疑惑
「それは、貴方です。」
どくん、、
その言葉に心臓が高鳴った。
少女は、じっとこちらを見ている。
リオウ「お、俺は、あんたの兄じゃない」
と、思わず否定してしまった。
ドキドキドキドキ
心臓が高鳴る
少女「ならば、どうしてここまで私を助けてくれるのですか?」
少女はじっとこちらを見つめる。
先程までの気の抜けた雰囲気は無く、何か確信めいたものがあるのか、言葉に芯を感じる。
リオウ「別に、理由は無い。なんとなくだ。気の迷いだ。」
何故か、少女の顔を見れず、あさっての方を向いて弁解をする。
少女「、、、、、、」
少女は俺のあたふたした弁解を
聞いて、ニコッと笑い
少女「私も、なんとなく、貴方のそばにいて安心しています。」
なんて気恥ずかしくなるセリフを臆面もせず言い放った。
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辺りはすっかり夜になっている。
ついさっきまでこちらの方が立場が上のごとく少女に対して上から目線で話をしていた。
しかし今はどうにも形勢逆転、この少女は自信満々、物怖じせず。対して俺の方はしどろもどろになっていた。
リオウ「あ、兄を見つけてどうするんだ?」
何とか体制を立て直すため話題を微妙に変える
その言葉に少女は目をパチクリさせ、
そしてジト目。
疑念にしっかりと答えず話題を逸らすという行動に少女は「それって大人としてどーなんですか?」とでも言いたげだ。
無論そんな事は百も承知。
だから、少女の顔を見れず、あさっての方を向いているのだ。
少し沈黙が続く。
そして
少女「分かりません」
少女は話題を戻すではなく、俺に合わせる選択をした。
、、、自分の話したい事ではなく、相手に話を合わせる。、、、王者の余裕を感じる。
少女「まずは、ただ、会いたいと。それだけです。」
少女「その後の事は考えていませんでした。」
彼女は俺の質問にしっかりと答えてくれた。
リオウ「、、、、、、、、」
、、、俺も彼女の質問に答えるべきだろう。
少し目をつぶって考える。
、、、確かに、この街に俺は捨てられた。そしてそれ以前の記憶は無い。
俺の名前は育ての親がつけてくれたもの。
俺が彼女の兄貴である可能性が無いわけではない。
そしてあの悪寒、俺の不可解な行動。
そう考えると辻褄が合ってしまう。
否定できる要素は少女の兄と俺の年齢が違うだけ、、、、。そこだけだ。
少女「いつもお兄ちゃんと遊んでいました。」
少女は話を続ける。
少女「私、記憶力良いんです。」
と、ニコッと笑い
少女「でも、いつからか、お兄ちゃん、いなくなってしまって」
次の瞬間には悲しい顔をする。
少女「悲しかった。何処にもいなかった」
表情の変化に魅入ってしまったのか、いつの間にか少女の表情をじっと見ていた。
少女「でも、最近知ったんです。この街にいるって。」
少女「それでなりふり構わず」
少女「失礼ですが、貴方のご両親は?」
油断していたところに質問が飛んできて豆鉄砲を食らってしまった。
少女の大きな瞳が俺を捕らえる。
目が合っている事で心臓の高鳴りが止まらない。
リオウ「、、親は、死んだ」
目を逸らし、簡潔に答える。
(育ての親、だがな)
、、、大事な所は言わなかった。
その言葉を聞いて、少女は少し思考を巡らしたあと
ニコッと微笑み
少女「私、帰ります。」
と、別れの挨拶を告げた。
リオウ「、、、、、、、、」
それは、ホッとしたような残念なような、不思議な気持ち
少女「送って、貰えますか?」
、、、少女は断られないのが分かっているのだろう。
そのまま返事を待たずして歩き出した。
リオウ「、、あ、ああ。」
対して俺も断るつもりは無かった。
少女の後を追う様に歩き出す。
その二人で夜道を歩いているその時間がたまらなく心地良かった。
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、、、、少女を自宅まで送った後、自室に戻ってきた。
その日の疲れが出たのかそのままベッドに倒れこむ。
少女の家はこの国有数の貴族の館だった。
リオウ「あいつ、めちゃめちゃ良いところの令嬢だったんだな」
