第五話 終ワリノ後ノ始マリ
霧江は蒼白い光に身体を包まれている。
相当な重量が在る筈の大剣を鞘から引き抜き、鞘はその場で落として捨てた。
刀身は錆びているが、橙色の光をその全身から放ち、鞘とは別の言葉が、同じような形の字で記されていた。
サソリ型のマズダは、両腕のマシンガンを僧侶達に向けて乱射した。慶は血飛沫を浴びるが、怯えた表情にはならない。
霧江は剣を振り上げ、マズダに向けて走って突貫する。
マズダはマシンガンを霧江に向けて撃つ。たが霧江は、それをとても微妙なタイミングでかわしながら、尚も走ってくる。
霧江がマズダの眼前まで来た時、マズダは口から霧江に矢を二発発射した。
霧江は空中に飛び上がり其れをかわす。
そのまま空中で一回スピンし、マズダの背中に飛び乗る。マズダのは尾の先から毒液を吹き掛けてくる。
だが、霧江は光る刀身で毒液を弾き飛ばした。
次の攻撃が車前に尾を切断し、斬れた尾の付け根に剣を突き刺し、そのまま頭の天辺まで刀身を走らせる。
霧江はマズダの背中から飛び退く。
元の位置に戻り、その時を待つ。
数秒後、マズダは身体の各所から青い電流を、五秒後には橙と紅が混じった色の炎と、灰色の煙を噴き上げ、四散した。
辺りはマズダの焼けた焦げ臭い匂いと、蜂の巣にされた数十人の僧侶の、飛び散った体液の鉄分臭に支配された。
「メシアよ、見事だ。やはり、伝説は間違っていなかったか………っ!!」
大司教は感嘆の声を挙げた。
「伝説?」
正気に戻り、刀を置いた霧江は首を傾げる。
「この地にはもともと、信徒が危機に陥ったとき、異世界から救世主が現れるという信仰がある。それがこの世界のアジアで広く信仰される、ドルイド教だ」
慶が説明した。
「危機?おっとそれか、………いや、後で話そう……」
そう言って眉をしかめた慶の目線の先、マズダが入ってきた穴からは、穴に侵入してくる同じ型の、五、六匹のマズダが見えた。
「もうここには住めないな………メシアの子よ、我々に付いてきてほしい。詳しいことは、平和な時にでも話そう」
大司教は言うと、僧侶達に対して訳の分からない言葉を叫んだ。
僧侶たちは、エレベーターに分割して乗り込むのだろう、本堂の各方面に四散し、最後にダライと霧江と慶だけが残った。
「我々は、こっちじゃ………」
ダライが祭壇の方に歩き出した。前回説明し忘れたが、祭壇の向こうには高さ十メートル程度の、白銀色をした、金属製の十字架のようなものが立てられていた。
ダライは十字架の付け根にある、人間の眼球を象ったような模様に手を触れ、日本のお経に似た呪文のような言葉を唱えた。
十字架は床下に退き、回りをセラミックのような純白の壁に囲まれ、その四隅に黄緑色に光る線が走った、何ともSFチックな通路が現れた。通路はまっすぐだが長すぎて終わりが見えず、1キロメートル以上は在るように見えた。
「行こう、この向こうに、皆が居る…」
慶が十数分前の表情を想うと信じられないような澄まし顔で、見えない通路の向こうを指差して言った。