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017 かおる、大聖女の素顔を見る

 次の部屋は小さな映画館だった。


 私たちが入ると映画が始まった。登場人物はラプンツェルとその友人たち。


 教会には、正装をしたラプンツェルの友人たちがすでに並んでいた。ラプンツェルは控えの間で一人、正装に着替えているのだが、行動が不自然だ。友人たちのカバンとかを探っているように見える。

 

 ラプンツェルは表情を変えずに、「私、毎回盗みをしていたの。ウチには毎回正装を仕立てるお金がなくて、泥棒したお金で、教会に通っていたのよ」


「私は盗みをするたび、自分を罰したのよ。友人たちは私が盗みをしてることには気付いていたわ。彼女たちは心から私を憐れでくれていたのよ。素敵なお友達でしょう。彼女たちこそ聖女だったのよ」


「私は聖女なんかじゃないの!」


「私には魔力があったの。神力じゃないのよ。魔の力があっただけ」


「この場面は初めての勇者召喚ね。他の子たちは神々に祈っていたの。純粋に!」


「私は泥棒だし、どんなに祈っても神々は応えてくれない。だから魔力で勇者を召喚したのよ」


「結果は私だけが勇者召喚に成功したの。ズルをして……」


「私は大聖女じゃないの、ニセ聖女。魔女に近いかな。悪魔とは契約していないだけで……」


「ラプンツェル、お前は大馬鹿だ」


「エクスキャリバー、急に何を言い出すのよ」


「お前が生まれた時から、ワイはお前を知っている。お前が本当に隠したいことも知っている。神々はその汚れきったお前を認めた。なぜならお前の祈りは誰よりも純粋だったからだ」


「人間の基準と神々の基準はまったく別物だと知れ!」


 エクスキャリバーの言葉と罪の意識でラプンツェルは気を失った。


「やはりニセ聖女ではないか」


「ジョージ王子、女好きのあなたが女性を拒むとは思いませんでしたよ」と王子の言葉を私は遮った。これ以上王子の声を聞くとミスリルの剣で王子を滅多刺しにしたくなる。


「私は鼻が良いのだ、ジャコウの匂いは大嫌いなのだ」


 良かったね。ジャコウの匂いが嫌いで。


 ラプンツェルは自らの黒歴史を公表された。


 山田さんは「あの程度で黒歴史ってかあ。恵まれ過ぎじゃねえか」


「かおる、魔力と神力の違いがわかるか?」とエクスキャリバーが尋ねた。


「わかるわけないじゃないの!」


「答えはどちらも同じ」


「かおるの魔力は神々が与えしのも、ラプンツェルの魔力も神々が与えしもの。魔女の魔力は悪魔が与えしもの。魔法使いは悪魔と契約していなければ、神々の恩寵おんちょうそれだけのことや」


「ラプンツェルは神々から恩寵を与えたれた。真摯に神々を信仰した。自分の悪行を自覚して、神々はそれを憐れんでラプンツェルを聖女にした。本人には自覚はないのが問題やな。自分を卑下し過ぎや」



 ラプンツェルは意識を取り戻して「観たの!」と尋ねてきた。


「観たけど、大したことはなかった」王子だけが浮かれて「ニセ聖女」を連呼している。黙らせたい。



 次の部屋に入った。暗黒だった。何も見えない。目を凝らすと一人の少女がそこに立っていた。


「あれが現魔王だ」


「えっ!」


「どう見ても私よりも歳下にしか見えない。史上最強の魔王が少女なの!」


「魔王が生まれてから二百年は経っているから、ありゃロリババアだな」とエクスキャリバーが言った瞬間、私は背中に衝撃が走り、エクスキャリバーが空を舞う。そのエクスキャリバーに連続蹴りを入れている山田さんがいた。無茶苦茶怖い。


「太郎! 何すんねん」


「彼女を侮辱するな! この駄剣」


 山田さんが不戦敗を宣言した理由がわかった。山田さんは魔王に恋をしたんだ。大好きな人? に剣なんて向けられないよね。当然だ。それで、勇者をやめたのか。理解できたよ。


 ということは魔王に敵対すると自動的に山田さんも敵になるのか。まったく勝ち目がなくなったよね。後はもう笑うしかない。エクスキャリバーボコボコにされているけど、折れないかな。誰も止めない。止められないけれど。


「太郎、堪忍や。二度と魔王様の悪口は言わへん。神々に誓う。これ以上ボコボコにされると折れてまう」


 ジョージ王子がふらふらと魔王の側に行ったのを見た途端、王子に山田さんは飛び蹴りを入れていた。


「彼女が汚れる! この女性の敵め」


 王子のお陰でエクスキャリバーは折れずにすんだ。


「聖女様、余に癒しを」と叫んでいる。かつて王子だった物体が転がっていた。誰も助けないけど。



 突然、陽射しが私たちの視力を奪った。まったく何も見えない。


「試練のダンジョンを出たぞ」と山田さんが不思議そうに言った。


 まあ、不思議だよね。誰一人欠けることなく全員が出られたのだから。とくに私は勇者ではないのに、聖剣アスカロンが使えたからかなあ。それとこの世界で生きていることだけで、私にとってはとって試練だから、そのあたりもダンジョンが考慮してくれたのかなぁ。


「あれが、魔王城だ」


「山田さん、あれって普通に西洋のお城に見えるんですけど」


「だから城だって言ってるだろう」


「確かに」何だろう期待していた城じゃないんだけれど……。どちらかと言えばテーマパークのお城だ。

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