第7話 爺さん出陣
「だから、今回のはクロが来る前からの計画なんだって。」
領主の屋敷から帰り、孤児院の執務室に戻るなり、俺はレオに詰め寄った。
執務室には俺、レオ、ベイジーの三人だけだ。
「俺が来る前だって?じゃあれか、お前とそこの騎士の娘と二人で行くつもりだったのか?」
そんなの返り討ちにあって終わりだ。
「ベイジー!お前がついていてなんて杜撰な計画なんだ。」
たまたま、そこにいたベイジーにも噛み付く俺。
「クロ。俺もジェーンも行かないよ。」
「んはあ?」
予想外の言葉がレオから出たので、思わず変な声が出てしまった。
「じゃ誰が?」
「あのね、クロ。何の戦力ももたず、私達がこの世界でやってこれたと思う?」
「まさか、あれか影の軍団的な何かが…。」
「ないわよ!そんなの。」
ベイジーが呆れた顔でいい放つ。
「クロ、本来ならルーシーが1人で行くはずだったんだ。殺された前の執事は彼のお兄さんだったから。」
前の執事がルーシーの肉親だと言うのはルーシーとの会話の中から薄薄わかっていた。
だが…。
「いくら、敵討ちだからって1人で行かせるなんて、おかしいだろ。」
「あら、そう?」
「当たり前だ、戦力に差がありすぎる。自殺行為だ。例えルーシーが強くても相手は多人数だ、限界がある。しかもレオがあの場所で宣言したから、多分相手には筒抜けだろう。その為にわざとあの場で言ったんだろレオ。」
「ベイジー、そうなの?」
「レオ、領主との契約、ジョシュア殺しの犯人探しに協力する代わりに、領主屋敷にいる内通者を特定する。忘れたの?」
ベイジー、レオは忘れたんじゃないよ、最初から気にかけてないんだ、と思ったが、黙っていた。
「で、クロ。貴方がいれば大丈夫なんでしょ。」
「お?まあなんとかな。」
いきなりの無茶ぶりに、ついつい答えてしまった。
「実はね、クロ、この計画の最後のワンピースだったの。貴方のおかげでこの計画が完璧になったのよ。」
ベイジーが良くわからない事を言う。
「じゃ、ルーシーの事よろしくね。」
ベイジーはそう言うと執務室から出て行った。
出掛けなガッツポーズを決めたのをおれは見逃さなかった。
やられた。だがルーシーを1人で行かせる訳にはいかない。
俺は部屋に戻り、よくわからない状態になっている鞄から武器を取り出す事にした。
----
「だからー。お前がワザと俺にやられたなんてのはなー。俺には最初からお見通しだったんだよ!」
ボボル…何故、コイツが横にいるのか。
執務室を出た俺は装備を整え(いろいろ鞄から出してみたが、結局この鞄ごと持っていけば良いのだと気付いた)部屋から出て行こうとしたところに、ルーシーが来た。
いつもと変わらないメイド服姿だった。
「レオ様からここに行けと言われました。」
「ああ、そして1人で行かせてくれと言いたいんだろ。」
「えっ。」
「そのくらいわかるさ、多分君は強い、そして俺は足手まといだと。」
「は、はい。その通りです。」
相変わらず澄んで綺麗な声に、並々ならぬ決意が聞いてとれる。
「ルーシー、多分君は俺がいなくても目的を果たすだろう。ただ、無傷でいられるとは考えてないだろう。」
「はい。」
真っ直ぐ俺を見て答えるルーシー。
「俺は、君が負う傷の五つを二つに減らす為に行くんだ。」
「…」
何かを考えているルーシー。
我ながら詭弁だと思う、しかしいくら強くても多人数を相手に勝てるのは映画の中だけだ。
腕に自信があるヤツがそうやって死んでいくのを、俺は死ぬほど見てきた。
「無傷とは言ってくれないんですね。」
ルーシーが諦めたように呟く。
「すまん、そこまでは約束できない。」
