012 かおる、龍殺しの剣アスカロンを探す
私たちはアルバから離れた岩山に来ている。龍殺しの剣を探しにだ。
「ねえ、ラプンツェル、この山にアスカロンがあるんですよね?」
「さあ、ゴーストさんはあるって言っているのですけど」
草一本、木一本生えていないただの岩山で、剣があるとしたら岩の下以外考えられない。私に岩をどけて探せと言われたら、断る。どう見てもまるまる一つの岩が山になっているのだから、私に削岩機を貸してくださいと言いたい。
「剣の形をした岩を発見」とラプンツェルが誇らしく宣言をした。
確かに剣の形をした岩だ。どこから見てもこれは岩であって剣ではない。
「魔女が持っているのはこれのレプリカだ」とタヌキの人形が喋った。
「かおる様、私に一万ポイントをください。お礼に聖剣アスカロンを進呈いたします」
一万ポイントでちゃんとした聖剣が手に入るのか。これは良い取引きだと思う。
「承知しました」と言うとマイナーカードから一万ポイントが消えた。百日分のお給料が消えた。
「ラプンツェル様、私をアスカロンにかけてください」ラプンツェルは言われた通り剣の形をした岩にタヌキの人形のネックレスをかけた。
暇だ。一時間が経ったが何も起こらない。そろそろ野営の準備をして皮袋から夕食の材料を取りださないと。さて、今日はナンとカレーにしようと考えて用意を始めた。
大聖女ラプンツェルは神々にずっと祈っている。その姿は大聖女らしいと初めて思った。
ドゴンと鈍い音がした。見た目剣の形をした岩から錆だらけの剣に姿が変わった。ラプンツェルがアスカロンをあっさり岩山から抜いて、アスカロンを抱えたまま賛美歌を歌い始めた。
私は野営の準備をしつつナンを焼いて、カレーを作っている。ラプンツェルは歌い続ける。アスカロンの錆が落ちて鈍い光を剣は放ち始めた。
「かおる様、アスカロンの鞘が必要です。申し訳ありませんが、エクスキャリバー様の鞘をお貸しください」
「相棒、あんたの鞘が必要だそうだどうする?」
「ワイは鉄製のロングソードや、聖剣用の鞘は不要や持ってけ泥棒!」と不貞腐れたエクスキャリバーが叫んだ。
◇
「ゴーストさん、アスカロンは手に入れたけれどそれでどうなるの?」
「私、絶対ドラゴンに勝てないから」
「かおる様には魔女の邪魔をして頂くのが私の目的です。魔女は必ずドラゴンの逆鱗にアスカロンのレプリカを刺してその血を得ようとします」
「ゴーストさん、なぜ魔女はドラゴンの血を欲しがるの?」
「ドラゴンの血を契約している悪魔に捧げれば、以後代償なしに魔法が使えます。その他ドラゴンの血を一滴入れるだけで魔法薬の効き目が格段に上がりますから」
「ドラゴンとかおる様が対峙される時は私はかおる様と同期しますので、私の指示に従ってくださいね。失敗すると間違いなくドラゴンか魔女に殺されますのでご注意ください」
街の調査が命懸けのミッションに変わってしまった。
「かおる様のすることは、ドラゴンの鱗を一枚削るまたはドラゴンの爪を切って、その後アスカロンでドラゴンの逆鱗をぶっ叩くです。それ以上のことをする必要はございませんから」
それってドラゴンに接近しないと無理なんでは!
◇
私たちはアルバの街近くに戻ってきた。街には得物武器を持った魔族が集まって来ている。ドラゴンに勝てないまでも、一撃を入れることが出来れば、魔族の世界では英雄と呼ばれるらしい。ちなみに現魔王に一撃を与えた魔族は一人もいない。現魔王はどれほど強いのかだ。私はその魔王と戦って勝たないと家に帰れない。落ち込むわーー。
魔族の軍団がドラゴン討伐に向けて出陣をした。この軍団が王国に向かったら絶対人間は負けると思う。
ドラゴンが二匹、渓谷で寛いでいた。
「ファブルか? なぜ彼がアルバの街を襲ったのだろう?」
「ゴーストさん、あのですね、お知り合いのドラゴンですか?」
「ファブルは孤高のドラゴンとして有名ですし、知恵ある龍というのはファブルのことです。赤龍や黒龍のようなバトルジャンキーではないのですが。もう一匹はファブルの世話係です」
「かおる様、そろそろ私と同期する気持ちになってください。私の見ているものが見えるようになります。少々気持ち悪いかと思いますが、しばしご辛抱ください」
私はゴーストさんと同期した。何これ、視野がズームするんですけど。ドラゴンってその存在自体がド迫力だ。ビビって体が動かないよ。
魔族がドラゴンに攻撃を仕掛けた。お世話係のドラゴンが前に出て蹴散らしている。魔族が岩山に激突しているけど、すぐに攻撃体制に入っている魔族ってタフだわ。
魔女が見えた。なんか心拍数が上がったみたい。
「魔女よ泣き面になるが良い。かおる様では参りましょうか」
私の体が勝手に動いてますけど。これってゴーストさんに体を乗っ取られたわけですか?
超、超、超加速して気付けばお世話係のドラゴンの背中に私は乗っていた。ポイントは大丈夫だろうか?




