によると、この精霊がトゲトゲボディになって他の精霊の侵入を拒んだそうです。それに怒った他の精霊が赤く光って抗議していたと。だから花カゴの材料がもっと欲しいと言っていました。ちなみに色が変わった精霊と旗上げゲームをして遊んだらとても楽しかったそうです。なんとも可愛いエピソードですね。早速私の日記帳に書き記しました。」

「いやいやいやいや、ほのぼのするには、わりと新事実が詰まりすぎてるから。」

イーサンの突っ込みにウェイロンがハッと表情を引き締める。

「ああ!そうですね!すみません、私としたことが昨晩からどうもほっこりしてしまいまして。いい子たちばかりで心が洗われます。ぜひ絵本にして配布したいところです。」


 実は、絵本作家としても活動しているウェイロン様である。

この旅のエピソードを絵本にして世界中の子供たちに届けることで、精霊に親しみを感じて欲しいという夢を密かに持っており、まめに日記をつけているのだ。ちなみにペンネームは夜明けのエルフさんだ。


 エマが花カゴを持ちあげて軽く揺らしてみる。

精霊は変わらずぽよよーんと浮かんで出て行こうとする気配はない。

「その夢の話を信じるのなら、この花カゴに入りたい小精霊は沢山いるってことね。それならこの小精霊が出ていったとしても次がまた入ってくる。」

「ええ、小精霊を留まらせる器ということになります。」

「手作りグッズの効果、半端ないわね。」


 魔道具でも何でもないただの花カゴ。しかも中が見えるようにかなり粗い作りだ。この簡易な籠が、現在では精霊伝説の残る名所と同等、いやそれ以上の価値を持つ。なんせこの花カゴの精霊は常時顕在化してくれるのだ。

 気まぐれに姿を見せるだけのこれまでの現象とは明らかに違う。そのうえ、持ち運べて場所を選ばない。


協力国を代表して参加している3人の目がギラリと光り、メイソンが先陣を切る。


「それで、これはどうするつもりだ?次は俺の国に融通して欲しいところだが。」

「あー、メイソン抜け駆け禁止。うちだって欲しい。」

「それは私も同じよ。そもそも神皇国ばかりずるいわ。私たちの国には精霊の庇護者の恩恵がいまだないんだから。」


 そこからしばらくあーだこーだの話し合いになった。

最終的には神皇国批判になってきたので、ウエィロンは次から協力国である3か国に順次寄贈する協定を結んだ。と言っても精霊取りなど下手すれば女神の不況を買いそうな不敬極まりないことができるのはレヴィだけなので当面彼次第となる。しかしあの様子ならまた軽々しく精霊取りに出かけそうなので、そう先の話にもならないだろう。


 この最初の花カゴについてはレヴィの善意をくみ取り、この神殿に寄贈されることになった。当面一般には公表せず、神殿内部で関係者の訓練のためだけに使用される。


 ターオの神殿長は平身低頭でそれを受け入れ、ウェイロンは修練方法と合わせて神官たちの心のケアについての体制づくりもターオ側と話し合った。


次に、ウェイロンはキッカケとなった神官のクーパーを呼びよせると、この花カゴを見せてやった。クーパーは感激のあまり再び大泣きして、さらなる精進を誓い、精霊の庇護者への深い感謝を述べた。


後に、この花カゴはクーパーの修練籠と呼ばれるようになる。

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