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おおかみちゃん  作者: 功野 涼し
あなたの口は何を伝え、その手は何が出来るの?

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2.母と娘

 夕方7時頃、友達とカラオケに行き家へと帰る。玄関を開けると、この時間にはめったにない女性ものの靴が並んであるのが目に入る。


 無意識に眉間にシワを寄せながら靴を横目にリビングに入ると、ソファーの背もたれにぐったりともたれ掛かる母の姿があった。


 私の気配に気づき、両目の辺りを押さえていた腕をのけ、霞がかった(まなこ)で私を見る。


「あーお帰り」


「ただいま」


 短い挨拶を交わした後、母はお腹を押さえる。


「お腹すいたんだけどさ。冷凍庫の中なんにも無いんだよね。弥生、晩御飯は?」


「……もう食べてきた」


「外食かぁ、贅沢なもんですこと。母さんが学生の頃はそんなことしたことないなあ」


 その物言いに苛立つが表情に出さないように努める。


「それよりもお腹空いたからなんか買ってきてよ。お金あげるからさ」


 財布から千円札を出すと、人差し指と中指で挟んだお札をヒラヒラと揺らす。


 揺れるお札が私を馬鹿にしているように感じ、なるべく苛立ちを見せつけるように奪い取る。


 それを見て薄ら笑いを浮かべる母に更に苛立ちを抑えきれる自信を失いそうになってしまう。


「そう言えばさぁ、期末試験のテストそろそろ返ってきてるでしょ。戦績はどんな感じ?」


「べつに普通だけど」


「ふ~ん、普通ねぇ。一応教員として教える立場にある私の意見だけどさ、普通ってヤツほどつまんないのよね。あとさ、トロイヤツもつまらないし苛立つだけだけど。就職しても使えねえって臭いがプンプンするのよね」


 中学校で教師として教壇に立つ人間として、問題がありそうな発言を平然とする母に嫌悪感を感じる。


「結果が全部分かったら教えてよ。一応見てあげるから。それより晩御飯、ざるそばとおにぎり希望ね。なかったら弥生のセンスに任せるから」


 それくらい帰りに買って帰ればいいじゃないか、今からでも自分で買ってこいよ! という言葉が喉元まで上がるが我慢して飲み込む。これ以上話しを続ける方が面倒なので背中を向け、不満を見せつけるためわざと足音を立て玄関へ向かう。


 床に響く足音が伝わったのだろう、母が私の背中に向かって言葉を放つ。


「弥生太った? 足音に体重出てるよ」


 ケタケタと母の馬鹿にした笑い声から逃げ、遮断するように玄関のドアを思いっきり閉める。小走りで家が見えなくなるまで離れると大きく息を吐き心を落ち着かせる。


 梅雨も明け夏の空気を纏い始めた夕方の空気は生ぬるく、寝苦しそうな夜を予感させる。

 家から離れたくて小走りで走ったせいで、汗ばんで張り付くインナーを不快に思いながらコンビニに入ると目当てのざるそばとおにぎりを手に取る。


 レジに並ぶ長い列を見て少し時間を潰して並ぶため店内を一周する。


 雑誌コーナーに並ぶ雑誌のタイトルと見出しを眺めながら通り過ぎようとしたとき、ある文字が目に入り足を止める。


『ミーチューバーから学ぶファッション! 今来てるミーチューバーたち~……花蓮麻琴(かれんまこ)……』


「かれんまこ?」


 振り仮名がふられた名前を口に出して読んで、どこかで聞いた響きに考え込む。そしてすぐに渡邊詩織(わたなべしおり)の泣き顔と共に、いつもはトロイ子が私から奪い取ったラバー製のキーホルダーのことを思い出す。


 苛立ちと共に蘇った記憶にイライラしながら雑誌を手に取ると、目的のページを開く。大きな見出しとは対照的に小さな記事は白黒のページの隅にあり、花蓮麻琴がコスプレイヤー系ミーチューバーであり、最近はファッションやコミュニティ関係でも人気が伸びていて注目の子であると書いてあった。


 一瞬で記事を読み終えた雑誌を閉じラックに戻す。


「人に真摯に向き合う姿が人気の秘密とかバカじゃないの……ムカつく」


 目当ての物を買った帰り道、さっきの記事を思い出しながら手に持ったコンビニの袋を乱暴に振りながら家へと向かう。

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