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中級神官さまの嘆き

 それは4人が神殿の来賓棟に戻った時に起こった。


 ウェイロンがレヴィを引き寄せる。

 イーサンとエイダンが前にでるが、それよりも早く護衛騎士が立ちふさがる。相手が丸腰の神官のため誰も抜刀まではしない。


「どうか・・!!どうか少しばかりお時間を・・・!!」


 中級神官がその場で土下座する勢いで蹲っている。

普段、精霊の庇護者一行の足を止めさせてまで話しかけるものはいない。


「どうされましたか?」

ウェイロンがレヴィを離さぬまま穏やかに問うた。


「本日わたくしは精霊を見ることが叶わず・・!何卒今一度わたしくに機会を賜りたく・・!」


 そこまで言うと神官はむせび泣く。大の大人、それもおっさんの本気泣きが廊下に響き渡る。ウェイロンはあーまたかーといった顔で護衛騎士に控えるよう合図する。


 精霊召喚が能力試験化したばかりの頃に首都タリアでもこういう者が一定数現れた。誰だって500年も人界に姿を現さなかった精霊を見たいものだ。それは一般市民でも同じだが、神官ともなるとその気持ちはより強い。特に他の者は目にし、自分が見れなかった時の精神的ショックはかなり大きい。


 その影響はまだ修行し始めたばかりの若手より中級神官の方に顕著に現れる。真面目に修行を続け中級神官にまで上り詰めたというのに、精霊を目にすることが出来なかった。その事が自尊心を深く傷つけ、ある種の恐慌状態にまで追い詰めてしまうのだ。


 首都でも一時精神的ショックから神殿を辞する者まで現れた。そのため今では充分にフォロー体制をひいているのだが、ターオではその段取りがまだうまく機能していないようだ。


「お名前は?」

「わ、わたくしは、クーパーと、申します。どうか、どうか・・!」

「クーパーさん、私には分かります。あなたがこれまでどれほど真摯に奉仕されてきたか。」

「い、いえ、しかし、わだじは、、わだじはぁああ。」

ウェイロンはレヴィから離れクーパーに歩み寄ると、屈みこんでその肩を優しくさする。

「精霊を見れるか見れないかだけで、あなたの研鑽が否定されることはありません。大丈夫、女神様はちゃんと見ておられます。あなたほどの方だ、これからの修練次第で見られるようになります。大丈夫です。」

「ヴヴッ、わだじはぁああ。」

「さぁ、床は冷えますよ。お立ちください。少し私と話しましょう。」


 ウェイロンはクーパーを立ち上がらせ、イーサンに目配せをすると、そのままクーパーの背中を支えて去っていった。


 イーサンがチラリとレヴィを見ると明らかにドン引きしていた。


 先ほどの神官に驚いた様子のレヴィをそのままにできず、イーサンは部屋に送り届けると椅子に座るように促した。とりあえず、部屋付きの神官見習いの若者にお茶を入れさせる。レヴィの部屋は作業スペースの問題もあり、広めのシッティングルームと寝室がある。用意されたお菓子にまずエイダンが口をつけてから、レヴィに振舞われる。


 しばらくお茶とお菓子を楽しんでからイーサンが切り出した。

「レヴィ、まずは精霊召喚お疲れ様。3ケ所も回ったから疲れたかい?」

レヴィはふるふると首を振る。


「そうか。先ほどの神官のことはウェイロンに任せていれば大丈夫だ。」

「・・おれビックリしました。あの神官さますごい泣いてて。」

「そうだな。あの方は中級神官のようだからきっと精霊がすごく見たかったのだろう。」

「中級神官さまでも、あんなに泣くんですね。」

確かに廊下に響き渡るくらいおじさんが泣いているのは珍しい。


「レヴィ、子供でも大人でも悲しい時には涙が出る。だが多くの大人は普段それを隠している。あの方は隠しきれないほど悲しんでおいでだったのだ。」

イーサンが諭すように言うとレヴィは頷いた。


「これからも思いがけず目にすることがあるかもしれない。だけどそれを蔑んだり無理に暴いたりしてはいけないよ。」

「そうそう。騎士訓練の時なんてみんな涙流して鼻水垂らして胃液まで吐き出して時には血反吐も出るし、最悪漏らしたりして、もうぐっちゃぐちゃなんだから。」

「え?」

「エイダン、引いてるから。」

「あっ、すいません。」


「とにかく、ターオでも精霊を目にする機会はこれからもあるだろう。タリアでは数か月に一度ほど出現していると聞いているけど、どうだい?」

「ウェイロンさまは、召喚した所は俺の花輪とかポプリにちらほら寄ってくるって言ってました。」

「召喚しない所には出ないんだ?」

不思議そうにエイダンが聞いた。

「いや、小精霊ってなんかいつも集団でいるから、決まった場所にしかいないものなのかと思って。」

レヴィは首をかしげてうーんと考え込む。

「えーっと、宿ってる所はある、けど動かないこともない・・かも。はぐれもいるんだけど、器がないから。捕まえたら見えるかな?」

その瞬間ぞわりと空気が動いた。

レヴィがぼんやりと宙を見ている横で、イーサンとエイダン師弟がチラリと視線を合わせる。


「レヴィ。」

イーサンが名前をハッキリと短く呼んだ。

「はい?あれ?」

「そろそろデナーリスのミサが終わるころじゃないかな?迎えにいくかい?」

「あっ、もうそんな時間!俺、今日の事話したい。お化けでなかったって。」

「私はちょっと見たかったから残念だよ。」

「ええ~?」

「ハハッ、冗談だ。エイダン、ついていきなさい。」

「はい。」

3人で部屋を出て、イーサンはレヴィたちと別れると、ふーと息をひとつ吐いた。

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