色の変わる世界。
覚めた夢と現実の区別がつかないほどにリアルだったが、
汗でシーツがびっちょりと濡れていた。
生の実感が吹き荒れるようだ。
この汗も体が感動の涙を流して安堵しているようにも思えた。
それほどまでに、生物としての格が違いすぎたのだろう。
濃密な死の中にいたようで、あの方以外の全てを忘れてしまっている。
否。目に入ってすらいない。
目を逸らしたら殺されるかも。
息をすれば殺されるかも。
そんな空気の中、生還している。
流した寝汗は体が生還の喜びに流した涙かもしれない。
そう思ってしまう。
戦争でどんな過酷な体験をしたものですら、今の私にはかなわないだろう。
そう思ってしまう。
そこまでの圧倒的な生の実感だった。
不思議なのがそこまでの恐怖を覚えておきながら、
私はあの女神に魅了されてしまったということだ。
「いや…」
自らの中ですら分からない。
強いて言うなら…
『恋』
したことなどは、あの田舎ではあるはずもないが、
恋というのは、こんな気分なのかもしれない。
そして、魅せられた今。自身の中に確かな力を感じる。
いうなれば圧倒的。生命の暴力。
足がもげけようと、腕がちぎれようと、
きっと、すぐに治ってしまう。
人の一つ二つでは、決して対抗できないことの生である。
そして、『世界』が灰色に見えている。
色彩的な話ではない。死んでいる。
窓の外を飛ぶ野鳥すら作り物のように見える。
渦巻く憎悪と絶望と、あの方にもたらされた恐怖による冷静さが僕の中の全てだと分かった。
どうすれば、殺せる???
どうやって????
どうすればあの方への恩に報いることができる?????
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ガラッと、1人で思考の中に溺れていく中で、意識を一気に表層まで引き上げるような、予想外で、乾ききった音が響く。
部屋の両開きのドアの片方だけが開いていく。
しかし一向に人が見えない。
そして20秒ほど経った頃だろうか、ふと柔らかな風が吹き、
開いたドアの隙間から、薄く柔らかい金髪がふわりと舞った。
「誰?」
そこから数瞬の後に、その髪の持ち主から声が聞こえた。
ハッキリとした、よく通る声が僕の正体を問いただす。
「さぁ。自分でも何が何だか」
「でも、ここはガキ一人易々と通すほど甘くない。」
はっきりと、そう言いきった。
まるで、ここは私の場所だ、わからぬことは何もない。
そう語るように、言いきった。
「道理で…見たこともない色が見えるはず」
「勝手に納得するんじゃねぇよ。色?なんだそれ?」
「色よ、色、赤、青、緑、黄、そんなに単純じゃない色」
何を言っているかよく分からなかった。
何かを含んだような顔で、とても重大そうな告白をしたらしいが、生憎。
「はぁ?意味わからん。それよりお前は?」
すると鋭い目で僕を射抜くと、言った。
「まずは、あなたが」
「アステル。アステル・エンデュミオン」
「そう…」
「じゃあね」
引き止める間もなく。
女は去っていった。