010 かおる、一旦本拠地に戻る
ゴーストさんは、本当か嘘かは不明だけれど、ダンジョンの地理に詳しいそうだ。今の私では対処が難しいモンスターを避けて、宝箱のあるとこへ案内してくれているので、楽に稼がせてもらっている。半分は悪魔なのでどんでん返しがあるかもなのだが……。
ゴーストさんとは、毎回選別の門でお別れしている。ゴーストさんは選別の門の外には出られない。毎回寂しいと言っては強力な魔法で私たちの足を動かなくしたり、掃除機に吸い込むように私たちを吸引して前に進めないとか、色々される。そのたびにラプンツェルに叱られて、止めるのだけど、なかなか私たちを門から出してくれない。そのたびに地獄に引き込まれるような感覚になってしまい怖い思いをしている。
「かおる、私のために木彫りの人形を用意してください。その人形に私の一部を入れます。そうすれば野営地にも一緒に行けますから、寂しくありません」
「かおる、木彫りの人形はワタクシが作ります。呪いの人形になってはいけませんから」とラプンツェルが人形を用意することになった。
「でも、かおるにお願いがあります。かおるが住んでいる大樹の枝を持ってきてください。それを人形の素材にします」
「神樹に封じないと悪霊は選別の門から出られないもんなあ」
「あのうですね。エクスキャリバーさん、ゴーストさんって悪霊何ですか?」
「何か問題でも?」エクスキャリバーとラプンツェルがハモった。
「良いです。何も問題ありませんから」
私は王都で、預かってもらっていた馬を兵士長さんから返してもらい、お礼に宝箱から出てきた銀製の短剣をプレゼントをしたらとても喜んでもらえた。
◇
街道を行き来する人たちのほとんどが探索者を警備に雇った商人のキャラバン隊だけだ。時折、私はモンスター化した人間の襲撃を受けながら街に戻り、西門の兵士長さんに馬を返した。
「かおる、戻って来て早々すまないが代官様がお前を呼んでいる。代官屋敷まで行ってくれ」
「厄介ごとですか?」
「さあ、俺は聞いていない」と西門の兵士長さんは目を逸らした。絶対に厄介ごとだよね。
◇
代官屋敷の客間に通された。おかしい。探索者風情が客間ってあり得ない。玄関先で立ち話または命令されるのが普通だから。私は平民で代官は貴族。国王の代理人が代官なのだから。
「君が、旅の剣士で平民なのになぜか魔法が使える剣士なのか?」
「かなり制限がついていますが、少し魔法が使えます」
「君はこの王国の建国神話を知っているかね?」
「いえ、まったく存じません」突然何を話し出すんだこの人は。
「王家の始祖は森に捨てられていた赤児で狼がその子を育てて、知恵のある龍がその子に知識を与えた」
どこかで聞いた覚えがある。あの兵士、王国の始祖伝説を丸パクリしたんだ。これは絶対ダメだわ。不敬だもの。
「私も君の更新前のマイナーカードの記録を確認したら、生まれは森の中となっていた。狼に育てられたはずはないと思うので、本当のことを聞きたい」
「私、ラプンツェル様に召喚され、魔王の妨害にあって森に飛ばされました」
「君はラプンツェル様に会ったのかね?」
「はい、今は同じパーティメンバーです」
「そうか、私はサー・エリオット・トーマス・ネスだ。君は」
「私は大石かおるです」
「君と君のパーティに任務を与える。魔王領に潜入して、アルバの街がどうなっているのか調査してほしい。これがアルバに行くための地図だ。アルバからこの街に物資が届かなくなってきている。このままだと三カ月で備蓄食糧がなくなる」
「報酬は成功報酬にはなるが十万ポイントだ」
「移動に馬が必要だと思う、ラプンツェルと君とで馬二頭で良いかね」
「はい、それで良いかと思います。それでアルバの街を調査をするだけで良いのでしょか?」
「調査するだけで良い。身を守る必要があればその時は必要な行動を取るのは許可する。後は私に任せなさい」
「ありがとうございます。ラプンツェル様を連れてアルバの街に潜入調査をして来ます」
「かおる、あまり時間がない。よろしく頼む」
「承知しました」
◇
私は神樹から枝を数本頂いて、ラプンツェルが待つ野営地に戻った。
「ラプンツェル、エリオットという代官からの依頼で、アルバという街に行って街の調査をすることになったの」
「エリオットは元気だった? 彼、真面目過ぎるから」
「まあ、元気だったと思うけど……」
「そう、じゃあ急いで神樹で像を作らないと置いていくとゴーストさんがいじけるから」と言うと神樹の枝を器用に組み合わせて人形をラプンツェルは作った。背中の部分を少しくり抜いて、カバーができるように細工までしていた。
人形の顔は雰囲気的にはタヌキに見える。
ダンジョンに潜ってゴーストさんと落ち合う。
「ゴーストさん、人形ですわ。どうかしら?」
「さすがは神樹で作られた人形ですね。神の息吹が半端じゃないですね。まあここから出るためには多少の我慢も必要ですよね。はーーツラい」と言いつつ人形の背中のカバーを外して骨? を中に入れた。
人形にとくに変化はなかった。
「ゴーストさん、しばらく私たちはアルバの街に行ってしばらく戻って来ませんから」
「かおる様、アルバですか? 魔族の街ですな。魔族の街に人間が入るのはちと危険だと思いますよ。人間が寄進した街は魔王直轄地ですから大丈夫ですが、アルバのような古い街は魔王の布告も無視されます。人間は奴隷または非常食というのが魔族の人間に対する基本認識ですからね」
「そうなんですか……」気軽に引き受けたけれど大変そうな任務みたい。