スラム街の少年
サウスウインド王国。
戦争が無く、豊かな大地、水、森、に囲ませたこの国は、まさに「平和な国」と呼ぶに相応しかった。
だが、そんな豊かな国にも裏の顔があった。
、、、スラム街。
元々は国のゴミ捨て場だった。
しかしいつからか、街に溶け込めない者、はじき出された者、行き場の無い者、、、そういった者達が身を寄せ、そして、住み着くようになっていた。
街にいると文句を言われる者も、このゴミ捨て場ならば文句を言われない。
そういった者にとっては、そこに行き着くしか無かった。
彼らはそのゴミ捨て場に住居を構え、そしていつしか小規模な「町」となっていた。
リオウも、そんなスラム街の住人の中の1人だった。
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幼い頃、このゴミ捨て場に捨てられた。幼いリオウはそのままゴミの中で死んでいくんだと思った。
しかし。このゴミ捨て場では皆、互いに敵であり、仲間だった。
何も出来ない幼いリオウを助け、育てる者がいるのは自然な事だった。
そしてリオウはある者に育てられた。
ところで、この街でも生きてゆくには何かしらの仕事をしなければいけなかった。
この街にある仕事は様々あるが、大きく二つに分けられる。
国からの汚れ仕事の依頼か、誰かから奪うという犯罪か。
リオウを助けた者は、国からの汚れ仕事を請け、生計を立てていた。
そのため、リオウは物心つく頃からその手伝いをする様になっていた。
そして今は。
彼を助けてくれた人は死んでしまい、彼は一人で生きてきた。
国からの汚れ仕事をこなす事によって、、、、、
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この街はではいくつかの組織に分かれていた。
その方が安全だし、恩恵も受けられる。
しかし、リオウはどの組織にも属していなかった。理由としては、
1、育ての者が組織に属していなかったこと2、組織に属さずとも生きてこれたこと
3、一人でいた方が気が楽だった事
つまりは、楽だったのだ。一人でいた方が。
×××「なあ、リオウ、うちの組織に入れよ。お前だったら直ぐに幹部になれるぜ?」
話しかけてきた男の名前はジョウイ。自分と同年代で、数少ない友人の一人だった。
組織に属さないと言っても、何人かとの人間関係は持っていた。
リオウ「そうだな、、、そのうちな。」
組織への勧誘は常にあった。その勧誘は全て、曖昧にして流していた。
何となく
勧誘に対し乗る気が更々無かったとしても無下に断るのは良くない、と思っていたからだ。
ジョウイ「ちぇっ、お前を組織に入れたら俺の株も上がるってのにな。」
ジョウイが口を尖らす。
彼はそうやって自らの利益のために勧誘している、と悪者ぶるが、俺からすると"リオウのメリットになるから"、"リオウを助けたいから"、勧誘している様にしか見えなかった。
、、、ジョウイは良い奴なんだ。
リオウ「すまんな」
朝の挨拶程度の会話を交わし、二人で街を歩く。
今日はお互いに仕事が無く、暇だったらこれから酒を飲みに行こうぜ、と二人でぶらぶら酒場まで行く道中。
ジョウイ「あん?何の騒ぎだ?」
ジョウイが何かを見つけて声を上げる。
見ると、道の真ん中で数人の男が集まって誰かを囲んでいるようだった。
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通りがかりにその男達を見ると、一人の少女を囲んでいた。
女の身なりはキチンとしていて、髪の手入れもされている。指先も綺麗。
そんな女がこの街に入ればこうなる事は自明の理。
腹を空かせた猛獣の前に肉を置くようなもの。
肉は瞬く間に食われてしまうだろう。
、、、、バカな女だ。
、、、この街にはいくつかのこの街だけの決まりがあった。
1 強い者が弱い者を従える
2 騙すより騙された方が悪い
3 全てが自己責任
4 悪とは自らを正義と認識しているものである
だから、誰かがトラブルに巻き込まれたとしてもそれを助ける者はいないし、助けようととする正義感はこの街では害悪に他ならない。
全て自己責任。この街では良くある事。
トラブルに巻き込まれた方が悪い。
現にこの状況を多くの人が見ているが、この女を助けようとしている者は誰一人としていない。
この街に無防備でやってくる方が悪い。
今こうなっているのは、この女が悪い。
リオウもまた、いつものようにそこを通り過ぎようとした。
、、、したのだが。
その女の顔を見た瞬間。
リオウは瞬く間に男達をのしていた。