8 ゲオグラムの詰問③
まずは、現状のすり合わせだ。
「両殿下の側近達は、お互いに警戒し合ってますよね?」
「当たり前だ。特に手紙の封筒など、何が仕込まれているか分かったものではない。最悪、毒殺もあり得る」
暗殺を警戒してるの!?シュヴァルツとヴァイスの仲は思ったより冷え込んだものかもしれない。
ゲームで見たから知ってるけど、シュヴァルツとヴァイスって生まれた時から、いえ、生まれる前から対立することが決まっていた。二人は母親の違う異母兄弟なのだ。第一妃の子どもがシュヴァルツ、第二妃の子どもがヴァイスだ。
通常、第一妃の子どもであるシュヴァルツの方が王位継承権が上だ。しかし、そうはならなかった。二人の王位継承権は同率として扱われている。これには理由がある。第一妃は10年以上子どもに恵まれなかったのだ。第一妃は子どもを産めない女と蔑まれ、王は第二妃を迎えることになる。第二妃を側室として迎えるわけじゃない。次代の王を生む、国母に相応しい高位貴族の女性を妻として迎え入れたのだ。第二妃はすぐに懐妊した。だが、その後を追うように、第一妃も懐妊したのだ。やがて、第二妃はヴァイスを出産し、第一妃はシュヴァルツを出産する。
人々は次代の王の誕生に喜んだが、同時に混乱した。果たして、どちらが王位を継承するべきなのか分からなかったのだ。慣例に従えば、第一妃の子であるシュヴァルツが継承するべきだが、ヴァイスの方が早く生まれている。第二妃も国母に相応しい女性であり、甲乙付け難い。
混乱はすぐに争いになった。第一妃の実家と第二妃の実家が中心になり、次代の王の外威をめぐる争いになったのだ。
今では、アルルトゥーヤ帝国に対する政策なども絡んできて、国を二分する争いになってしまった。
何の話してるんだっけ?シュヴァルツとヴァイスの生まれを回想してたらボーッとしてしまった。
「貴族院の中では、連れている側近の数は少ないが、それでも手紙や贈り物の類には警戒する。手紙を送ったところで、側近に止められるのが落ちだ。ヴァイス殿下に読んで頂けるとは思えない」
そうだ。手紙の話だ。しかし、主に届いた手紙を勝手に処分しちゃうとか、側近ありえなくない?
「側近が予め目を通し、要約したものを殿下にお伝えするのだ」
なるほど。でも要約した文章じゃ、心に届かないよね。やっぱり、ヴァイスに直接手紙を届けないと。
「ヴァイス殿下に直接手紙をお渡しすることはできます」
「なにっ!?いったいどうやって!?」
「ベグウィグに運んでもらうのです」
「…は?」
ゲオグラムがキョトンとした顔をする。なんだかあどけなくて、年齢相応の表情で可愛らしい。ほっこりしてしまう。けれど、ゲオグラムの顔はすぐに呆れたものへと変わってしまった。
「鳥に何を期待してるんだ?そんなことできるわけないだろ」
「ベグウィグならできます。あの子は賢いです」
「ふむ…」
ゲオグラムが腕を組んで考え込む。
「やって損はありません。やるべきです」
「たしかに、やって損はないか…一応進言してみよう」
ん?進言ってシュヴァルツに伝えるってこと?それはダメだ。シュヴァルツに言ったらすぐに試すだろう。それではイベントの起こる時期がズレてしまう。ゲオグラムとこんな話をしている時点でゲームのシナリオから外れてしまったのだ。これ以上シナリオから外れるようなことはしない方が良い。最悪、王子達の仲直りイベントが無くなってしまう。
「お待ちください。まだその“時”ではありません。殿下にはお伝えしないでください」
「時期を待つということか?」
「はい」
「その時期はいつ訪れる?」
手紙イベントっていつ起こるんだろ?ゲーム中盤辺りだったから、そろそろのはずだけど…。
「もうそろそろのはずです。その…時期を見る為にシュヴァルツ殿下の御傍に居たいのですが…」
「それが目的か」
ゲオグラムの目が厳しくなる。どうやら私はまだ警戒されているらしい。だが、フッとゲオグラムの表情が和らいだ。
「良いだろう。ただし、私が居る時に限るがな」
やった。
「ありがとうございます!」
ゲオグラムはいつもシュヴァルツと一緒に居るからね。これは実質いつでも会いに来て良いということだ!接触禁止命令を出された時はどうなることかと思ったけど、これはどうになったんじゃない?
でも、おかげでストーリーには無いことまでゲオグラムに話してしまった。王子達の和解イベントに影響がでないと良いんだけど…。