ミミズなんて虫みたいなもんだし
精霊の庇護者4人組といえ、いつも一緒にいるわけではない。
デナーリスはミサで忙しく、リアムやロイはターオのみならず近隣の貴族や有力者の訪問を受けたり、神殿へのお供えという名の大口献金を受け取ったり、逆に孤児院や恵まれない人への慰問などスケジュールは分刻みで進められていく。
一般的にデナーリスは絵姿が市井で売られるほど容姿を広く知られているが、残りの精霊の庇護者に関して神殿はあまり多くの情報を出さないようにしている。
大柄で精悍な若者、俊敏そうなデナーリスの双子の兄、4人の中で最も若い少年、市中ではその程度の認識だ。水の精霊王ウンディーネに花冠を渡し祝福を受けたエピソードから花をモチーフにされることが多いが、それぞれどのような祝福を受けたのか詳細は秘匿されている。
人々が驚嘆したことは祝福の内容云々ではなく、精霊が500年ぶりに人界に出現し、人族に関心を抱いたことである。それもただの精霊ではなく水の精霊王ウンディーネともなれば、それだけで人々は女神の慈悲と赦しを感じ精霊の庇護者たちを恐れ敬い首を垂れる。
3年間の準備期間の間に少しづず神殿での活動を増やしてきたおかげで、リアム、ロイ、デナーリスの3人とも旅団がスタートしてからも特に困惑することなく現状を受け入れそれぞれの役割を果たしている。
レヴィが表にでないことへの不満もない。
なぜならレヴィには身を守る祝福が与えられていないからだ。
ウンディーネはただその美しさを愛で、レヴィを守護する役割を3人に与えた。
リアムには尋常ならざる剛腕を、ロイには人の身には過ぎる俊敏さを、デナーリスには人知を超えた霊力を与え、レヴィには花冠の麗人としての称号を与えた。
レヴィが出来ることといえばせいぜ花冠やポプリを長持ちせることくらいだ。
ウンディーネの祝福を受けた3人の守護者はレヴィを前にすると、自分が守ってあげなければならないという使命感にかられてしまう。3人はこれを密かにウンディーネの呪いと呼んでいる。
リアムは力を誇示しようとし、ロイは規格外な動体視力で周囲を警戒し、デナーリスは率先として目立とうとしてしまう。
そのため、レヴィが表に出ず、大人しく花冠やポプリを制作している現状は願ったり叶ったりである。もしレヴィが外交的でアクティブな性格であったならば、3人とももっと呪いに振り回されていたかもしれない。ある意味、レヴィが陰気で臆病な気質が幸いした。
しかし、時にはそれが大変めんどくさいことになる。
リアムが神殿に戻った時、白い花冠を手にしたレヴィが泣きついてきた。
ミミズのウンディーネ様の話から始まり、黒髪お化けに花冠が似合わないことを一生懸命に伝えてくる。ようはお化けが怖いから花冠は渡しに行けないということだった。
ロイが神殿に戻った時、さらに拗らせたレヴィが白い花冠を窓から投げ捨てようとしていたので、後ろから蹴りをいれて花冠を無理やり回収した。
デナーリスがミサを終えて戻ると、レヴィはグズグズと泣いていた。
ロイに蹴られたところが痛いというので痣の一つもできていないが精霊の祝福の力で治してあげた。
それから3人がかりで説得して、最終的にお化けが襲ってきたらリアムが斧で切りかかり、ロイがレヴィの手を引いて逃げ、デナーリスが魔法で退治することを約束して、なんとか精霊の地に行くことで折り合った。
ウェイロン様からは褒められたが、昼間の活動よりも疲れた3人であった。
その日の夜はわざわざ3人部屋に移動してリアムとロイとレヴィで寝ることになり、デナーリスは性別が違ってよかったと思いながら就寝した。
一方、リアムが甘やかしてくれ、ロイが構ってくれ、デナーリスが優しくしてくれたレヴィはほくほく顔でベットに横になっていた。
「あのさー、ウンディーネ様っておまえの中で今でもあのミミズなんだろ?」
隣のベッドから唐突にロイが聞いた。
「うん、ウンディーネさまはいつもでっかいミミズだけど、それがなに?」
「おまえさー、ミミズは怖くなくて、お化けは怖いわけ?」
「ミミズが怖いわけないじゃん。虫みたいなもんだし。」
「へー・・・。」
実はミミズに触れないロイはお化けよりウンディーネの方がよっぽど恐ろしいのだが、レヴィの前ではカッコイイ兄貴分でいたいので、その後は無言になって就寝したのであった。




