013 かおる、ドラゴンに目をつけられる
私の体が勝手に動いてドラゴンの鱗は一枚で良いのにすでに五枚も削った。爪も切ってあげた。もう私の仕事は終わりなのでは?
「魔女がアスカロンのレプリカを抜いたら、最後の仕上げでございます」
ゴーストさんは楽しそうだが、私はけっこう無理な体勢でアスカロンをふるっているので、今晩は間違いなく筋肉痛だと思う。
「トウ」と気合いを入れてドラゴンの逆鱗をアスカロンでぶっ叩いた。次の瞬間魔女に向かって飛び出した。で、
魔女を飛び越え地面に伏せた。ドラゴンが怒りの目でこちらを見ているのを感じる。これって魔女とドラゴンの両方からやられるのではって思ったら、魔女が脱兎のごとく逃げ出した。その後をドラゴンが追う。
「かおる様、作戦成功です。魔女はドラゴンにロックオンされました」
「あの魔女はもう二度とドラゴンを探さなくても、ドラゴンの方から出向いて来るようになりました。めでたい事ですね」
「ドラゴンの鱗を削ったのもドラゴンの爪を切ったのもドラゴンの逆鱗をアスカロンで叩いたのもすべてあの魔女がやったことになりました」
「あのうですね。ファブルというドラゴンがすべてを見ていたと思うのですが……」
「ファブルはそうした些事にはこだわりませんから。まあ、自分をほったらかして魔女を追いかけていったお世話係が戻ってくればお灸はすえるでしょうけど」
「この後はどうするのですか?」
「私たちは撤退します。鱗とか爪とかは魔族が戦利品にするでしょう。かおる様お疲れ様でした」
「ゴーストさん、ファブルというドラゴンが私を見つめているのですけど……」
「……」
ゴーストさんはその後しばらく話さなくなった。魔女に仕返しすることだけを考えていたので、ファブルについては想定外だったようだ。
私たちは、エリオットさんが待つ街に戻った。
◇
「エリオット、アルバの街のて報告です。よくお聞きくださいませ」
ラプンツェルがエリオットさんにアルバでの出来事を報告している。
「エリオット、ワタクシたちが頑張ったのでアルバの街はすぐに復興するから心配しないでくださいませね」
エリオットさんの表情は暗い。
「アルバが復興するまで物資が届かないのか……、最短でも完全に復興するまでは十年は掛かるだろうな」
「ワタクシね、魔王にですね。補償してもらってはどうかと考えておりますの!」
私もエリオットさんもフリーズした。どう考えたらそういう結論になるのか理解出来ない。
「だって、この街に魔王領から物資が届くのは先代魔王との契約でしょう」
「ラプンツェル様、そうは言っても五百年前の契約ですから……、よく魔王側が今まで約束を守ってくれたと私は感謝しているわけです」
「エリオット、人間を魔族に差し出しての物資援助に感謝ですか? 信じられませんわ」
「……」
「今年の生け贄は送り出したのでしょう?」
「はい……」
「少なくとも魔王は今年は支援しないといけないとは思わない!」
「ラプンツェル様、魔王に直接談判とか無謀でございます」
「北の辺境伯に支援をお願いしますか?」
「あちらもその余裕はないかと思います」
「では、私が召喚したかおると一緒に魔王城に」
「かおるは勇者ではないので、魔王城へは行けません」
「だったら女の子のお尻を追いかけ回している王子をガイドとして同行させましょう。道中、モンスターに襲われることもあるでしょうから。王子の不慮の事故死でかおるが勇者になるのよ」
「国王陛下が絶対に許しません。ラプンツェル様」
「そうね。先代勇者が同行するなら国王陛下もお許しくださると思うわ。何しろ一人で魔王城に乗り込んで暴れて回って生きて帰って来たただ一人の勇者ですもの」
「エリオット、あなたなら先代勇者の居所は知っているわよね」
「存知ておりますが。一緒に魔王城に行かれるとはとても思えません」
◇
「相棒、なんか私、魔王城に行くこと前提で話が進んでいるのだけど、大丈夫かしら?」
「先代の勇者はパーティを組むのが嫌いやから。召喚の間で、俺が喋るのをうるさがって、布でグルグル巻きにして王宮に置いて行こうとした奴や。ワイは全力で奴に着いて行ったがな。集団行動は絶対無理。でもって王子も行くはずはないから、千五百の騎士と兵士を従えて、王宮に戻って来れた者はわずか十五名や。アイツは二度と魔王城には行かん」
「エリオット、先代勇者の居所を教えなさい」
「北の辺境伯領におられます。少々お待ちください。地図を描きますので」
こうして私たちは先代勇者に会いに北の辺境伯に領に行くことになった。
「ラプンツェル、何か策はあるの?」
「ないわよ。私、あの人のこと知らないから。召喚の間に現れたら重いっと言って鎧も兜も脱いで、エクスキャリバー様を布でグルグル巻きにして、一人で魔王城に行っちゃったから」
「奴は神々に愛されし勇者だったから、奴には聖剣も鎧も兜も必要がなかった。奴の能力はチート中のチートや」
「先代勇者の能力って何なの?」
「かおる、奴と戦えば嫌でもわかる。あれは人外や」