015 かおる、国王陛下と拝謁する
王都には徒歩で向かった。魔王城に馬では行けないからと山田さんが言ったので。
山田さんが王都に入ると騎士と兵士が出迎えにきていた。皆んなほっとした表情をしている。
「かおる、絶対に国王の目を見るな。アイツはギアス、人の心が支配出来る」と山田さんから注意をされた。
「かおるはワタクシの従者なので、面を上げよと言われても顔を上げてはいけませんよ。逆に無礼になりますから」とラプンツェルからも注意される。このパーティのリーダーは私なんだけどなあ。
◇
謁見の間に通された。
「山田、息災で何よりだ。今回は王国の命運を賭けた討伐になる。ほう、今回はニセ聖女も行くのか? 山田にすべての力を与えよ。命令だ」
「御意のままに」 ラプンツェルが国王のギアスに掛けられた。
「ジョージはまだか? 勇者が行かねば格好がつかぬ。王家の権威も上がらぬ」
「ただ今捜索中でございます。女官と隠れんぼをしてるそうで……」
「ジョージも早く大人になってもらわぬと、予も六十近い」
「最悪、たくさんいる孫の中から優秀なのを選んでも良いが、アレの取り柄は子が多いことだけ……」
ジョージ王子殿下が来られました。
「父上、魔王討伐は山田に任せれば良いではありませんか!」
「王家の権威を上げるためだ。同行せよ」
「父上、絶対に嫌です」
「ジョージに命ずる。魔王討伐に同行せよ」
「国王陛下の御心のままに」
「我が子にギアスを使うのは嫌なものだ」
「皆の者、吉報を待ておる」
「かおる、ワタクシたちは今から魔王に会いに行きます」
私の所持ポイントは三万ポイント弱だ。魔王にお願いしてアイテムを貸して貰えても家に帰れないよ。
「余は行かぬぞ。余は行かぬと言うのになぜ余の体は勝手に動く。父上は私にギアスを使った。私にはギアスを使わないと約束したのに! 父上の嘘つき」とジョージ王子は叫びながら魔王討伐の準備をしている。
◇
ジョージ王子を先頭に私たちは、王都にいるすべての市民、兵士、騎士、貴族までが歓呼の声に包まれて王都を出発した。
「山田、余を守れ、ニセ聖女余を治せ、ニセ聖女の従者、余の代わりに死ね」とか言いながらトボトボとジョージ王子が歩いている。座って休憩をしたいらしいが、体が言うことをきかないので歩いている。
「余の警護隊、余は休憩したいぞ。椅子を持て!」と虚空にジョージ王子が叫んでいる。確かに王都を出てしばらくの間は十人程度、騎士がその姿を隠しながら一緒に来ていたけれど、今はその気配がない。
「王子の警護隊はモンスターに襲われて全滅した」と冷たい声で山田さんが言う。
「警護隊がおらぬのなら余は王都に帰る」と叫んでいる。しかし歩き続ける王子だった。
「ニセ聖女、国王のギアスを解け、イヤ、大聖女ラプンツェル様、ギアスを解いてください!」
ジョージ王子、うるさい。諦めろだ。
◇
三人のモンスター化した人間が私たちが来るのを待っている。明らかに餌を見つけた喜びが伝わってくる。
「山田、余を守れ!」そう言われた山田さんは立ち止まって、近くの岩に腰を掛けて、タバコを取り出した。これは見物する気満々だ。
「これで、かおるが勇者になれるわね。これは不慮の事故だし。私には何も出来ないもの」とラプンツェルが微笑んだ。大聖女にはまったく見えない。
「かおる、ジョージ王子はお前のパーティメンバーだよな」とエクスキャリバーがつぶやいた。
ジョージ王子は剣を抜き、モンスターのいないところに剣を振るっていた。その間にあちこちモンスターに体をかじられては、「大聖女様、癒しを」って叫んでいる。
「かおる、わかるか? あのモンスターのスキルが」
「幻を見せることが出来るみたいですね」
「そうだ。王子は幻と戦っている。まあ、剣筋は悪くない。人間相手ならそこそこの腕前だろうな」
ラプンツェルが癒しを掛けるのをやめた。
「加速」私は三人のモンスターを倒し、街道の傍に葬った。
「かおる、モンスターを葬ってどうする」と山田さんが言う。
「元は農民の方です。元々は人間の方です。モンスターではありません」
「そんな甘いことを言っていると死ぬぞ」
「人の心だけは失いたくありませんから」
ラプンツェルは不機嫌さを隠さずに王子に癒しを掛けていた。
ジョージ王子は自分が食べられかけた恐怖で放心している。確実に今のでPTSDになったと思う。
◇
私は寄せ鍋の用意をした。
「ほー悪くない」と山田さんが言う。
「何をこれ、異世界料理なの! 美味しい。かおるどうして今まで食べさせてくれなかったのよ」
「ラプンツェルの口に合うかどうかわからなかったし……」実際は材料がやっとそろったのが理由なんだけど。
王子は泣きながら食べている。「王宮で女の子と遊びたい」って言いながら。根っから女好きなのがよくわかった。