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001 かおる、魔界に転移させられる

 ヤバい、ヤバい、ヤバいよ。副キャプテン就任初日から遅刻なんて、信用問題だよ。私は必死に自転車をこいでいる。


 私、大石かおる、十七歳。高校二年生。三年生が部活をこの夏に正式に引退したので、合気道部副キャプテンに選ばれた。今日は朝練初日。昨日は、家に帰るとすぐに門弟さんたちに稽古をつけたため疲れきってしまい、うっかり目覚まし時計のアラームのセットを変えるのを忘れたのでこの有り様だ。


 父親がこの春、突然亡くなってしまい、父親の葬儀が済むなり私は大石流古武術宗家、最高師範になってしまった。それやこれやで、ここのところうっかりミスが多い。毎日反省しているけど、ハアーーミスが減らない。


 全速力で飛ばしても、どう考えても十五分の遅刻だ。おっと、開かずのトンネルが今日からやっと開通したみたい。良かった! 私ってツイている。トンネルを通れば朝練開始五分前に道場に着けるはず、私は自転車のハンドルを右にきってトンネルに突入した。


 自転車のランプを点けた。快調に走っているものの、このトンネルってこんなに長かっただろうか? おかしい。とは言えもう後戻りは出来ない。光が見えた。出口だ。で、何かにぶつかった。マジでヤバい。私、自転車保険に入っていないよ!


 ブレーキ! あれ、ブレーキが効かない。勝手に自転車が走っている。トンネルの中なのに流れ星が見える。私、まだ寝ているわけなの。夢から早く覚めないとマジで朝練を遅刻する。



 トンネルを出たらそこは鬱蒼うっそうとした森だった。「ここはどこ?」


「魔王の森」


 誰かの声が聞こえた。


 私は自転車を降りて、自転車のスタンドを立てた。私が出て来たはずのトンネルがどこにもない。周囲はすべて気味の悪い樹樹きぎばかりだ。


 首からいつの間にかクレジットカードみたいなものがぶら下がっている。なぜか腰にはロングソードを帯びていた。


「何これ!」


「勇者召喚に失敗したみたいやな」


「すみません。これって夢ですよね。私早く起きないとダメなんですよ」


「残念、リアルでござるねん」


 何このヘンテコな物言いは!


「すみません。近くにいるなら出て来て、ちゃんと説明してもらえませんか!」


「ワイはあんさんの腰におる。説明するのはこの森から出てからや。ここは魔王の支配地域やさかい、早よ逃げな死んでまう! ワイが道案内するからワイの言う通り進んでや」


「はい!」そうなのだ、ここにいるのは危ないって私の第六勘も教えてくれている。私は自転車を押しながら、ワイさんの言う通り進んだ。森を抜けると、そこは草原だった。


「あんた、草原を抜けたら大樹が見えるさかい、ともかくそこまで行ってんかあ。説明はそこでするさかい」


 大樹が見えた。これは鳥居かしら。しめ縄が張ってある。


「早よ、門の中に入って。アイツらはこの中には入って来られへんさかい」


 私は鳥居の中に入った。空気が美味しい。


「すみません。鳥居の中に入りました。そろそろ姿を見せてください」


「ワイはここや」腰に帯びているロングソードがカタカタ鳴っている。


「この緊急時に、手品はやめてもらえませんか」


「手品ちゃうわい。このロングソードがワイや。ワイの名前は聖剣エクスキャリバーや。よろしゅうたのんます」


 私は腰の剣を見つめた。聖剣には見えない。普通の鉄製のロングソードだ。口らしきものもない。一体全体どうやってこの剣は話しをしているのやら。


「あんさんの疑問はようわかる。あんさんの言葉で言うとテレパシーやな」


「テレパシーですか?」


「そう、テレパシー」


「私、今日朝練で急いでいるので、学校に行きたいのですが……」


「すまんな。帰れるんやけど、システム上、魔王を倒して、魔王が持っているアイテム一つだけ願いをに百万ポイントを捧げんと帰られへんねん」


「聖剣エクスキャリバーさん、おっしゃっている意味がわからないのですけど」


「エクスキャリバーって呼んでや。あんたのことはなんて呼んだらええんやろう?」


「私は大石かおる。かおるって呼んでください」


「かおる、ここはヌーアっていうとこや。今はヌーアの四分の三が魔王支配地域で、残りが人間の王が支配している。かおるを呼んだのは、人間の国王や。ほんまやったら、勇者の装備で王宮内の召喚の間に出てくる予定が、今回の召喚は無理矢理召喚でこうなってしもうた。堪忍してや」


「まったく理解できないのですが……」


「そやな、首から下げているマイナーカードを見てんか」


 このクレジットカードみたいなのが私のマイナーカード? マイナーカードを見つめると文字が浮かんできた。大石かおる、十七歳、職業剣士。所持ポイント、千ポイント。


「読めたか? それがかおるの現在置かれている状況や。所持ポイントは千ポイント。職業は勇者やのうて、ただの剣士や。今のままやとすぐに死ぬ。ワイが保証したる」


「そんな保証はいりません。私はこれからどうしたら良いのですか?」


「さっきも言うたように魔王を倒して魔王が持っているアイテム一つだけ願いをに百万ポイントを捧げると家に帰れる」


 私の現在の所持ポイントは千ポイント。百万ポイントって……。


「あのうですね、剣士で魔王は倒せるの? エクスキャリバー」


「勇者やないと不可能や。ワイが鉄製のロングソードの間は絶対に魔王には勝たらへん」


 私、この時点ですでに詰んでいるのだけど。


「勇者になるにはどうしたら良いの? エクスキャリバー」


「方法としては三つあるんや、一つ目」


「今の勇者が死ぬのを待つ。二つ目」


「今の勇者から勇者の称号を購入する。売り値は五十万ポイント。三つ目」


「今おる勇者を加及的に速やかに殺すやな」


「エクスキャリバー、今いる勇者ってどう言うことなんですか? 勇者がいるなら勇者召喚なんてする必要がないじゃないですか?」


「それはやな……」


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