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〜今日から異世界生活、日常から非日常へ〜その9

 森沿いを通り、木こり小屋に寄り、村の広場まで帰ってきた。

 途中カーズが木こり小屋で薪を籠に詰めていた、家を出た時に微妙そうな顔をしていたのは、お使いを頼まれたからだろうか。

 アイザックとカーズの家は、広場に帰ってくる道の途中にある、カーズとは家の前で別れたが、アイザックはどうやら教会まで着いてきてくれる様だ。

 ユチェとは広場で別れた、こちらに向かい、小さく手を振っていた。


 教会に着いた時には、もう陽も沈みかけていた、空は澄んでいて、夕陽が綺麗だった。

 教会に入ると神父様が出迎えてくれた、アイザックが神父様に、何やら話し始めた、今日の事の報告でもしているのだろうか。

 一通り話し終わったらしく、アイザックがこちらに手を振り、教会を出て行く。


「ヒロ」


 アイザックに聞いたのだろう、神父様に名前を呼ばれて手招きされた。

 そちらに行くと、神父様は自分を指差し、フロイドと名乗った、フロイド神父か。

 フロイド神父は続いて教会の奥の部屋の前まで行って、こちらを手招きしている。

 部屋の前まで行くと、ドアを開けて、こちらと部屋を交互に指差した。

 この部屋を使っても良い、と言ってくれているのだろうか、部屋の中には簡単な机と椅子、それにベッドがあった。

 学生寮の一室から、クローゼットを無くして、ちょっと狭くしましたみたいな部屋だ。


 ここを使って良いと言うことは、どうやら、教会で寝泊まりしても良いと言うことだろう。

 少なくともこの教会で信仰されている宗教は、困っている人には手を差し伸べ、助けてあげなさい、と言うような、善性の高い宗教の様だ。

 期待はしていたが、正直に言って助かる。

 この世界には一切のあてがなく、言葉も分からず、知識もないのだ、放り出されていたら、遅かれ早かれ、ほぼ確実にゲームオーバーコースだった。


 フロイド神父は続いて隣の部屋に向かう、確かここは、シスターが服と靴を取ってきてくれた部屋だ、今度は自分と部屋を指差した。

 ここはフロイド神父の部屋なのだろう、ドアを開けて中を見せてくれた。

 この時代のワンルームといった具合の部屋だ、キッチンなんかは無いが、食卓的なものはある。


 教会には裏口があるようで、そこから教会の裏庭に出られるみたいだ、フロイド神父が裏庭に出て行くので、後ろを着いていく。

 裏庭には凄く小さな小屋が2つ、今は使われていないのだろう畑、あと目立つものと言えば、大きい木が立っている。

 紫色をした、大きいブルーベリーの様な実がちらほら成っている、果物の木なのだろうが、森に生えていたものには成っていなかった、違う種類みたいだ。


 小屋の片方は物置だった、クワやカマ、籠に麻袋の様な物、ホウキ、陶器の入れ物、まぁゴチャゴチャしている、余り使われていないのだろう。

 もう片方はと言うと、上の部分に丸い穴が空いた、大きい木箱が置かれていた、穴の周りには、同じ様に切り抜かれた獣の皮が打ち付けられており、大きい箱の上に置かれた小さな木箱の中には、薄い葉っぱが何枚も重ねられていた。


 これはもしかして、汲み取り式のトイレなのではないか。

 その割には小屋の中は嫌な匂いがしなかった、何か匂い対策をしているのだろうか。

 葉っぱの匂いを嗅いでみる、少し柑橘系の香りがするが、これだけでここまで変わるものだろうか。

 昔に田舎の方で見た汲み取り式のトイレは、かなり匂いがキツかった記憶がある。

 この世界特有の技術が使われているのかもしれない、匂いを打ち消す魔法とかだろうか。


 フロイド神父に着いて教会の中に戻る、丁度そのタイミングで正面口から人が入ってきた、シスターだ。

 シスターは腕に籠を下げて、手には鍋を持っている、そう言えば、シスターは教会に住んでいる訳ではないようだ。

 教会にある部屋は全て案内されたはずだ、自分の部屋らしき部屋は、しばらくは使ってなかったのだろう、埃がうっすら溜まっていた。


 シスターはフロイド神父の部屋に入っていった、こちらもそれに続く。

 どうやらシスターは食事を持ってきてくれたようだ、鍋の中には蕪らしきものと、肉をぶつ切りにした様な物、葉野菜の類であろう物が入っていた。

 シスターが、籠の中から陶器の皿をテーブルに並べてそこに注いでいる、籠の中には他にキツネ色をした丸い物が入っていた。

 あれが主食なのだろうか、パンと言われればそんな気もするが、表面がなめらかな菓子パンみたいだ。


 シスターが椅子を引いてくれたので、椅子に座る、ありがたいのだが、そこまで親切にされると、逆に悪い気がする。

 しかし、用意された食事は二人分だ、シスターはどうするのだろう、と思っていると、シスターが部屋から出て行ってしまった。

 シスターは別に食事を取るのだろうか、何か理由があるのだろう。


 フロイド神父が胸の前で手を組み、何やら言いながら目を瞑っている。

 食事前に祈りを捧げているのだろう、こちらの世界でもそう言ったものがある様だ、特別神様を信じているわけではないが、真似をして目を瞑っておく。

 祈りの言葉が終わった様なので、目を開けると、フロイド神父がこちらに頷いた、では頂こうと言うことなのだろう。


 異世界で元世界の料理を作って、それを振る舞うのは良くあった展開だ、自炊の腕に自信があるわけではないし、この世界では材料面で問題があるものの、これも現代知識を活かせる所なのではないか。

 なにはともあれ、まずはこちらの食事を頂く、主食の方は、おそらくパンの様な物なので、スープを飲んでみる。


 なんだこれ、普通に美味しい、少なくとも自分の作るものよりは美味しい。

 肉の油の甘みは感じるのに、獣臭さは無いし、肉の旨みと野菜の甘さや、ほんのり感じる苦さが程よく調和している。

 蕪もどきはホロホロと崩れる様に柔らかく、スープがしっかり染み込んでいるし、小松菜の様な葉野菜はシャキッとした歯応えに、程よい苦味が良いアクセントになっている。

 肉は柔らかめの食感で楽に噛みきれる、肉汁がジワっと溢れて、スープと混ざり合い、とても美味しい、パンにも手を伸ばす。


 パンの方は予想外だった、これはパンのようでパンじゃない、まず、食感が凄くモチュモチュしている、しっとり食感を売りにしているパンに近いかもしれない、そして、味が完全にお餅だ。

 総合的にみて、パンと言うよりは、遥かにお餅の方が近い、パンに近いのは見た目くらいだ。

 これはこれで美味しい、お餅程の密度感はないが、その分噛みちぎり安いし、伸びたりもしない、これなら喉に詰まりやすいと言う事もないだろう。


 どうやら自分の腕では、この世界で現代知識を使った料理は、あまり活用出来そうにないみたいだ。

 もしあるならば、異世界のスイートなんかも食べてみたいものだ。

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