無論、俺が行くからにはルーシーに傷ひとつ付けさせるつもりはない。
「わかりました。クロ様、貴方を信用します。」
それから俺達は簡単な打ち合わせをした。なかなか衝撃的な事実がわかり、作戦も一から練り直した。
ルーシーのメイド服は目立つ為、おれのクローゼットに掛けてあったロングコートをわたす。
そして孤児院から出た…ところにヤツが立っていた。
「よう、爺さん。」
ボボルだった。
----
「ウチのオヤジからワザと殴られたって聞いてよ、騙しやがったなと頭に来て文句の一つでも言ってやろうと思ったがよ。なんでもあのジョシュアの仇を取る為だって言うじゃねーか。アイツとは、なんつーか話が合うって言うか、まあ、会って殴り合う仲っつーか。」
ほう、思ってたより義理がたい男だな、いや義理がたい虎男だ。
「で、ボボル様は何故ここに。」
慇懃無礼とはまさにこういう時に使うもんだな。
「何故って、おめー…爺さんとメイドでイシーヌ商会に乗り込むって聞いて、最近暴れて…いや仇討ちの加勢にきてやったぜ、感謝しろ。」
どうやら最近ずっと屋敷で社交活動をしてたせいでかなりのストレスを溜め込んでいたらしい。
うん、ノープランで勢いだけできたんだな、この脳筋め。
欲求不満を仇討ちで解消しようとは、なんとも傍迷惑なはなしだ。
「はあ。」
ちらっと、ルーシーを見ると全身から脱力感の灰色のオーラをだしている。
「まあ、道々お話を聞きましょう。」
時間がもったいないので、俺達はとりあえずイシーヌ商会に向かう事にした。
イシーヌ商会は孤児院から歩いて30分くらいの場所にある。
馬車だと馬を狙われる場合があるため、歩いて行く事にしたのだ。
「ちっ」
気のせいだと思うが、ルーシーが舌打ちしたような気がした。
----
「だからー。お前がワザと俺にやられたなんてのわなー。俺には最初からお見通しだったんだよ!」
最初に騙されたと怒っていたのに、いつの間にかお見通しとか言ってるし、しかもその話3回目だし。
ルーシーのイライラが怖くて後ろを向けない。
「ボボル様に手伝って頂くのは大変嬉しいのでございますが、怪我でもされたらボボス様に顔向けができません。」
面倒くさいが、ただ手伝ってもらう訳にはいかない。
「親父?親父は俺が死にそうで帰っても、勝ったか?としか聞かれた事ないぞ、あー負けて帰った時は半殺しにされるけどな。」
どんなスパルタだよ、でもこれで言質は取った。
「では、ボボル様はどんな戦闘スタイルでございますか?作戦を立てる時の参考迄に。」
「あー、戦闘スタイル?そんなもんあるか、前にいるヤツをぶん殴るだけよ。
この前なんかなぁ、20人のサイ族のチンピラを前に…」
完全に前衛タイプだな、今回みたいな少数乗り込みに全く向かないタイプだ。
正直なところボボルさん、あなた今回は…邪魔です。
そうこうしているうちに、イシーヌ商会の屋敷が見えてきた。
屋敷の門は鉄の扉でしっかりと閉じられている。
「ボボル殿は打ち合わせ通り、この壁沿いに反対側の裏口より潜入、出会う奴らを根こそぎぶん殴ってください。」
正面から突入したいと言うボボルをなんとか説得して裏口からという話にした。
実はこの屋敷、後方は池に囲まれていて裏口なんてものは…ない。
ボボルは任せろとばかりに壁沿いを走っていった。
「ルーシー、準備は?」
「いつでも。」
ボボルが居なくなって、気持ちを切り替えたようだ。
「これを。」
ルーシーがロングコートを脱ぎ俺に返す。
「ああ。」
コートを受け取ると、ルーシーの姿が消えた。
想像以上の身体能力だ。
俺は鞄から狙撃用アサルトライフルM14と手榴弾をとり出した。
さて、作戦開始だ。