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おおかみちゃん  作者: 功野 涼し
想い出とおおかみちゃん

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34/101

4.獣の鼓動は胸の中にあって

 知らない女の人と手を繋ぎ、親し気に歩くお兄ちゃんを見て私は何も出来ずに立ちすくむ。そこからどうやって家に帰ったのかも覚えていない。


 気が付けば私は家のリビングのソファーに膝を抱え座り込む。


 私の耳にインターフォンのチャイムの音が響く。


 ゆっくり振り返るとインターフォンの画面にお兄ちゃんの姿があって、いつもの笑顔で立っている。


 戸惑いはあったが、いつも通りにカギを解除して部屋に招くと、いつものお兄ちゃんがいつもの笑顔で優しく語り掛けてくれ、いつものように私を押し倒す。


 いつもなら私はそれを喜んで受け入れるが、強張った体と心が拒否してお兄ちゃんの体を手で押さえてしまう。

 普段と違う行動に驚きの色を目に浮かべつつ、私を見つめてくる。何か言わなきゃと焦ってしまう。


 本当は今日見た女の人が誰なのかを聞きたかった。


 でも事実を知るのが怖かった。


 だから私は違うことを尋ねる。

 

 それは今日見た光景と重なっていて、私もやってみたいと思ったことだからあながち的外れではないのだけど。


「お兄ちゃん。お願いがあるんだけどいい?」


「何かな?」


 突然の言葉に驚きつつも笑顔崩さないお兄ちゃんに安心して、私は言葉を続ける。


「麻琴が高校に合格したら、お兄ちゃんと一緒に遊園地とか水族館とか……ううん、どこでもいい、二人で一緒にどこか行きたいな」


 私の言葉にお兄ちゃんは私を押さえつけたまま黙って見つめる。


 目には戸惑いがあるのだろう。僅かに揺れる。


 このとき悟った。


 この人は私を使って自分の快楽を得ることだけが目的で、人前で私と一緒に歩いたりするのは嫌なんだと。


 冷静に思い起こせば出会って2年ほど経つけど、家の中以外で一緒に過ごしたことはない。


 初めは私に優しく触れていた手も回数を重ねる度に段々と荒くなり、腕や足に爪を立てられ小さな傷が付くようになった。


 一方的に欲望を押しつけ自分が気持ち良ければいい、そんな考えじゃないかと今になってみて思う。


 考えているうちに段々と冷静になっていく私の中で、何かが脈打ち小さな鼓動を刻む。


 その小さな鼓動は、私の鼓動とゆっくり重なりやがて一つになる。

 そのとき今までの私とは違う私になった気がした。


 だから私はこの言葉を口に出す決心をする。


「麻琴ね、今日お兄ちゃんが女の人と歩いているの見たの」


 人が驚いたとき瞳孔はこんなにも開くものだと感心してしまうほど、お兄ちゃんの瞳孔が大きく開く。

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