006 かおる、モンスター化した農民と話しをする
「この村は俺が子どもの頃は豊かな村だった」
「今の国王が即位してから、急に税金が重くなった。税金が払えなければ男は兵隊に取られる。男が兵隊に取られると、人手が足りなくて、荒地がどんどん増えていく。で、税金が払えなくて男が兵隊に取られる。俺たちは村を捨てて逃げるところまで追い詰められた。逃げたよ。でも、どこもかも、俺たちと同じ状況だった。北の領主様は名君と噂された方だと言うことで、皆んなで北に向かった」
「しかし途中で野党になった連中に襲われて、またこの村に帰ってきた。後は魔素が濃くても食えるものはすべて食った。その結果がこの有り様だ。剣士さん、俺たちは悪党なのか?」
「……」
男は語り終えると自分で自分の首を鎌で切り落とした。
私の目から涙が止まらない。どうしてこんなことになっているの……。土魔法で男とその家族たちを葬った。
「エクスキャリバー、この国は一体全体どうなっているの?」
「聖剣であるワイが言うのはおかしんやけどな。早く人間の国が魔王の支配下に入れば、こんな悲劇はなくなる。魔王はホンマもんの名君なんや」
「魔王の支配下に入れば人間には税金がかからない。作った作物は作った農民のもんや。やから魔王領に近い農民は領主を倒してでも魔王領に入りよる」
「北の領主のところに行こうとして夜盗に襲われた。違うねん。北の領主も受け入れがでけへんようになったもんやから、兵士を夜盗の格好にして、やって来る農民を襲わせたのが本当のところやねん」
「国王は何をしているのですか!」
「勇者を召喚しては、村から集めた男たちを兵士にして魔王討伐をさせては返り討ちにあっている」
「馬鹿なの……」
「若い頃は名君やったんやが、魔王の支配領域が増えるにしたがって、焦ったみたいや。結果、魔王と裏で繋がっているあの街以外の街は、どこもかも荒れ果ている」
「そして、王都が攻められている」
「それはちゃうなあ。王都に勇者がおるから、偵察がてら調べに来ただけや。ネズミ型の魔族は調査専門やから」
「エクスキャリバー、その調査隊に騎士団は勝てないの。探索者よりもずっと強いのでしょう」
「ネズミ型の魔族は大して強ない。騎士団なら楽勝や。ネコになると苦戦でイヌやと全滅やろうか?」
「ネズミならダンジョンで魔物を狩っている探索者でもなんとかなる。まあ、半分くらいの探索者は死ぬやろうけどな」
「かおるも、そろそろ、探索者デビューを考えたらどないや?」
「王都の魔族退治は?」
「かおるが王都に着く頃には、もうおれへんとワイは睨んでいる。王都におるのはニセ勇者って報告を魔王に上げててネズミのミッション終了や」
「魔族退治は気にせず、今の王国がどうなっているのか、よう見るこっちゃな。ゆっくり王都に行ったらええわ」
「神々は助けてくれないの?」
「ちゃんと、かおるを召喚したやないか? 神々がするのはそこまでや」
どこもかしかも荒地が続く。モンスター化した人間しかいなかった。
◇
王都の東門についた。門は閉ざされていた。
「エクスキャリバー、これでは入れないよう」
「心配ない、馬ごと入れる抜け道がある。あの荒れ果てた教会の下に抜け道がある」
私は馬から降りて、馬の手綱を引きながら教会の中に入った。
「かおる、そこの神像に手をあてて魔力を注げ」
私はエクスキャリバーの言う通りにする。マイナーカードから百ポイントが減った。日給がああ……。
神像は静かに動いて、抜け穴が見えた。馬連れでも十分入れる大きさだ。抜け道は真っ暗だった。私は馬を引いてその穴に入る。「炎」と唱えた。また百ポイント使ってしまった。落ち込む。
抜け道の出口らしきところに来た。そこには壁があった。
「かおる、その壁に手をあてて魔力を注げ」
また百ポイントが……と思ったら減らなかった。片道百ポイントみたいだ。良かった。
壁が静かに動いて、日の光が眩しい。私は抜け道から外に出た。そこは廃墟だった。
「王国が滅んだの!」
「ここは王都の北のはずれ、何百年も前に捨てられた王宮の成れの果て」
「ここから今の王都の中心まで馬で二時間ってとこや」
私は馬に乗って王都の中心を目指した。
商店街に入ったがどこも掠奪にあったようで、扉が壊され、店の中が荒らされていた。
「タチの悪い探索者の仕業だやなあ。探索者と強盗は紙一重や……」
エクスキャリバーさんや、あなたは私にその探索者になれって言っているのでは……。
王城が見えた。空堀だ。水が蓄えられていない。堀の底には多くの魚の死骸が目立つ。腐敗臭が漂っている。王城に入るための橋はすべてあげられている。
王都の中心街に入った。そこでは葬儀が行われていた。魔族と戦った戦死たちの葬儀ではなかった。街に現れた盗賊団との戦闘で亡くなった、兵士と探索者の葬儀だった。
「人間同士が殺し合っている」とエクスキャリバーがつぶやいた。
◇
兵士長らしき人に私は話しかけた。
「私は旅の剣士でかおると申します。非常呼集に応じて参ったのですが……」
「ご苦労だった。魔族はすでに王都を去った。今は王都を荒らし回っている盗賊団を掃討しているところだ。それもそろそろ終わりだが。かおると言ったか、これは自警団員であることを証明するエンブレムだ。よく見えるところにつけておくと良い。ただし、相手がエンブレムをつけているからといっても油断は禁物だがな」
「ありがとうございます」と私はエンブレムを受け取り胸につけた。
兵士が兵士長に何やら報告をしている。
「かおる、西地区に盗賊団の残党が見つかった。掃討戦に参加するように」
私は兵士の後について、馬を引きながら西地区に向かった。馬に乗ったままだと格好の的になってしまうので。西地区に着くと馬の回りに土壁を巡らせた。兵士の驚いた表情が面白かった。