それは何となく予想ついていた。
世間知らずな感じ、テーブルマナー、意志の強さ、佇まい、服装、などなど。
だから別段驚きはしなかった。
ごそごそ
ポケットの中から何かを取り出す。
それは青と白と灰色を含む不思議と透明感のある石。
大きさは3㎝×5㎝くらい。手の平に収まる感じの丸みを帯びた長方形。
リオウ「ふむ、ブルーダイヤモンドを少し含んでいるが、、、価値は無いな。」
リオウ「いたって只の石だな」
その只の石を眺める。くるくる回して前後左右、隅から隅まで。色んな角度で。
まるでそれが新しく買ってもらったオモチャの様に。
リオウ「なんで、これを俺に渡したんだろうな」
と、俺は先程、この石を渡された時の事を思い出していた、、、、、
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夜道を二人で歩き、ある屋敷の前までやったきた。
ここで、お別れだ。
リオウ「結構な豪邸に住んでるんだな」
、、、名残惜しいのか、つい、話しかけてしまった。
少女「ふふ、そうですね。でもこれでいつでも来れますね」
さらりと少女は言う
リオウ「、、、さあな」
流しても良かったのだが何か、皮肉めいた事を言いたくなる。
リオウ「ま、来るとしたらこの館の宝を盗みに忍び込む時くらいかな」
少女「あら、盗みは悪い事ですよ?」
リオウ「知らなかったのか?俺は悪人だぜ」
それは本当の事だ。
盗みはやっていないが、俺の手は汚れてしまっている
その言葉には貴方と僕は住む世界が違いますよ、という意味も含まれていた。
ここで別れたが最後、もう二度と会う事は無いだろう。
二度と。
じゃ、さよなら、ときびすを返そうとしたところで
少女「あの、これを、受け取って貰えますか?」
と、少女によびとめられた。
少女がポケットからあるものを取り出し、リオウに差し出している。
リオウ「あんだ?これ」
それを自然と受け取り、見る。
石、だった。
少女「ふふ、実は私が子供の頃、兄の宝箱の中から盗んだんです。覚えていませんか?」
少女はイタズラを告白するかの様に悪びれて言う。
リオウ「、、、覚えているも何も、俺は兄じゃない」
そんな事は実際記憶に無い。
少女「、、、、、、、、」
少女「それは只の石なんですけど、、」
少女「凄く綺麗で、もっとよく見たくて、兄の宝箱からくすねたんです。
、、あの、本当は直ぐ返すつもりだったんです、、、けど、、、、」
少女「兄さん、凄く怒っちゃってて、怖くて返せなくて、、」
少女「なんかタイミング逃すと返せないんですよね」
少女「でも、やっと返せました」
ニコッ、と
少女は晴れ晴れとした笑顔になる
リオウ「だから、俺はアンタの兄さんじゃない。」
横を向いて答える
その笑顔は眩しくて、とても正面から見ることは出来ない。
少女「構いません!」
リオウ「良いのかい?思い出の品を俺に渡して。こんな価値の無いもの道端に直ぐに捨てちまうぜ。」
少女「、、、そんな事するんですか?」
リオウ「ああ、価値が無いからな」
少女「その時は、私、怒ります。」
少女「でも構いません。好きにして下さい。
リオウ「なんで、俺に?」
少女「、、さあ、なんとなく、です。」
にこっと笑う
少女「ああ。でも、貴方が自分の事を悪人と言ったので、私と同じだ!って思ったから、かな」
リオウ「、、悪人のレベルが違うな」
少女「そうですか?同じですよ」
貴方と私は同じですよ、と少女は言ったのだ。
その言葉は、どこか俺の心の奥深くで響いていた、、、、、、
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自室、、、
コンコン
ドアをノックする音がする
いつの間にか、寝てしまっていたようだ。
コンコン
、、、仕事の依頼だ
リオウ「ああ、分かった、今行く」
ベッドから起き上がり、寝起きの頭を振るう。
、、、俺の手は汚れている。
あの少女と関わる事は二度と無いだろう。
ガチャ
部屋を出る。
ポケットには石が入っていた。
そこらの道端に落ちているのと変わらない石。
なんでもない石が、、、、、。