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おおかみちゃん  作者: 功野 涼し
麻琴はおおかみちゃんだもの♡
9/101

8.絵を描く男の子はあの日に想いをはせる

 授業中、久間秀治(ひさましゅうじ)はノートに鉛筆を走らせる。


 もちろん描くのは花蓮麻琴(かれんまこ)。デフォルメされていないリアルな線を描きながら、あの日のことを思い出してしまう。


 普通に生きて、気になる女の子ができて、女の子と当たり前に恋愛をする。そう思っていた自分が初めて経験する相手が、男の娘だとは想像もしていなかった。


 愛し愛される関係。自分が想像していたのより何倍も濃厚なひととき。

 思い出し想像するだけで、体の奥底から火照るような熱を感じる。


 思わず前屈みになってしまうのは、男の(さが)


 女性経験のない自分にでも分かる。あれほどの快楽は、花蓮麻琴(かれんまこ)以外ではありえないだろうと。


 そう思うといてもたってもいられない。学校から帰ったら直ぐにでもメッセージを送ろうか、荒くなる息を凝らしながらそんなことを考える。


「またノートに絵を描いてるのか?」


 不意に掛けられた声に、久間は顔を上げる。ぎこちなく起こす体は少し前屈みなままの、不自然な姿勢で視線の先にいるクラスメイトの飯田摩宏(いいだまひろ)を見ると、体が熱くなっていることに気がつく。



 麻琴との間に起きたことを言いたい


 教えてあげたい、こんなにも幸せに満ちた世界があることを。


「どうした? ぼぉっとして。調子悪いなら保健室行った方がいいんじゃね?」


「あ、うん。大丈夫」


「そうか、ならいいけど」


 それだけ言って、一旦立ち去ろうとする摩宏だが振り返ると、久間の描いていたノートの絵を指差す。


「前よりもなんかリアリティーが増したって言うか、俺から見ても本人に似てると思う。本人に送ったら喜ぶんじゃないか?」


 摩宏の言葉に、大きく頷く久間の表情は明るい。


 それを見て摩宏は微笑むと、手を振りながら去って行く。


 お互いの表情は見えないが、二人は確かに笑顔でそれぞれの幸せを嚙みしめている。



 麻宏と麻琴は微笑む。


 自分を愛するものが増えたことに喜び、そしてもっと増やそうと。


 自分という存在をみんなに刻もうと。


 愛に飢えたおおかみちゃんは、次の獲物を探しに行く。


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