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おおかみちゃん  作者: 功野 涼し
想い出とおおかみちゃん

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32/101

2.おおかみちゃんは冷静なの

 玄関の鍵を開けるとその人はケーキの箱を持って入ってくる。


「新しくオープンしたケーキ屋さん、タルトがおいしいんだって聞いて買ってきたんだ。麻琴ちゃんタルト好きだよね」


 優しそうな笑みを浮かべながら、ケーキの箱を掲げて私に見せる男の人の名は西尾(にしお)達行(たつゆき)

 私のお母さんのお姉さんの息子。つまり従兄弟にあたる。年は離れていて今年で28になるはず。


 幼いときから付き合いがあり、今私がこうして一人暮らしをして過ごし、動画を撮るスタジオまで持っているのはこの人のお陰。


 感謝はしているのだけども……。


「今日は学校休みかい?」


「うん、そうだよ。お兄ちゃんはお仕事お休み?」


 ケーキを受け取り冷蔵庫にしまう私がお兄ちゃんと呼ぶと、笑みを浮かべながら答える。


「いや、まだ仕事の途中だよ。ケーキ屋の近くを通ったらふと麻琴ちゃんに会いたくなってね」


「それは嬉しいけど、お仕事大丈夫なの?」


「問題ないよ。定時までには終わらせるさ」


「そう、じゃあ理沙(りさ)さんのっ」


 私が言葉を言い終える前にお兄ちゃんが私の手を握ってくるので言葉を切ってしまう。そのまま無言で二人で見つめ合うと、お兄ちゃんは私を冷蔵に押し付け手をつけ私に迫る。


 少し前に流行った壁ドンってことになるんだろうけど、背中側が冷蔵庫だと名前も変わるのだろうか? 

 どうでもいいことを考えれるほど私は冷静で、目の前にいるお兄ちゃんは冷静ではない。


「この間の返事を聞かせてもらえないか?」


「……返事って結婚の?」


 私の問いにお兄ちゃんはゆっくり頷く。


「麻琴は男の娘だよ。日本ではパートナーシップ制度だけで、実質結婚は出来ないことは知ってるよね?」


「実際の制度がどうとかじゃなくて、気持ちの問題だ」


「でもお兄ちゃん、理沙さんと婚約しているでしょ」


「ああ、だけど色々考えたらやっぱり麻琴ちゃんしかいないって」


 少し興奮した口調で私を押えつけ強引に抱きしめてくる。


 ──ああ、この人はいつもそう。


 ──強引で自分勝手。

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