005 かおる、鳥形魔族ハーピーと戦う
「勇者殿、俺と正々堂々戦ってはくれないのか? 俺は勇者殿と戦うために魔王城からはるばるやって来たと言うのに」
「あなた、鳥目なの?」
「ああ、鳥目だが、それがどうかしたのか?」
「私が勇者なんて素敵な者に見えるの?」
「見える。俺は勇者を魔王城で見た。ミスリルの輝く剣を持っていた」
「第一、俺のシールドを貫けるのは勇者以外には不可能だ。お前は勇者だ。ただ勇者のオーラが出ていないのが不思議だ」
私は街から鳥形魔族が離れるように走った。鳥形魔族は飛んだ。
「かおる、草原での戦いは不利だ。森または岩山に向かって走れ」
「エクスキャリバー、空から無数のフェザーというか、殺傷性百パーセントの矢のような羽根がホーミングしてくるんですけど」
「かおるはまだ土壁は出せないか?」
「土壁って何ですか?」
「土で出来た壁を魔法で出せないのか?」
「やったことはないです。魔法を使うとポイントが減るから」
「じゃあ、今やってみよう。土壁って叫ぶだけだから」
「土壁!」
フェザーが土壁に刺さった。一日分稼ぎのポイントがマイナーカードからなくなった。土壁一回で百ポイントって高くないですか!
一日百ポイントを稼ぐためにかなりお客さんに体を触られているんですけど。
私は森に飛び込んだ。上空には私を探す鳥形魔族が飛んだいる。
「ふう、疲れた」出掛ける時は忘れてはいけない皮袋から聖水を一杯飲んだ。そこに鳥形魔族が降りて来た。
「勇者! いや勇者の雛鳥か。悪いが俺、急用が出来て魔王城に戻らないと行けなくなった。再戦を楽しみにしている。お前はもっと強くなれる。俺が保証する。俺はの名前はハーピー。お前は?」
「私はかおる」
「かおるか、覚えておく」と言うと鳥形魔族は飛び去った。
「助かったあ」よくわからないけど、私は命拾いをした。そこへいも虫君が現れた。土壁の魔法で減ったポイントを稼がないと。私はその後、せっせといも虫君を討伐をすることにした。
◇
三日後、私が西門に戻るとお祭り騒ぎになってしまった。失ったポイントを稼ぐため私は三日間ひたすらいも虫君を狩っていただけなのだけど、それは言えない。というのも街では街を守るために、私は名誉の戦死をしたことになっていたから。
「かおる、俺はお前が生きていると信じていたぞ」って私に偽の生活歴を登録してくれたハンスさんにハグされた。近い、近いし、痛いし。
「ハンス様、騎士団はどこですか? なぜ兵士だけで西門を守っているのですか?」
「魔族が王都にも現れたので、騎士団は王都から動けないと連絡があった」
この街は見捨てられたのか。
「その代わり、代官様から、大砲の使用を認められたがな……」
「かおる、鳥形魔族はどうしたんだ?」
「ハーピーさんですか? 急に魔王城に用事が出来たそうで、魔王城に戻られました」
「かおる、お前、鳥形魔族と話しをしたのか?」
「私との再戦を楽しみにしているそうです」
「かおる、お前、一生鳥形魔族に付きまとわれるぞ」
ハア、この世界ではあの言葉ってストーカー宣言だったのか。まいったなあ。
「かおる、ハンスとの会話中悪いが、王都に行ってくれ。王都ではネズミ型の魔族が大暴れしているそうだ」
「王都には騎士団がいるんですよね」
「騎士団は王城を守っている。王都の街は探索者と兵士が守っている」
探索者というのはダンジョンに潜ってお宝を探す職業の人たちのこと。ラノベでおなじみの冒険者と同じ意味だ。
「鳥形魔族に再戦を希望されている、かおるなら何とか出来るだろう」
いやいや、何とかなんて出来ないし、森で、いも虫君の大きな巣を見つけたので、ひたすらいも虫君を討伐していた私には魔族との戦闘なんて勘弁してほしい。
「一万ポイントが王家から貰えるはずだ」
「喜んで行かせてもらいます」と口が勝手に動いていた。
私はこっちの世界に来てからポイントを貯めることに全力を傾けている。近頃、元の世界に戻ることも忘れてただポイントがほしい、ポイントって思っている。今ではポイントが形になって夢に出てくるようになっている。
「かおる以外の剣士たちはすでに出発した。王都までは馬で二日ほどの旅になる。途中食いつめた元農民たちが夜盗化している。そいつらは出来るだけ殺さないでくれると嬉しい」
「ハアーー。承知しました。出来るだけ……」人を襲う以上はそれなりの覚悟がないといけないと思うのだけどなあ。
私は街道を西門の兵士長さんから借りた馬に乗って王都に向かっている。街道の両脇は荒地だ。広大な荒地だ。この様子を見るとどうしてあの街は食料が豊富なんだろうか? ドケチ代官様のお陰で食料は不足していない。でもどこから食料を買い入れているのだろう? 不思議だ。
私の場合、魔素を取り込みたくないので、大樹の側の畑で育てた作物を出来るだけ食べているし、森に行けば魔物化していないウサギや鳥がいるので、それを狩れば飢えることはなかった。最悪、皮袋に入れておけば食べものの魔素が抜けるし。
ここには荒地しかない。この荒地にはミミズ一匹もいないのではないだろうか? 村があった。村人に捨てられた村みたいだ。誰もいない。
今日はここで一泊することにした。馬は家の中に入れた。家の周囲には鳴子を仕掛けておいた。ずっと誰かに見張られている感じがしたから。気のせいだとは思う。だってここには何も食べるものがないから。
真夜中、二時くらいだろうか? 鳴子が鳴った。賊だ。私は馬を守るため土壁を出して馬を中に入れた。借り物に傷をつけるわけにはいかないからね。
賊の数は十数人ていうとこかなあ。完全に囲まれている。相手の殺気と空腹感を感じる。私が食べものなんだ。賊は元人間に違いない。
早い、一気に間合いを詰めて来た。後ろにもいる。跳躍して後ろの賊を斬り捨てた。真っ暗なのに賊には私の姿が見えるようだ。三人が一斉に私に襲いかかってきた。剣を横薙ぎに振って二人の足を止めて、一人の喉を突いた。賊は引いてくれない。
残り二人も斬り倒した。残り十人。私は、網をかぶせられた。「炎」網に火をつけた。「風」網を飛ばした。火のついた網をかぶってしまった数人の元人間が焼かれている。私はトドメを刺した。
「魔法剣士に出くわすとは俺たちの運もこれまでだ」と言うとその男は仲間の首を鎌で切り落としている。
「何をしている。お前の仲間ではないのか? 私は、お前たちが襲って来なければ斬ったりはしない」
「仲間! ここにいるのは皆んな俺の家族だ」
「そんなあ……」