1.麻琴=麻宏
俺の名は飯田麻宏16歳の高校二年生。
昨晩のライブ配信で疲れた体を癒す為、目を瞑る。
次のコスプレは何しようか、ライブ配信の開催の日取り、配信の内容は何が良いだろうか。
昨晩得た収益をどのように使おうか、等々頭に浮かんでくるのは次なる配信の計画ばかり。
仕事熱心なのも困りものだ。
スパーン!
紙の弾ける音が俺の頭の上から響き、目を開ける。
「飯田、目を瞑って瞑想か?」
国語の担当、遠藤が俺を睨む。ムッとした気持ちが湧き上がるが、ここは我慢しておく。
まあ、悪いのは俺だし。
「寝てました」
「正直に言えばいいってもんじゃないからな。気を付けろよ」
丸めたプリントで肩を叩きながら遠藤は俺から離れていく。
俺の肩がチョンチョンと突っつかれる。
後ろに重心を掛け、椅子の後ろ脚でバランスを取りつつその声の主に話し掛ける。
「なんだよ」
「叩かれてやんの。どーせ昨日遅くまで遊んでたんでしょ」
「ん~まあな」
会話を交わすのは、中学生からの知り合い、『墨刺飾切』だ。
ナチュラルボブの似合う女子で。サバサバした性格だからなのか、結構話が合って気さくに話せる間柄である。
「なになに? 彼女と夜遅くまであんなことや、こんなことしてたんじゃないでしょうね?」
「あん? 彼女いねえし」
「へぇ~意外、飯田って美形でモテそうなのに。いないんだぁ~へぇ~」
へぇ~、へぇ~とうるさい飾切は置いて、少し離れた男子生徒に視線をやる。
黒板も見ずにノートに何かを必死に書いている。一緒の教室にいるから当たり前なのだが、クラスメイトである。
名前は久間秀治。身長160ぐらい。細見でヒョロっとしているが童顔で可愛い顔をしている。
言葉を交わしたことはあまりないが、性格は大人しく、どちらかというとオタク気質だったはず。
「気になるな」
誰にも聞こえないように呟くと、大きくあくびをして涙でにじんだ黒板をぼんやり眺める。