第4 話 滝沢の思い(10年前から今まで)
いかん、いかん話が長くなってしまった。
滝沢の話だ。
アイツが言うには、10年前郊外に家を買った事から話は始まる。
そう、今回の転移に使われた家だ。
なんでも、曰く付きでかなり安く買えたらしく、俺も何度か行ったが普通の家だった。
ある日の夜中、地下室から物音が聞こえ様子を見に行ったところ、最初の転移に巻き込まれたらしい。
ほぼ今回と同じような転移だっが、唯一違うところは、この世界の家の一階には人が暮らしていたとの事。
その住人はベイジー、外国人の女性で、もう70歳を超えていた。
その住人も転移に巻き込まれたらしく、前の世界の知識で石鹸や薬を作ってなんとか暮らしていたらしい。
そこからベイジーと滝沢の一風変わった共同生活が始まる。
滝沢は元の世界に戻るべく、魔法陣の解析を進める他、元の世界の知識を使い、石鹸や薬の品質向上や、新製品の、開発を行う。
出来た製品をベイジーが売り、金を稼ぐ。
しばらくの間二人の生活は上手くいっていたらしい。
ベイジーと滝沢の間にいつしか親子の様な感情が芽生えたとしても不思議じゃない。
問題は5年程経った時に起こった。
ベイジーが重い病にかかった。
滝沢の見立てによると癌で余命数ヶ月。
滝沢はこの世界の医療技術では治療は無理と考え、魔法陣の解析に力を注いだ。
そのせいで、ギリギリ魔法陣の解析が完了した。
滝沢はこう考えた。
このままベイジーを連れて元の世界に戻っても癌は完治するには進行が進み過ぎている。
この魔法陣による転移は元の世界から転移する場合、身体を変換、再構築する機能がある。
その機能を使い彼女を癌にかかる前の身体に戻す。
つまり、行って、また戻ってくる。
計画は成功した、彼女は癌に罹る前の身体に戻った。
ただし、0歳の体、赤ちゃんの姿だった。
魔法陣の構築にミスがあったらしい。
0歳児にもう一度転移をさせるにはリスクが高すぎる。
滝沢は、この時代に留まりベイジーを育てる事にした。
滝沢とベイジーの関係は逆転していたが不思議と普通に受け入れて暮らしていた。
ベイジーが3歳になった時、彼はベイジーが過去の記憶を全て覚えている事がわかった。
そして、ベイジーが5歳になった時、彼女は彼女の意思で身体の成長を止めた。
ベイジー曰く「せっかくだからこのままがいい」との事、滝沢は特に反対もしなかった。
ベイジーの事もあり、滝沢は生活の基盤をここに置く事に決めたらしい。
その歳、転移を繰り返し自分の身体を20歳に戻したらしい。
滝沢は元の世界の知識を怪しまれない程度に使い、薬、化粧品の商会を作り一時はかなり規模を広げたらしいが、ある時全ての権利を部下に譲って表舞台から姿を消した。
滝沢の身体もまた、ベイジーの身体と同様に、世のことわりからはずれ、普通に老いる事はなかった。
二人はこの世界では不老不死の体になっていたのだ。
で、ところどころ突っ込みたい部分はあるが話は戻る。
こっちの世界では起こらなかった滝沢の「わかる」現象が、最近発現したのだ。
それは、今暮らしてるこの街が終わってしまう事がわかってしまったらしい。
滝沢の場合、わかってしまうだけで、理由も原因も自分ではわからない。
つまりはそれを防げない。
「だから、俺を呼んだ?」
ここまで、話をさせるまで何時間かかったか。まだ、いかれた殺人犯の取り調べの方が楽だ。
「うん、クロがいれば「答え合わせ」ができるから。」
なるほど。
「無理だな。俺はこっちの世界についての情報を一切しらない。これではお前の答えの分析ができない。」
俺は今の状況を正直にはなした。
「そう思って、しばらく僕の手伝いをして貰おうと思って。」
まあ、この格好で呼んだのだからそうだろう。
「わかった、とにかく今日は疲れた。少し休ませてくれないか。」
「わかったよ。クロの部屋は用意してある。」
そういうと滝沢はガラスでできたベルを鳴らす。
「あ、それからクロ、ここでは僕はレオと名乗ってるんだ。人前では「レオ様」と呼んで欲しいな。」
「なっ、この!お前!」
扉が開いて、数名のメイドと共にジェーンが入ってきた。
入ってきた途端腰の剣に手をかけ、俺を睨みつけている。
もうやだわ、この子。
「みんな彼が新しい執事のクロスだ、正式な挨拶は明日にする。彼を部屋に案内して。」
滝沢、いやレオの野郎が、いたずらっぽい目でみんなに紹介する。
「レオ様う、しかしこの男は。」
うーん、ジェーン君は反対のようだね、珍しく意見が合ったね。
「ジェーン、私が決めた事だ。」
お、レオ様は強く言う事もできるんだ。
「わかりました、差し出がましい意見、申し訳ありません。」
ジェーンが渋々頭を下げる。
「ルーシー、彼を案内して。」
メイド長らしき女性が命じる。
すっと姿勢を正したメイドがルーシーだろう。
この世界に来たとき、チラッと見たトカゲの様な人間。
それがルーシーだった。
スカートから尻尾を覗かせているし、前で組んでいる手は、鱗に包まれたいるが爪の先端は丸く切り揃えられ、おまけにマニキュアまで塗られている。
この世界のお洒落さんかな?
俺は「では、明日」といい、先を歩くルーシーについて部屋を出た。
「ルーシーさん。」
廊下を歩いて行くルーシーに話を聞く。
「ハイ、なんでしょうか。」
驚くほど澄んで綺麗な声だった。
「レオ様はどんな方ですか?」
滝沢の事を聞いてみる。
「とても、良くして頂いています。孤児院の子供達にもとても、懐かれています。」
「なるほど、素晴らしいお方の様ですね。」
「ハイ、素晴らしいお方です。」
スカートから出ている多分尻尾と思われる部分が、左右に動いている。
犬の尻尾のように感情がでるものなのかはわからないが、自分の主人が褒められるのはうれしいのだろう。
「ところで、私の前の執事はどの様なお方でしたか。」
ルーシーは急にビクッと立ち止まる。
「何かいけない事を聞いてしまいましたか、イヤなら答えなくても結構です。」
「いえ、すいません。その話、今はご容赦ください。部屋はこちらです。」
ルーシーの尻尾も止まっている。
「案内ありがとうございます。失礼な質問をしたようで、申し訳ありませんでした。では、お休みなさい。」
できるだけ丁寧に謝罪して、俺は部屋の扉をしめた。
部屋は広くはないが、机、ベッド、洋服ダンスなどかコンパクトに収まっており、鏡に洗面台まである。
まあ居心地は良さそうだ。
洋服ダンスには、今着ている燕尾服と全く同じ服がぎっしり掛かっており、引き出しには白いワイシャツが同じくぎっしり。
その他の上着は一切なく、後は下着や靴下が収まっている。
この先。着る物に迷う事は無さそうだ。
なんか悔しいけど、昔から着る物に無頓着だった事に感謝だよ。