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 そして、いよいよシュヴァルツとの面会当日。私は初めて王城に来ていた。


「大きい…!」


 大きくて立派な城門を抜けると、とても広い庭園が姿を現した。私の家何個分よってくらい広い。そして美しい。庭園の木々や草花はよく手入れされて、綺麗に整えられている。庭園の中には池や小川もあり、水面がキラキラと輝いていた。


 窓から見える庭園の姿に見惚れていると、お城が近づいてきた。


「いいかいマリー。よく気を付けるんだよ?何かあったらすぐに大声で助けを呼ぶんだ」


「くれぐれも軽率なマネはしないようにしなさいね」


 お城に到着し、馬車を降りる直前、お父様とお母様が私に心配そうに声をかける。今日呼ばれたのは私一人なのだけど、二人は私を心配して付き添いで来てくれたのだ。


 広くて立派な玄関を抜けて、豪華な客間へと通される。両親とはここでお別れだ。二人は別室で待ってもらうことになる。二人はあくまで付き添いだ。


「はぁ…」


 客間でシュヴァルツを待つ間、ため息が出てしまう。シュヴァルツの話が、私との婚約の話ではないと分かったからだ。


 婚約のような家の大事は、家の当主間で話し合われるのが普通だ。シュヴァルツが私との婚約の話をするのなら、私ではなく、まずはお父様に話がいくはずだ。お父様が来ているのに私だけ別室に呼ばれるということは、シュヴァルツは私に話があるということだろう。


 シュヴァルツの話って何だろう?シュヴァルツに会えるのは嬉しいけど、話の内容が分からなくて怖い。嫌な想像ばかりが頭を過る。まさか、本当に別れ話を切り出されるのだろうか…?シュヴァルツに婚約の申し出が殺到している事といい、今回の面会のタイミングといい、無関係とは思えなくて嫌な想像ばかりが膨らんでいく。


 シュヴァルツでも断れないくらいの縁談がきて、それで私との関係を終わらせる為に私を呼び出した……。


「あの、マリアベル様?」


 急に声を掛けられてビックリする。見れば、メイドさんがいつの間にか近くに来ていた。考え事をしていて気が付かなかったようだ。


 メイドさんが、シュヴァルツの到着を教えてくれた。入室の許可を求めているらしい。少し迷ったけど、すぐに許可を出した。シュヴァルツの話を聞くのは怖い。でも、たとえどんな話だろうと、私はシュヴァルツに会いたかった。


 ドアが開いてシュヴァルツが入って来る。間近で改めて見たシュヴァルツは大きかった。背が大分伸びたようだ。この前見た時は鎧を着ていたので、がっしりとした印象だったけど、今はすらりとした印象だ。顔もやっぱり大人っぽくなっている。幼さや丸みが消え、端正な顔だ。整った眉の下にある黒い瞳は、まるで本物の黒曜石の様に鋭い輝きを放ち、私を映した。


 その瞬間、シュヴァルツの双眸が緩められ、その瞳は優し気な色を帯びる。


「楽にして良いぞ。面倒な挨拶も無しだ」


 相変わらずなシュヴァルツの態度に笑みが零れる。シュヴァルツは挨拶や礼儀作法を省略することが多い。公式な場ではきちんと礼儀に沿って行動できるので、苦手というわけではないのだろうけど、たぶん本人の言うように面倒なのだ。


 シュヴァルツに勧められてソファーに座る。対面にはシュヴァルツが腰を下ろした。


「久しぶりだな、マリアベル」


「お久しぶりです、シュヴァルツ殿下」


 本当に久しぶりだ。貴族院を卒業して、シュヴァルツと会えなくなって、もう三年を超えて四年に近い。その間、手紙でやり取りはしていたけど、遠くから姿を見ることはあったけど、こうして直接会って話す機会なんて無かった。寂しさだけが積もる日々だった。


 暫し沈黙が続く。本当は話したい事がたくさんあったのに、シュヴァルツに会えたことが嬉しくて、胸がいっぱいになってうまく言葉が出てこない。シュヴァルツと見つめ合ったまま時が流れていく。


「マリアベル、君に話があるんだ」


 沈黙を破ったのはシュヴァルツだった。シュヴァルツの話…。私はシュヴァルツの話を聞くのが怖い。耳を塞いでしまいたい。嫌な予感がする。まさか本当に別れ話を…。


「オレと結婚してくれないか?」





 え…?


「今、なんと…?」


 私は信じられなくて問い返してしまう。


「聞こえなかったか?オレと結婚して欲しい」


「嘘…。婚約の話ならお父様にするはずで…。王様の許可も必要で…」


 私達の結婚には様々な障害があったはずだ。家格の違い、私と結婚することでのメリットが無い事、それによって私達の婚約は、王様の許可が下りなかった。貴族の結婚って政治だ。結婚相手を決めるのは家長の仕事である。いくら本人たちが望んでいても、家長の許可が無ければ結婚できない。


「嘘ではない。王の許可は取り付けた。オレ達を阻むものは、もう何もない」


 信じられない。嘘みたいだ。でも、シュヴァルツがこんな詰まらない嘘を吐くわけがない。じゃあ、まさか本当に…?


 夢みたいだ。まさかシュヴァルツと結ばれる事を許される日が来るなんて。私はもう無理かもしれないと諦めかけていた。だって4年間もまったく進展がなかったのだ。私達の恋が祝福される事は無いと半ば諦めていた。


 やる事為す事、全然うまくいかなかった。失敗する度にシュヴァルツが遠退くようで、不安ばかりが積もる長く辛い日々だった。


 今日だってシュヴァルツから別れ話を切り出されるんじゃないかと不安だったのだ。それがまさか、シュヴァルツとの婚約を許されるなんて……。


「な!?涙!?まさか、嫌だったか…?」


 私はいつの間にか涙を流していた。シュヴァルツが不安そうに見つめてくる。シュヴァルツの不安そうな顔なんて初めて見た。眉が下がり、ちょっとかわいらしい顔だ。そんな顔もできるんだ。


「ちが、違います。うれ、嬉しくて……」


「嬉しくて泣くのか?相変わらず面白い奴だな」


 シュヴァルツが立ち上がって、私の隣に腰を下ろす。そして、そっと私の肩を抱いた。シュヴァルツの逞しい胸板に顔を埋める。シュヴァルツの心音がトクントクンと聞こえてきた。ちょっと速いかも?シュヴァルツは平然としているように見えたけど、実は緊張しているのかもしれない。そんなシュヴァルツを愛おしく感じてしまう。


「待たせて悪かった。婚約の申し出、受けてくれるか?」


「はい…!」


 私はそう答えると、シュヴァルツを抱きしめた。

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