014 かおる、先代勇者と出会う
北の辺境伯領に到着した。ここには荒地はない。すべてがちゃんとした畑だ。王国と辺境伯領はどうしてこうも違うのだろうか?
「辺境伯領だけが豊かな理由、かおるは知りたい?」
「知りたいです。他の地域も辺境伯領を見習えば、人間がモンスター化することが減ります」
「辺境伯領の秘密は密貿易をしているのよ。王国は原則的に外国との交易は禁止しているの」
「領主が外国の知識をどんどん取り入れて、北の寒冷地でも育つ作物を作ったのが豊かさの源かしら」
「でも最大の理由は、辺境伯領には北の豊かな海の資源があること。海産物を輸出して、外国の技術を買っているのよ」
「人口が増えているのも大きいわね。王国はどんどん人口が減っているから働く人がいない」
「辺境伯領は自治が認められているから、辺境伯領では国王は兵士が徴兵出来ないし、逆に村を捨ててここに逃げ込む農民も多いから。人口が急速に増えているの」
「密貿易って言ったけど、今ではほとんど公認よ。辺境伯からの支援がないと王都だって飢えるのだから」
◇
「地図だとこの辺りに家があるはずなんだけれど」とラプンツェル。
畑と物置き小屋しかない。
「あのお爺さんさんに聞いてみましょう。山田さんの家はどこですかって」
先代勇者さんは山田と言うのか。
「すみません。お爺さん、山田さんのお家はどこでしょうか?」
お爺さんが物置き小屋を指差した。
「相変わらず変わった奴やな。アイツそこそこポイントを貯め込んでいたんや。ワイにはただの一つもプレゼントしよらんかった。アイツはケチや」
「ごめんなさい。エクスキャリバー。私が貧乏なせいで」
「しゃあないやん。最初の所持ポイントが千ポイントやってんから。二万ポイントまでよう頑張って増やしたと思うで」
◇
エクスキャリバーがお爺さんを見て一言言った。
「なあ、太郎お前何してんねん」とエクスキャリバーがお爺さんに尋ねた。
「駄剣、お前も駄剣らしくなったではないか」とお爺さんが答えた。
「こら、しばくぞー! 駄剣、駄剣言うなって何回言うとら覚えるねん。カボチャ頭」
「お取込み中すみません。エクスキャリバー、このお爺さんというかこの男の人を知っているの?」
「本名、山田太郎、年齢は四十八歳、職業、元勇者。あっちの世界では無職」
「駄剣、俺はまだ四十七歳だ」
「このように極めて不愉快な奴だ」
「で、俺に何のようだ。俺は王子に勇者の称号を売ったので、現在の職業は農民。農民の俺に用はないと思うが!」
「すみません、ワタクシ、山田さんとは一度しか会っていなくて、お顔を忘れておりました」
「ワタクシたちは、エリオットの街に魔王領から物資の支援がないので魔王に談判をしようと思いまして、山田さんが一緒なら国王陛下も王子を魔王城までのガイドに出すと思いまして……」
山田さんが遠い目をしている。
「お前ら正気か?」
「ワタクシたちは正気ですけど、山田さん」
「エリオットの祖先は魔王の内通者ということを公表するつもりか。エリオットの街は奴隷を魔王に献上した上に王国内の機密情報を流した見返りに魔王領から食糧を調達していたことを知った上で談判に行くのか! エリオットの首が飛ぶだけではすまないぞ」
エリオットさんて魔王のスパイなの!
「魔王から食糧支援がなければ辺境伯領を除いて王国は滅びます。ワタクシとしては王家直轄地はすべて魔王に寄進したいと思っておりますの」
「ワタクシとしては国王の首も王子の首も飛んでしまえと思っておりますのよ。山田さん」
「お前ら、聖女が壊れたみたいだぞ」
◇
「おじちゃん、大変だ! 父ちゃんたちが王都に行くことになった。また王子様が魔王城を攻めるって。お父ちゃんが召集された」
「とうとう、伯爵様も断り切れずに兵士三百人を王都に派遣することになったって。くじ引きで父ちゃんが当たった。どうしたら良いの。父ちゃん、俺は二度と帰って来れないからって、母ちゃんに再婚しろって言ってるよ……」
子どもたちが大泣きしている。
「心配するな、俺が伯爵様に話をしてくる。絶対にお前らの父ちゃんたちを王都になど行かせない。安心しろ」
「聖女、お前らも一緒に来い。その方が話が早い。ただし、聖女お前は喋るな」
◇
「ねえ、ラプンツェル国王は何を考えているのかしら?」
「国王陛下は華々しく散ることを選んだみたいね。王国の総力を上げて魔王を討伐しに行って滅ぶのよ」
最悪の選択だと思う。
辺境伯オット伯爵の屋敷に、山田さんは案内も請わずに入っていった。
「オット伯爵、なぜご自分の領民を王家に差し出すのか! あの国王はイカれている。全員死ぬぞ」
「山田、うちの領には人が多すぎる。尊い犠牲が必要なのだ」
「ふざけるな! 俺が行く。コイツらとな。伯爵」
「大聖女様!」
ラプンツェルは喋るなと言われているのでニッコリ微笑むだけ。その方が大聖女らしい。
「山田が出陣する。王子以外の兵士、騎士は足手まといゆえ不要と国王に伝えてくれ」
「山田……、お前身代わりになるのか。すまない。無力な領主で」
「魔王討伐軍がまずは北の辺境伯領に攻め込むと、脅されたのは領民なら誰でも知っている」
「無能な国王は俺が始末する」
「それはイカン。あれは神々の代理人だ。神々の怒りがお前にむく」
「心配するな、前の世界でも俺は神々に嫌われていた。この世界にこれて心から感謝している」
「俺は幸せだった」
「すまん。山田……」伯爵が人目もはばからず涙を流していた。
「俺の剣」
伯爵が隠し金庫からミスリルとオリハルコンの剣を山田さんに渡した。
「オリハルコンの剣は私だと思って使ってくれ」
「ありがとう、過労死するくらい使い倒してやるよ」
「太郎が人間になっている」とエクスキャリバーがつぶやいた。
私はフラグ立てまくりの山田さんと一緒に行くのがとっても怖い。




